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輝け! 女体研究同好会  作者: 鮎太郎
第四章 漢を賭けろ
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その後の真実

「ここはまず、本人に聞いてみるのが一番である」


 剛三は健吾に肩を貸して、立ち上がらせる。それでも、健吾の足に力は入らず一人の力で立つ事が出来ない。


「健吾……」


 友里と誠の視線が集まってくる。そして、唇を震わせながら言葉を発する。


「剛三さん、オレ、もっと強くなりたい」


 震えた声が全員の耳に届くと、一斉に首を傾げる。何となく話が噛み合っているようで、噛み合っていない。


「健吾、貴方は一体、どうして泣いていたの?」


 堪らず友里が健吾に確認する。


「オレ、分かったんだよ。剣道を始めた理由こそ、兄弟に馬鹿にされたくないって事だったけど、いつしか、強い相手に勝って、自分が強くなる事が目的になってたんだって。だから、どんなに辛い練習も乗り越えられた。でも、多少強くなって、勝つことが当たり前になっていた頃に、こっぴどく負けてオレは逃げたんだ。でも、この勝負で分かったんだ。オレ、剣道がしたい。もっと強くなりたい!」


 その場にいた全員がようやく理解した。健吾は誠と別れる事が悲しいのではなく、剣道で負けた事が悔しくて泣いていたのだと。


「……本当に、いい加減で、気の利いた事が言えない人ですね」


 誠はそんな健吾に対して、微笑んでいた。それとは対照的に、剛三と友里はかなり引いていた。あの発言からどうしてそんな発想に行き着くのか、理解できないといった様子である。『恋は盲目』とはよく言ったものである。


「……ふ、ふむ。剣道に懸けるその心意気や良し。本来なら、事前の約束を変更する事は、ありえぬ事だが、ここは誠と友里穣の意向を考慮するのである」


 その言葉に友里の表情が若干和らいだ。


「健吾くん、うぬに再戦のチャンスを与える。誠の親友である友里穣たっての願いを無下には出来ん。その間、うぬには執行猶予を与える事にする」


「父上!」


「勘違いするな、誠。ワシはこの男との交際を認めた訳ではないのである。あくまで再戦の機会をやったまでである。どうせ、また友里穣にコテンパンにされるのが落ちじゃわい」


 健吾は呆然とその言葉を聞き続ける。まだ、チャンスがあるという事に、胸が熱くなってくる。


「健吾くんには、次の勝負まで執行猶予として、ワシの元で剣道の稽古を受けなさい。今日放った突きを完璧なものにしてやるのである。それに、太刀筋もまだまだ荒い。磨けば光るに違いないのである」


 自分に対して、嫌悪に近い感情を持っていたはずの剛三が、こうして自分を認める事は素直に嬉しくあった。それに、まだ剣道が続けられるという事が、本当に嬉しかった。


「剛三さん……、ありがとう、御座います」


 剛三に肩を借りたまま、頭を垂れる。


「さて、伝えるべき事は伝えたし、ワシは退散するかのぉ。誠、彼に肩を貸してあげなさい。彼は今日から一時的に家の門下生であるからな。それぐらい許してやるわ」


 剛三は健吾を誠に託すと、道場を後にする。

 結局、今回の勝負で勝者の名を上げることは無かった。勝負は終わったと判断した友里は面を取り、一息つく。


「良かったわね、会長。作戦が上手く行ったみたいで」


 作戦という言葉に、ピクリと反応してしまう。先程のやり取りは、既に決まってきた事なのだろうかと、疑ってしまう。


「作戦?」


「はい。昨日、健吾が帰ってから、友里と二人でもしもの時にどうするかを話し合っていたのです」


 誠と友里の用意周到さには、感心を超えて呆れてしまう。二人で口裏を合わせていたという事なのだろうか。


「じゃあ、今日のは、全て……」


「全てじゃないわ。本来の作戦では、私は貴方に肩入れするつもりは無かったわ。さっきも言ったけど、あの突きは見切れなかったわ。見事でしたわよ」


「本来の作戦は、私が自分の気持ちを父に伝える事でした。私が自分の意見を伝えれば、父の考えも変わると思ったのです。ですが、健吾が最後に放った突きが無ければ、父の考えを変えることは難しかったようです」


 正直、あの突きがそんなに凄いものだとは思えない。ただ、我武者羅に突きを放っただけで、何をどうしたのか、いまいち覚えていない。


「オレ、嬉しいよ。誠と一緒にいる事ができるし、剣道も習えそうだ。今回貰ったチャンスは、両方の希望を繋いでくれた。二人の助力が無かったら、きっと、両方失っていたと思う。本当に感謝している」


 何だか、また目頭が熱くなってきた。まだ、面をしている為、目を擦れないので必死に我慢する。これ以上、二人の前で失態を晒す訳にはいかない。


「私は感謝なんてされないわ。次の勝負、貴方を完膚なきまでに叩きのめして、誠は貰う予定だからね」


「絶対、そんな事はさせないね。誠はオレのモノだからな!」


 二人の言い合いを聞きながら、誠は顔を赤く染めていた。

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