さよなら会
「そ、そんな事はありません。大体、何処にそんな証拠があると言うのですか?」
「証拠なんて要らないわ。その様子を見れば誰でも気付くわ。まぁ、約一名鈍感なのがいるけどね」
やはり、こういう時は恋話で盛り上がるのが定番である。声を聞く限り、どうやら誠に好きな人がいるらしいが、あの冷血漢がどんな相手を好きになったのかは、少々興味がある。とはいえ、誠の交友関係を考えると友里ぐらいしか思い浮かばない。
「うおーい。飲み物持って来たからドアを開けてくれよ」
「ちょっと待っていて下さい」
誠はチャンスとばかりに健吾の言葉に返事をする。友里の追撃から逃れた誠は扉を開いて、健吾を招き入れる。
「おーっし! 恋話はそこまでだ。さっさとお別れ会を始めようぜ!」
「健吾! 君はさっきの話を聞いていたのですか!」
誠が珍しく動揺しているので、ちょっと気が晴れた。してやったりな顔で微笑んでやると、誠は顔を赤くして俯いてしまう。生意気な先輩だと思っていたが、こうして見れば可愛いものである。
紙コップにジュースを注ぎ、お菓子の袋を開けてテーブルに並べる。各々は紙コップを手に取る。
「それじゃあ、会長さんに乾杯の音頭をお願いしましょう!」
予想していなかったのか、誠は慌てたように健吾に視線を送る。その視線は助けてと言っているようだったが、どう考えても誠の役目だった。
「いや、ここは先輩の出番だろ。ほら、一つビシッと決めてくれよ」
誠は友里が好きっぽいから、少しでもいい所を見せてやろうと、ちょっとした老婆心からそう発言した。
「仕方がありません。それでは一言だけ……、会員集めに尽力してくれてありがとう御座います。今までお疲れ様でした。乾杯!」
実に面白みの無い平凡で堅実な音頭だったが、これはこれで誠らしい。盛り上げるのは、こちらの仕事という訳だ。
「かんぱぁ~い!」
「かんぱいっ!」
大声を出して、手に持っていた紙コップを高く掲げる。それから各々好き勝手にお菓子を食べたり、ジュースを飲んだりしてお別れ会を満喫する。
健吾はがむしゃらに、スナック菓子を口の中に放り込み、ジュースで胃の中に流し込んでいく。明日から停学処分の自宅謹慎かと思うと、飲み食いしないとやっていられない。それに、もう一つ気に入らない事がある。
健吾はちらりと横目で談笑を繰り広げる二人を見る。やたら女体トークが盛り上がっており、話についていけない。
「ちなみに、獣耳はどうかしら?」
「私はありだと思います。それを付けることによって、魅力が増すのですから当然です」
「んー……、付け耳はどうかと思うのよねぇ。本物じゃないとつまらないのよね」
「でも、本物が生えてる人なんて、いないですよね?」
「それでも! 本物がいいのよ! 耳がピコピコ動くのがいいんじゃない!」
「それも、一理ありますね」
「でしょ?」
やたら意気投合している二人をみると、自分が完全に蚊帳の外で面白くない。それに、獣耳とかちょっと理解を超えている。アレはファンタジーだからいいんだろ。本当にあったら恐いだけだと思うのだが、どうだろうか。
そんな会話に混ざれない時間が過ぎていくと、唐突に部屋の扉が開いた。
開いた扉の奥には正座している矢理乃の姿があった。どうして廊下で正座をしているのか疑問は尽きないが、嫌な予感しかしない。先程まで盛り上がっていた二人も、今は沈黙して矢理乃を眺めている。
矢理乃は何も言わずにそっと、タバコの箱より少し小さめの箱を部屋に置く。その箱にはうすうすという文字が書かれている。健吾はその箱に何が入っているのか察してしまう。一体、何のつもりでこんなものを持って来たのか理解に苦しむ。
「ゆっくりしていけ。もし、足りなかったら予備もあるので、呼んでくれ」
頭の悪い姉が変に場の空気を悪くして、扉を閉めて退室する。健吾は扉の近くにある箱を手に取るとそのままゴミ箱に放り投げる。箱は見事な放物線を描いてゴミ箱に直撃する。
「ねぇ、今の箱何だったの?」
「うすうすとか書いてありましたね」
友里がわからないのはいいとして、誠がわからないのは問題があるような気がする。高校生なんだから、いざという場面では使う事になるだろうし。
「あの馬鹿姉の事は忘れて、お別れ会を楽しもうぜ」
そう言っていると、扉の奥から矢理乃の文句が聞こえてきたが、関係ない。こういう時は無視するに限る。二人は首を傾げていたが、そのうちその事を忘れて女体トークが盛り上がる。
「ほら、健吾もこういう話好きでしょ? こっちで一緒に盛り上がりましょうよ」
「何言ってやがる! オレは別にそういう話は好きでも何でもねーよ!」
友里の誘いを真っ向から断る。女体研究同好会に所属していたとはいえ、別にそういった話が好きな訳じゃない。
「ブーッ! いいじゃない付き合ってくれても! 乗りが悪いわねぇ」
友里は不満を口にするが、健吾としては冗談ではない。まるで自分のせいで場の空気を悪くしているかのように感じてしまう。そんな時、再び部屋の扉が開けられた。
健吾はまたかと思いながら、開いた扉の方を見る。そこには姉ではなく、妹の由美子が無表情なまま正座していた。どうして、矢理乃と同じく正座しているのか、そこが疑問だが深く考えても仕方がないような気がする。
「……ねぇ、健吾、誰かしら?」
友里が耳元で囁いてくる。誠もチラチラとこちらに視線を送ってくる。由美子と二人は初対面だった事に気が付いた。
「ああ、妹の由美子だ。あまり表情は変わらないが中々にしたたかな奴だ」
二人は健吾に妹がいることを知っていたので、納得してもらえたようだ。さが、先程の発言で、由美子の眉がピクリと反応したのが気になる。もしかしたら、腹を立てているかも知れない。
「……つまらないものですが」
由美子はそう言うと、分厚い本のようなものを部屋に置く。ハードカバーで結構な大きさがあった。健吾はその本に見覚えがあったがどうにも思い出せない。
「……それではごゆっくり」
由美子は正座したまま扉を閉める。部屋には分厚い本だけが残される形になった。




