The invasion is foreseen~侵入を予知~
この話は編集、加筆で増えた話数です。
『生徒会』入会から3日後。
何時も通りの朝を迎えていた空河。
現在の時刻は10時。
ぼぉ~としながら壁に掛けられた時計を見つめている。
「………あぁ、寝過ぎた」
と、寝ぼけながら再度布団に入ろうとする。
が、その眠りは妨げられる。………般若に。
コンコン―――、
「………あらぁ? もう行ったのかしら? それとも、まだ寝ているのかしら? もし後者だったら………逝かせるわよ?」
最後の方はかなりドスが効いた声だ。
だが、低血圧の彼は朝に弱い。
そして寝ぼけている為、自身の危機を感じ取れない。
「んあぁ? ………眠らせろよ」
「………誰に口利いてるの?」
姿は見えないが、確実にお怒りだ。
ガチャガチャ―――。
ドアには鍵か掛かっている。
「侵入出来ると思うなよ………」
寝ぼけている為か、気が大きくなっているのが解る。
が、
「ふふ………スペアキーが無いと思ったの?」
ドアの向こうでドラ○もんが道具を出すときに流れるBGMが流れる。
「スペアキーぃ~」
声もドラ○もん風。しかも初期のだ。
「ふふ………煮られるのと焼かれるの、どっちが良い?」
怖い事を尋ねながら、
カチャ、キィィィィ―――。
鍵が開き、古くないのに古くなった扉の様な音が鳴る。
そして、般若は立っている。後ろにマジの般若を出現させ、一歩一歩布団に潜る空河に近づく。
「さて、一応選択肢があるのだけれど、どうする? 欲張って二つとかでも良いわよ?」
笑みを浮かべ、手にはフライパンと………何故か木刀。
………あれ?二つとも撲殺しか出来ないのでは?
これ程真っ黒なオーラを出しているのに、空河は声も顔を出さない。
既に夢の中に逃避したのか?
般若と化した澳町は空河の布団を掴み、剥がす。
「………フフ、賢明ね」
布団を剥ぎ取り、現れたのは夢に逃避した空河ではなく、眠気が覚めてしまい自分の言った事に後悔し土下座をする空河だった。
「………出来るなら妬いて下さい」
字が違う。
「フフ、私は規則正しい人が好きなのよ? それに、私………嫉妬が強過ぎるみたいなの」
目が………完全に笑っていない。ハイライトが消えている。
空河はベッドに額を押しつけながら、
「………勘弁して下さい」
声が震えていた。
そんな空河の願いを、
「嫌よ?」
バッサリと斬り捨てた。
この時、空河の頭の中では何故か、走馬燈が流れていた。
………あれ? 俺死ぬの?
「特別に30分折檻コースにして上げる」
特上の笑みで、地獄へのご招待。
「………お手柔らかにお願いします」
涙で布団を濡らしながら、空河は自分の短い人生を思い出していたのだった………。
3時限目。RANKⅡ教室。
授業時間中。だが、生徒達は自由に立ち、仲の良い友達同士でお喋りを楽しんでいた。
その理由は、黒板に大きく書かれた「自習」と言う二文字。
どうやら何か急用らしく、全ての教室の全ての授業が自習に変更したらしい。
皆が背筋を伸ばし、各々お喋りをしている中、鴨梨元は頬杖をつきながら溜息を吐いた。
「………自習ねぇ~」
他の生徒達は自習になった理由など考えもしないが、鴨梨はこの不自然な自習に首を傾げた。
「ん? どうした鴨? そんな顔して」
鴨梨の前に座る草島光輝は菓子パンを齧りながら尋ねる。
因みにだが、草島は違うクラスだ。全体が自習の為やって来ている。
「いや、緊急会議らしいけどさ。少しどころじゃなく嫌な予感しかしない訳よ」
胸ポケットから携帯を取り出し、凄まじい速さでボタンを押している。
「嫌な予感? ………抜き打ちテスト?」
一般学生ならばそう考えるだろう。
鴨梨は笑みを浮かべながら、携帯の液晶画面を草島に見せる。
「いやいや、これ見てよ。RANKⅣも自習だよ? しかも、どうやら会長と副会長も居ないらしい」
液晶画面はメールの本文であり、今鴨梨が言った事が書かれていた。
