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One-eyed  作者: 龍門 
『殺人集団』襲撃編 =Blood-stained fight=
53/60

オドントグロッサム

花言葉は「特別の存在」です。

まぁ、このサブタイは何となく話の内容に近いなって言うのをチョイスしているので、当てにはなりません。


今回はぶっちゃけ納得していません。






 死体の山。そして血の海。

 その中に立つのは3人。


 侵入者・天酉凍。

 『不死鳥フェニックス』五十嵐久太郎。

 『破壊狂デストラクション・エンスー』越智宗次。


 両腕、片足を失い、胸を撃ち抜かれた天酉。

 上半身と下半身を一時別れながらも、その場に立つ五十嵐。

 片腕を失い、そして打たれた楔により仁王立ちする越智。


 全てが全て重傷だった。


 化け物。

 そう言ってしまえば済む話しなのかもしれない。


 だが、そんな言葉で括ってはいけない。


 これは、人間と言う範疇を辛うじて超えずに居る。人間による戦いなのだから。


「まさか、あそこから回復するとは………思いもしませんでしたね………」

 天酉は顔を若干引き攣らせる。


「俺も初めての経験だったぜ? まぁ、伊達に不死鳥なんて名じゃねぇって事だ」

 肩を回し、体の調子を確かめる。


 この状況、復活したとしても天酉の方が優位だ。

 五十嵐の能力に相手を仕留める力は無い。


 そして越智、『破壊狂』は楔の為動けない。

 いや、今の『破壊狂』ならば五十嵐に攻撃を加える可能性が有る。


 この状況。余りにも五十嵐に不利。


 だが、天酉は表情を引き攣らせる。

 それは、相手が強いからではない。傷を負いすぎたからではない。


 冷静な殺人鬼は、困惑していた。

 アスファルトに転がる死体に目線を落とす。


 何故だ? 何故だ? 何故? 何故?


 ―――何故、殺したくないのだ?


 天酉はこの状況で、攻撃する意欲が消えてしまっていた。

 殺したいとも、生き残りたいとも。


 何故かは解らない。


 能力を使えば。そうすれば、殺す事は不可能でも逃げる事は出来る。

 いや、殺す事だって可能だ。首を刎ねれば良い。


 だが、それを行おうと思わない。

 体が動かないとかではない。


 説明が出来ない異様な感情が渦巻く。


「………どうした? 表情に余裕が無くなってるぞ?」

 五十嵐が眉を細める。


「そう………ですか?」

 歯切れが悪い。


 天酉は必死に考えていた。

 この感情は、何なのか。


 名無き殺人鬼。それが天酉凍だった。


 殺そうと思った瞬間に、既に首を刎ねている。

 残虐な殺しなど、幾らでも視てそして自分もやって来た。


 容赦は無く、そして愉しみながら殺した。


 泣き叫び、命乞いする者すらも、笑みを浮かべ殺した。


 そう言う人種。

 化け物と呼ばれても、何も感じない。


 自分はそう言うのが好きなのだ。殺しが好きなのだ。

 天酉はそれが解っていた。


 殺した後に罪悪感に苛まれる事など、一回も無かった。

 涙など、流した事などなかった。


 狂獄道眼と出会い、更に殺しに拍車を掛けた。


 何も感じない。

 それが今の自分を作った事も解っていた。


 痛みを感じない化け物。

 それこそが、自分に相応しい呼び名だと思っていた。


 だが、今のこの感情は何だ?

 殺す意味が解らない。どう殺せば良いかも解らない。


 何かが崩壊する。

 殺しはある意味自身の存在意義。


 それなのに、何故………殺したくないのだ?


「………貴方は………目の前に死にそうな人が居たら………どうしますか?」

 不意に出た問い。


 五十嵐は眉を更に細める。

「んあぁ? いきなり―――」

 言葉を止めた。


 それは、天酉の雰囲気が今までと余りに違うからだ。


 不意に出た問いだろう。

 だが、その答えを欲している。


 五十嵐はこの表情を知っていた。

 訳の解らない何かに苛まれている、自分が自分で無くなってしまう様な、そんな感情に蝕まれた表情。


 2度目。その表情を見るのは二度目だ。


 入学当初。

 人を痛めつけ、笑みを浮かべていたソイツ。


 鬼と恐れられるソイツを。


「………どうだろうな。まぁ、助けるだろうな」


「その人が、貴方の敵だったとしたら?」


「………どうだろうな。他の奴の意見は解らないけど………俺は人の死に慣れた訳でも、命を奪った事なんかもねぇ………だからこそ、俺は俺じゃない奴等と近い存在で居たい。ソイツ等が、誤れば、俺が正す。だからこそ、俺は助けるのかもしれないな」


