再動の女体研究同好会
勝負を終えて、一週間が経とうとしていた。
自宅謹慎を終えて、普通に授業を受けれるようになっていた。いまだ、授業態度を評価してもらうファイルを教師に提出しなければいけないのが、面倒だが退学にはなりたくないので、真面目にこなす。
そういう事情もあって、帰宅する時間は遅くなり、部活動が始まる時間となっていた。グラウンドからは運動部の掛け声が聞こえてくる。何処かの教室からは、
「オレのターン!」
という利明の声が聞こえてくる。今日もテーブルゲーム同好会は絶賛活動中らしかった。
健吾は玄関へと向かうと、そこから正門を確認する。仕事とはいえ、命令に従う事は大変だという事を教えてくれる光景が広がっている。
正門の前には、黒いリムジンが停まっており、黒い服を着た鬼瓦グループの使いは自分が出てくるのを待っている。これは、剛三がよこした迎えで、これで鬼瓦邸の道場まで来いという意図があるらしい。
剛三が前に言っていたが、オレは執行猶予の身で逃げる事は許されない。その行動も何処かで監視されているらしいのだが、本当かどうかは分からない。
剛三の真意は分からないが、正門からあんな黒服に囲まれて、車に乗せられたら学校中の噂になってしまう事は間違いない。生徒会長を殴り飛ばして停学処分になった事で、嫌な意味で注目の人物になってしまっていた。これ以上悪名をとどろかせるのは勘弁して欲しい。
剛三の稽古は厳しく、中学時代の練習がいかに生温いものか思い知らされるものだった。だが、稽古は実に効果的で目に見えて、成長が実感できる。だから、厳しい稽古はそれほど苦ではなかった。一番の苦はあの黒服達への対処であった。
下駄箱にあるローファーを取り出すと、それを抱えて職員室の向かいにある勝手口に向かう。そこから中庭へと飛び出す。
中庭を抜けて、学校からの脱出を試みる途中、何処かで見た事のあるグラビア写真集と遭遇する。その写真集のページはバッチリ開かれており、少女の悩ましい水着姿が丸見えになっていた。
「なにやってんだ、誠」
草むらの茂みに向かって、呼びかけると、その逆の茂みから誠が姿を現す。思い切り間違っており、バツが悪い顔をしながら、誠の方を向く。
「健吾なら分かると思いますが、会員の勧誘です」
「おいおい、女体研究同好会は解体処分だろ。会員なんて集めてどうすんだよ」
呆れた顔をしていると、茂みからもう一つ人影が現れた。
「健吾は知らないのかしら? 女体研究同好会が設立できないのは、今年一年間だけですわ。つまり、来年には設立のチャンスがあるって事よ」
茂みから出てきたのは、友里だった。一緒になってこんな事をやっているのかと思うと、何となく哀れに思えてしまう。
「ちなみに、オレは会員になる気はねーからな」
最初に釘を打っておく。あんな同好会は無いほうがいい。それは、健吾の中では変わらぬ思いだった。
「駄目です。絶対に逃がしませんから。鬼瓦グループの総力を挙げて、健吾を確保し無理矢理にでも参加させます」
誠の目は本気だった。彼女はやるといったら、やる女だ。
「でもよ、オレはあくまで頭数合わせだろ? どうして、そこまでして入会させようとするんだよ」
健吾の問いに、誠は顔を俯けてモジモジし始める。
「今度は、可愛い格好をした私を見てもらいたいし……」
突然の乙女モードに、鼻血が出そうになってしまう。
「はいはい、イチャイチャするのもいいけど、私が勝つって選択肢は無いのかしら?」
「友里は、健吾がまた負けても、私の願いを聞いてくれるんでしょ?」
友里は苦々しい表情をするものの、否定はしない。
「誠の頼みなら、仕方が無いわね。私は無理矢理、相手に関係を求めるのは好きじゃないの。でも、次の勝負までに私に惚れさせて見せるわ」
何だか、嫌な勝負がこちらで繰り広げられていた。
「健吾は、それでも入会しないって言うの?」
「……オレが入会したら、自分に合うサイズの服も買っとけよ」
入会すると明言する事は避けておく。だが、その答えだけで十分だったようで、誠は満面の笑みで、健吾にくっ付いてくる。
「健吾なら、そう言うと思ってたよ。あまり表には出さないけど、結構スケベだしね」
大きなお世話だと心の中で突っ込む。
グラビア写真集を拾った事から、始まった出来事は自分を大きく変えてくれた。好きな女性が出来た事、剣道を再開する切っ掛けを得られた事。あの時、写真集を拾っていなければ、退屈で、つまらない生活を送っていたに違いない。
自分は究極の選択で、どうやら最善の選択が出来たようだ。
貴方はグラビア写真集が落ちているのを見つけたら、拾いますか? それとも、通り過ぎますか?
以上で『輝け! 女体研究同好会』はお終いです。
最後まで御覧になって下さった方々に感謝を。