「『生徒会』のトップ二人が? ………てか、この相手誰? 名前「スナイパーさん」って書かれてるけど?」
画面を指さしながら尋ねる。
「あぁ、これ? これは………まぁ、友達?」
濁す。
追求すれば答えるかもしれないが、草島はそれ以上尋ねなかった。
「まぁ、お前の交友は訳解らないからな。尋ねても俺には関係無いさね」
菓子パンを口に放り込み、頭の後ろで腕を組む。
「………前にもこんな事あったよな?」
鴨梨の表情が一気に真面目なモノに変わる。
その表情を見て、草島も表情を変える。
「あぁ。確か一年前だな。どっかの能力者達がどっかの国に雇われてこの学園に来た………あの時と酷似しているな。まぁ、違うのはこんな大事では無かっただけだ」
「前回のミスは情報伝達の遅さ。そして油断だ。まさか相手にRANKⅣ相当の能力者が居るとは思わなかったしな。もしかして今回も………いや、一年前の学園襲撃で、反無能力者組織は画策したであろう無能力者を消したからな。前みたいな大掛かりな攻撃は仕掛けてこないだろうし、能力者も協力する奴は居ないだろう。敵に回したくないだろうしな。この学園を」
鴨梨は携帯の液晶を指で突きながら息を吐く。
「そうだな。来ても傭兵崩れか………怖いモノ知らずの能力者か………だな」
この学園は能力者を集めた学園だ。
その為同じ能力者に仲間意識を抱いている能力者はこの学園に攻撃はしない。
同じ境遇。同じ力。
それが見た事も無い相手に「同じ」と言う仲間意識を植え付けている。
「会長と副会長が呼ばれたのは、捕縛命令だろうな」
「………1年前の事件で排除と言う名目は消えたからな。飽く迄捕縛。不可能であれば撃破。殺しに来る相手に、手を抜くのは一番面倒で一番難しいんだけどな」
草島は苦笑する。
「人を殺す事の出来る能力を持つ者は、それを使いたくなる。試したくなる。その結果が一年前だ。大見得張って、能力振り回す奴ほど、リアルな血。リアルな死を見れば腰を抜かし壊れる。………随分な狂気と隣り合わせだな。俺等は」
鴨梨も苦笑した。
殺人能力。そう言っても間違えではないだろう。
腕を振れば、首を飛ばす事が出来る。
息を止めれば、思考を読み取る事が出来る。
目を瞑れば、相手の感覚を奪う事が出来る。
火を出せる。水を操れる。空を飛べる。
それと同時に人を殺せる。
そんな能力は、便利と感じるよりも恐怖を感じる。
簡単に人を殺せてしまう力は、相手にもそして自分も畏怖するのだ。
「………全員が能力者であれば、こんな考えは浮かばなかっただろうに」
隔てる壁は、常に厚い。
未だ見えない、能力者と無能力者との交わる道。
「全くだ」
今はまだ重過ぎる。
特別校舎。ある教室。
そこには理事長朝部寛太朗と数名の教師。
そして天下の生徒会会長様、月柏鈴葉と副会長木須学が居た。
集まる教師陣は、皆緊張した表情を浮かべている。
そんな中、朝部は口を開く。
「解っていると思うが、予知により明日0時ジャストにこの学園に侵入者が現れる。数は不明。国籍不明。能力者も居るかどうか不明。どうやら『対策装置』を使っている可能性がある」
「なッ!? 『対策装置』は完成していないのでは!?」
朝部の言葉に一人の教師が声を上げる。
『対策装置』。その対策とは能力に対してだ。民間の軍事会社が作り出した対能力者装置。表向きは犯罪に手を染めた能力者の無力化なのだが、どうもこの装置の製作にはキナ臭い噂が流れている。その為能力者や能力者側の者からしては忌み嫌う物だ。
「だから侵入する事が解ったのだ。もし、完璧な完成された『対策装置』であれば、侵入する事など事前には解らない。それに、今回は何故相手が『対策装置』を持っているかではない。どう、対処するかだ」
朝部が声を上げた教師を軽く睨む。
教師陣が一気に俯く。
対処方法。考えられる策は一つだろう。
捕縛又は撃破。
未然に防げれば良いのだが、何処に居るかも解らない相手を捜していれば、侵入日時になる。