 五十嵐の周りは、ハッキリ言ってしまえば異常だ。


 殺しに慣れた者が多すぎる。

 五十嵐本人は、人を殺めた事などない。


 だからこそ、そんな奴等の間に立ち、その場から可能な限りそんな奴等と近い存在に。


 それが五十嵐久太郎なのだ。

 止める訳ではない。同調する訳でもない。


 中途半端などっち付かずの立ち位置。

 偽善と言われるかもしれない。


 だが、五十嵐は殺してしまったからと言って、その者を畏怖し迫害するつもりなど毛頭無い。

 飽く迄も、その者と近い考えで。それでも同じではない存在に。


 そして、違う事を言える存在に。


 五十嵐も、十分に異常な思考を持っている。

 この考えだと、仕方なの無い殺しも在ると言っているのと同等。


 けれども、この答えは天酉には衝撃を与えた。


 ………その様な考えもあるのか。と。


 殺す側にしか立っていなかった天酉は、初めて殺す側でも殺さない側でもない。その間に立つ者を見た。


 必要悪。そう取れるし、偽善とも取れる。


 素晴らしい位に中途半端な立ち位置。


 だからこそ、心に響いた。


 殺ししかしてこなかった。

 こんな人に出会って来なかった。


 もし、彼なら………彼なら………止めてくれたのだろうか?


 共に殺すのではなく、付かず離れずな関係を築けたのだろうか?


 ………あぁ、そうか。

 彼を殺したくないのは………理解してくれる者を………失いたくないからか。


「………そう、ですか………中々に、面白い意見でした」

 笑みを浮かべる。


 それは先程までの狂気で歪んだ笑みではない。

 清々しい程に、何も浮かんでいない笑み。


 けれども、この笑みは、彼が生きてきた中で一番の笑みだった。


「………答えは出たのか?」

 五十嵐が尋ねる。


「!? ………そうですか。貴方の周りでも、俺、または僕、または私と同じ人が居たのですか………えぇ。そうですね。少し、この感情の意味が解った様な気がします」


「………もう、お前を敵と認識しなくても良いのか?」


 既に、天酉に戦闘の意志は無い。

 それはその雰囲気で解る。


 だからこそ、五十嵐は尋ねた。

 天酉の次の為に。此所で終わりではないのだから。


 五十嵐がそう言おうとした瞬間、その言葉を予測したかの様に天酉が首を横に振った。


「………此所で、終わりなんですよ」


「!? ………まだやろうって言うのか?」

 一気に緊張が走った。


「終わらないと駄目なんです。此所で、捕まったりなどしたら、それこそ、全てが解り終わってしまう。………裏切る訳にはいかない。父………狂獄道眼にはそれだけの恩がある。あの人もまた、俺、または僕、または私の感情を揺さぶった一人。だから、裏切る様な事は出来ない」

 天酉は空を見上げた。


 動く。

 そう思い、五十嵐は足に力を入れる。


 が、次の天酉の行動は予想しえなかった。

「最期が………此所で。貴方で良かった」

 穏やかに微笑む。


 その瞬間、風の流れが変わった事を、五十嵐は肌で感じた。

 それは先程も何度も感じた、攻撃される時に感じた、異様な風の流れ。


「!?」

 来る。そう思った時、


ブシュゥゥゥウウウゥゥゥゥゥウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!


「なっ!?」

 目の前で鮮血が舞った。


 それは余りにも唐突に。


 そしてまるでスローモーションの様に。

 ゆっくりと、ゆっくりと、血が上へ。


 カメラのシャッターを連射するかの様に。

 血の雫の一つ一つが、視界に映り込む。


 いきなりの事で、動く事が出来なかった。

 五十嵐は、目を疑った。


 何故、俺の血じゃない血が噴き出ている?

