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輝け! 女体研究同好会  作者: 鮎太郎
第二章 揉め事
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生徒会の思惑

 校舎の三階にある生徒会室へと到着する。女生徒が扉を四回ノックすると、中から男性の返事が聞こえてきた。


「それではお入り下さい」


 女生徒に促されて、三人は生徒会室へと入っていく。

 生徒会室の一番奥の少し立派な机に、黒ぶちメガネをかけた男子生徒が座っていた。机に両肘を突いて、手を組んでいる。その大柄な態度はかなり鼻につく。青色のネクタイをしている所から、恐らく生徒会長なのだと判断した。入学式の時に見たような気がする。


「さて、先ずは出向ご苦労。ここに呼びされた理由は分かっているかな?」


 まるで、三人を試すような物言いをする。そんな事分かる訳が無い。呼び出しの理由を聞いていないのだ、無茶な事を言う。


「同好会に何か不備でも? 先日の乱闘事件に関して私達同好会に責任はない、という事だったはずですが?」


 友里が先手を打つように自分達には非がない事を主張する。誠もそれに対して特に言う事が無いのか、黙って状況を見守っている。


「そうだね。公式にはそうなっているが、君達はどんな噂が広まっているか知っているかな?」


 ここにいる全員が知っている事だ。というより、学校内でその噂を知らない生徒はいるのだろうか。


「当然。竹刀を持って暴れまわったのは、オレだって言うんだろ?」


「そうだ。古代 健吾君。中学の頃、剣道の全国大会に出場した事を知っている生徒は、

君が思っているより多いのだよ」


 事実なのだから、あまり強く反論できない。こういう時は誠か友里にでも任せておくのが、ベストだろう。


「健吾は全国大会に出場したらしいけど、それと今回の件は関係ないはずよ?」


「そうだな。それより重要なのは、噂の真偽より、噂が広がっているという事実だ。こんな噂が流れている中、本当に会員を集められると思っているのか?」


「何言ってんだよ。後、一週間あるだろ! 何が起こるかわからねぇだろうが!」


 生徒会長の言葉に、健吾はカッとなってしまう。つい、言葉に力がこもる。


「おお、恐いな。暴力には訴えないでくれたまえ」


 生徒会長は大袈裟に怯えてみせる。その演技は健吾の神経を逆撫でる。


「健吾、静かにしていて下さい」


 誠に宥められ、口を噤むしかない。誠がどう出るか見守ることにする。


「つまり、会長は期限内に会員を集めるのは、不可能だと言うのですね?」


「その通りだよ。君は物分りが早くて助かる。期間ギリギリまで教室を占拠されるのは、こちらとしては困るのだよ。次に入る部活動が決まっている」


 確かに会室の片付けは一日程度では終わらないだろう。六月に別の部活に明け渡すとなれば、前もって片付けなれば間に合わない。


「……それだけではないでしょう?」


 友里が生徒会長に突っ込みを入れる。


「察しがいいな。その通りだよ。君達女体研究同好会に対しては、以前から苦情が多かった。同好会として相応しくない、空き教室をどうして同好会が使うのか。そして、乱闘事件の後、さらに苦情は増した。特に同好会の存在が暴力事件を招く恐れがあり、生徒達は不安がっている」


 確かに、そんな苦情が来ているのであれば、生徒会としては動かざるを得ないのは理解できる。


「ですが、空き教室について、こちらの申請を受け入れたのは生徒会のはず。そこはそちらで対応してもらいたいのですが?」


「鬼瓦財閥の一人息子の願いを、そう簡単に断れる訳がないだろう。だが、その事実が余計に生徒の反感を買っている」


 鬼瓦財閥の名前が出た瞬間、誠の表情が険しいものとなる。


「私が空き教室の申請を出した時、鬼瓦財閥の名前は使っていません! それは言いがかりです。そちらが許可したのではないですか! 納得できません」


 誠にしては感情を押し殺せていない。自分の感情をこうも前に出した発言は、初めて聞いた。


「君のバックには常に鬼瓦財閥が付いているのだよ。それが嫌だというのなら、鬼瓦の姓を捨てて見せることだ」


 誠もそれを理解しているのか、奥歯を噛み締めたまま、黙っていた。その姿はあまりに悲痛でこちらから、口出しをしなくては気が済まなかった。


「待ちなよ、会長さん。今まではそちらで押さえて来れたんだろ? そして、オレの存在で苦情が増えているのなら、オレが同好会を辞めれば済む話だ。だから、後一週間時間をくれねぇか?」