そうなれば向かい撃つしかなくなる。
そんな中、この学園に侵入出来る相手を向かい撃つ者を決めようと言うのだ。無論、教師陣は手を挙げない。
理由は簡単。死にたくないからだ。
例え、相手が無能力者であろうとも、もしかしたら相手は死を身近で感じ、触れていた相手かもしれない。そんな相手では、死ぬ確立が一気に跳ね上がる。
そんな言ってしまえば自分から死にに行く様な奴は居ない。
教師陣が黙る中、月柏が口を開く。
「捕縛であるなら、私達『生徒会』が動きます」
「なっ!? 何を言っている!? 生徒の君にそんな事」
教師の一人が月柏の名乗りに反対する。
が、月柏は涼しい顔で言いのける。
「元々、『生徒会』の仕事に侵入者の捕縛、不可能であれば撃破とあります。それならば、私達が一番の適任かと」
「そ、それでも!!」
教師が叫ぶ。
その叫びを聞き、木須が眼鏡を上げながら尋ねる。
「では、貴方が向かいますか? 死地へ」
死地を強調する。
「なっ! ………私は………」
言葉に詰まる。
生徒がどうのこうの言ってはいるが、こう尋ねられれば「私が行きます」とは言えない。
そんな教師を見て、木須は冷静に言い放つ。
「それなら、黙っていて下さい。それに………彼女が名乗りを上げた瞬間、アナタ達………ホッとしたでしょ?」
「!!?」
教師陣全てが表情を強張らせる。
「ですから、何も言わないで下さい。どうやら、アナタ達は1年前の出来事を引き摺り、恐れているみたいですが、そんな心配などしなくても良いです。一線引いてしまいましょう。能力者と無能力者。高RANKと低RANK。下手に親身になりすぎれば、自分達の首を自分達で絞める事になりますよ?」
それは余りにも冷たい言葉だった。
例え名乗りはしなくとも、心配して教師は声を出したのだ。
その教師に対し、「アンタ等に関係無い」と言っている様なものだ。
だが、その言葉に反論も怒る事も出来ない。
事実。本当の事だからだ。
「………さて、教師の皆な各自教室に戻って下さい。生徒達が流石に不審がるかもしれません」
朝部がそう言うと、教師達はゾロゾロと教室を出て行く。
そんな中、先程声を上げた教師が木須を見ていた。
「どうしたのですか?」
木須が眼鏡を上げながら尋ねる。
教師は顔を俯かせ、小さな声で言う。
「申し訳無い」
自分が無力なばっかりに、生徒であり子供である者に任せる事への罪悪感。
だが、木須は涼しい顔で、
「そう思うなら、課題を一つ程減らしてくれませんか? 『生徒会』の仕事で多忙なんですよ」
薄く笑みを作る。
その言葉を聞き、教師は苦笑し頭を掻く。
「ハハッ………却下だ」
そして教室を出て行った。
教師陣が全員出て行き、朝部が口を開く。
「三文芝居。中々でしたね」
「態々教師も集めましたから、何かと思いましたよ」
月柏が腕を組みながら笑う。
「いやいや、彼等は優秀だ。能力者相手にも臆せず接する事が出来る。だが、それは行き過ぎてはダメだ。一線引かなければ、彼等は下手な正義を持って死地へ向かうだろう」
「その為のこれですね。私達が名乗り、教師に一線引かせる………随分なシナリオですね。先生達がこれで引くとでも?」
「ハッハッハ! だから言ったではないですか。彼等は優秀だと。既に私達の芝居など見抜いている。彼等には、何故我々がこんな芝居をしたか、その真意を理解して貰わないといけない」
「………まるで俺等が素直じゃないみたいに思われませんか?」
木須が眼鏡を上げる。
「はぁ~………まぁ、事実ですしね」
月柏が溜息を吐く。
この芝居の真意はこうだ。
「アナタ達を死なせたくない。だから、任せろ」随分な言葉を裏に隠したモノだ。
教師の勝手な行動を防ぐ為。
その為の芝居。態々回りくどい感じにしたのは、唯々恥ずかしいだけなのだが。
「さて、では作戦会議と行きますかな?」
朝部は笑みを浮かべた。
もう嫌。疲れた。大して増やしても………変わらないし。