 動けない。それは恐怖ではない。


 考えられなかったからだ。

 一瞬たりとも、こうなると予想しなかった。


「………さよう………なら」

 血。天酉の体から大量に噴き出る血液。


 自害。


 自身の能力で、自身の体を斬ったのだ。

 心臓から腹まで、縦に大きな傷。そこから血が噴き出す。


 噴き出る血量は、見ただけで解る。


 助かる訳がない。

 助けられる訳がない。


 それでも、

「ふざけるなッ!!!」

 駆けだし、倒れる天酉に近づく。


 が、既に天酉の命は消えていた。

 それはあっという間に。今までのやり取りが嘘の様に。


 命のやり取りをしていた相手が、こうも簡単に死んだ。

 それは呆気なく。自ら終わらせた。


「………巫山戯るな………勝手に………勝手に………此所までしといて………何死んでんだテメェは!! 答えろッ!! テメェは………何を勝手に………」

 天酉の胸倉を掴み、叫ぶ。


 情などない。

 だが、それでも………一瞬見えた友の面影。それが重なった。


 だからこそ、この男はまだ生きて行ける。そう思った。

 思ったのに。


「何でだよ………」

 敵すら助けたい。そんな事ではない。


 敵かどうかじゃない。

 この場、あの一瞬。


 五十嵐は天酉の『人』としての感情を理解していた。


 それこそが、間に立つ者。


 そして、悲しむのも、その者なのだ。


 綺麗事では片付かない。

 天酉が殺して来た者と、天酉一人の命の重さは比較するまでもない。


 それでも、五十嵐は、天酉の『人』としての可能性を見ていた。

 不安定ながらも、見えていた。


「まだ………生きる事が………出来ただろう………」


 殺す事をしない者だからこそ、彼は解る。

 命は、こんなにも重いのだと。


 間に立つ者だからこそ、彼は解る。

 命は、どうしてこんなに『簡単』なのだろうか、と。


 何故、彼は最期の最期で、『人』として生きようとしたのだろうか。

 答えは一生解らないだろう。


 だからこそ、思いたい。

 彼は、人を殺すのを止めたかったのだと。


 その考えが、例え間違っていようとも。

 最期の一瞬。彼が見せた笑みは、澄んだ笑みだった。


 それだけ。たったそれだけ。


「……………………………」

 五十嵐は、唇を噛んだ。


 流せない涙の代わりに―――

 ―――この血を手向けに。


「………クソ野郎が………」



















 崩壊したコンクリの建物。

 鉄骨が剥き出し、地面には血。死体。血。そしてまた死体。


 そんな死体の山が出来上がった地で、1人の少年が空を見上げていた。

 血塗れで、ボロボロの服。


 目に生気は無く、何を映しているかも解らない。


 少年は唯じっと、空を見上げ続ける。


「おや? これは、これは」

 不意に男の声が聞こえた。


 少年は静かに視線をその声の主へ向ける。


 少年から後方。

 黒いスーツに身を包んだ男は、何が楽しいのか笑みを浮かべながら少年に近づく。


「問うても良いかな?」

 男は徐にそう尋ねる。


「………ナニ?」

 言葉には何も宿っていなかった。


「………君は、自分の力が怖いかい?」


 男の問いに、少年は短く答える。

「………意味が解らない」

 それは本心なのだろう。


 どうして怖がらないといけない?

 この力、僕なのに?


「………そうか、そうか。良い答えだ」

 男は満面の笑みを浮かべた。


 その表情を見て、少年は思った。


 どうして、この男は攻撃して来ないのだろう?

 どうして、この男は逃げないのだろう?

 どうして、この男は笑みを浮かべているのだろう?


 どうして、僕はこんなにも嬉しいのだろう?


「………付いて来なさい。君の、居場所をあげよう」

 男は歩き出す。


 少年は考えた。

 この男に付いて行けば、僕は僕で在り続ける事が出来るのだろうか?

 この男に付いて行けば、僕は僕の力で何かが出来るのだろうか?


「……………………………」

 少年は追う様に歩き出す。


 少年の頬には、何故か涙が流れていた。

 気付いていない。少年は、無意識に涙を流していた。


 凍える程冷たいその季節。


 少年は、居場所と父を得た。


 そして、そう。きっと、何かを失った―――。













 ―――侵入者、『殺人集団ファミリー』天酉凍。自害―――。















何でしょうね。煮え切らない終わり方。


本当に煮え切らない。

清々しいモノを書けないのだろうか?


それと、最後の描写は少年時代の天酉です。

もっと長くするつもりだったんですけど、余り過去は重要じゃないので。


心境の突然の変化。

ですが、あれが本当の天酉と言う訳ではありません。

天酉は最後まで解らずに、そしてそうだと思いながら死にました。


元々死ぬ気で来てましたので。

その説明は後々でされます。


さて、この描写を入れた事によって、『殺人集団』が唯の狂った快楽殺人鬼ではないのが解ってきました。


狂っているには狂っているのでが、心の何処かで引っかかっている。

自分と葛藤。過去と葛藤。

そんな人達の集まりです。


初めてかもしれません。

腐った悪以外を書くのは。


それでは、それでは………。


追伸。

誤字脱字、見つけたら言って下さい。


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