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輝け! 女体研究同好会  作者: 鮎太郎
第三章 お別れの女体研究同好会
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口付け

 少し顔を俯かせると視界に、眠っている友里の姿が入ってきた。レースクイーンの姿で横になっていると、ミニスカートから覗く太ももがいつも以上に際どく見える。もうちょっとで下着が見えそうな絶妙な状態だ。

 その姿を見ていて疑問が湧いてくる。


「集めてた服って、誠が着たかったんだろ? でも、サイズはどう見ても……」


 それから先は誠があまりにも気の毒なので、言葉に出来なかった。

 誠の身長は百五十センチ程度、それに対して友里の身長は百七十センチ程度。その友里が服を着ているという事は、誠にとっては大き過ぎるはずだ。


「小さい頃から、集めていたの、衣装。大きくなった時の事を考えてのサイズだったのだけど、ねぇ?」


 つまり、友里の身長とは誠の理想であって、現実はあまりにも残酷であるという証明になっていた。胸のサイズも、身長も、お尻の大きさも、すべて友里に敵っていない。ウェストのスレンダーさなら、勝っているかも知れないが……。


「なんと言うか、居た堪れないな」


「そこはフォローしてよ。これからが成長期だから、大丈夫とか」


 すまないが、高校二年生ならもう成長期終わってるだろ。そう言いたかったが、あまりにも誠が可哀想だった。


「まぁ、頑張れ」


「本当にいい加減。でも、健吾って胸が大きい女の子の方が好きでしょ? いつも友里

ちゃん事見てたし、グラビア写真も胸が大きな娘がお気に入りでしたよねぇ?」


 意地の悪い声が自分を責めているような気がする。

 それとなく、友里を盗み見していたのが、バッチリとばれていて何か言い訳をしなくてはいけない気がしてきた。色々な意味で、危険な相手だからな。


「いや、アレは、その、誤解だ」


「ほんとに嘘が下手。だからさ、健吾が友里ちゃんを好きになる前に、行動で示す事にしたの」


 本気で勘違いしているようだ。友里の事はなんとも思っていないし、正直あいつの過去にはかなり引いてしまって、近づきがたいぐらいだ。確かにあの体つきや綺麗な顔は魅力的で随分と見つめてしまうことはあった。

 とりあえずは、その誤解を解かなといけない。


「誠っ! それは違っ!」


 弁解しようと、つい誠の方を振り向くと、唇に暖かく柔らかい感触を感じた。目の前には誠の大きな顔。この生まれて初めての感触。唇と唇が触れ合う、口づけというものを交わしてしまった。


「お、お、お、おまっ!」


「へへへっ! ご馳走様でした」


 誠はそう言うと、背中から離れた。背中から柔らかな二つの物体が離れたのは、少々残念だったが、いつまでもそんな事はしていられないので、仕方がない。

 健吾の背後から、誠が上着を着る音を聞きながら終わるのを待った。


 本当にキスをしてしまった。冗談でも、夢でも、幻でもない。唇に残る確かな感触が、現実だと物語っていた。事故なのか、それとも奪われたのか、いまいち判断に苦しむ状態ではあったが、それでもキスしたのは、確かだった。


「もう、こっち向いても平気ですよ」


 健吾が振り向くと、男子の制服を纏った誠が立っていた。

 顔が随分と赤いようだが、酔っているのか、照れているのか判断に困る。先程までは顔を合わせていなかったから、平静を保てた。だが、こう面を合わすとなんともいえないこそばゆさを感じる。

 誠も同じ気持ちなのか、妙にそわそわして落ち着きが無い。それに、視線が宙を泳いでおり、視線が合う事も無い。


「あ、健吾、もう夜も遅いですし、私達はこれで失礼します」


 確かに窓の外は真っ暗で、かなり遅い時間である事が窺える。だが、未だに眠っている友里の事が気になる。特にレースクイーン姿の彼女をそのまま帰しても、ちゃんと家に辿り着けるか色々な意味で心配である。


「友里なら心配要りません。家の者に責任を持って運ばせます」


 気が付けば、誠の口調はいつもの丁寧で抑揚の無い口調に戻っていた。こうして見ると、本当に女性だったのか、疑問に思ってしまう。


「だが、その……、家の外に連れて行くのがきついんじゃないのか?」


「大丈夫です! これくらいは私でも運べます! 健吾は彼女に触れたいだけなのでしょう、汚らわしいです」


 厚意で言ったのだが、そこまで言われると少々腹が立つ。誠なりの嫉妬なのだろうが、一言くらい多い気がする。


「分かったよ。家の外まで付いていくくらいならいいだろ?」


 誠はそれくらいなら、と納得した。そして、携帯を取り出し誰かと会話を少し交わした後、通話を終え携帯を仕舞う。


「すぐにでも、家の者がこの家に到着します。早く外に行きましょう」


 誠はよろよろと友里を背負う。かなりの身長差があり、苦しそうに見えるが、約束どおり手は出さない。誠の後を付いて歩くだけだ。

 何とか家の外まで来ると、既に黒いリムジンが停車していた。誠の姿を認めた車の運転手らしき人物が近づいてきて、友里を受け取る。そして、後部座席に友里をそっと横たえる。


「それじゃあ、健吾。明日からの自宅謹慎、真面目に過ごすのですよ」


 誠がそう言って微笑むと、リムジンの後部座席に座り扉を閉める。


「うるせーよ。最後まで口の減らない奴だぜ、全く」


 遠ざかっていくリムジンを眺めながら、健吾は呟く。きっと、もう二度と会う事の無い誠をへ向かって。

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