 健吾は必死に生徒会長を説得する。後、一週間だけ。せめて約束の期間だけは、誠にくれてやりたい。自分が原因でその期間がなくなるのは、我慢ならない。


「それが、人に物を頼む態度かね?」


 生徒会長は手を組んだだま、ニヤリをいやらしい笑みを浮かべる。


「そうだったな。オレは同好会を辞めるから、期限まで待ってくれ」


 健吾はその場で膝をつき、正座をするとそのまま土下座をする。


「健吾……」


「健吾、やめて下さい」


 二人の言葉を無視して、健吾は土下座を続ける。自分がこうする事で、可能性が出るなら安いものだと考えた結果だ。


「ふん。六月から別の部活が使う事を許可した。何をしてももう遅い」


 その言葉に、健吾は立ち上がり、ズボンに付いた埃を払う。ただ、謝らせて気分よくなりたかっただけだったようだ。本当に生徒会長なのだろうか、人間として随分と腐っている。


「もう決定事項で、覆す事はできん。早く教室を片付けろ」


 既に命令口調で、こちらの言い分は聞く気がないらしい。土下座した分だけ損だった。


「しかしっ! それはあんまりでは……」


「五月蝿い。元々、女体研究同好会などという不埒な同好会、設立してもらいたくなかったのだよ。だけど、鬼瓦財閥を敵に回すことなんて出来だろ? だから、チャンスをやったし、空き教室の使用許可もやった。それ以上に不満があるのか? やはり、財閥で育ったお坊ちゃんは違うよなぁ! 大体、腹立つんだよ、いつでもそうやってすました顔してるのがさぁ!」


 誠の様子を盗み見ると、屈辱に耐えるように手を握り締めて俯いた姿があった。相当力を込めているようで、手が白くなっている。体もかすかに震えており、相当我慢しているように見える。一方、生徒会長は今までの鬱憤を晴らすかのように、いい顔になっている。

 それを、片手で制止すると、健吾は一歩前に出る。


「おいおい、てめぇがチャンスをやっておいて、それを破るとは最悪な奴だな。財閥、財閥言うけど、何かコンプレックスでもあんのかよ」


 生徒会長は先程までの優越感に浸る顔から、突如不機嫌な顔へと変わっていく。


「何を言っている?」


 誠は自分が財閥の息子である事を、どう思っているかは知らない。だが、誠自身好きでその立場に生まれた訳じゃないし、それなりに苦労もしている。自分のしたい事を我慢している事を知っている。


「てめぇが馬鹿だって言ってんだよ! 結局、口に出したらバレバレだろうが。それとオレは自分の事をいくら馬鹿にされても我慢するが、他人が馬鹿にされてるところは我慢できない性質でなぁ!」


 いい終わる前に、健吾の拳が生徒会長の頬にヒットする。けたたましい音が鳴り響いているところをみると、相当派手に転んだらしい。いい気味だ。


 激しく後方へと吹っ飛んでいく様子に、後ろで見ていた女生徒は慌てて生徒会長に駆け寄る。


「あーあ、スッキリした。二人とも行こうぜ。こいつに関わっててもろくな事はなさそうだぜ」


 健吾は一人だけスッキリしてさっさと生徒会室を後にする。


「待ちなさい! 健吾! 君は何をしたのか理解していますか?」


「ちょっ! 健吾、貴方は何を?」


 後ろから聞こえてくる二人の声を無視してそのまま、会室へと戻っていった。二人も渋々といった様子で生徒会室を後にする。不満があるような二人に対して、健吾一人だけ満足した顔をしていた。

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