トリトマ
トリトマ。和名だと赤熊百合です。
花言葉は「切実な思い」「胸の痛み」「あなたは私を楽しませる」です。
前の二つは関係無いですね。今回は「あなたは私を楽しませる」をイメージ。
………なんか花を紹介する感じになってきた。
もっと詳しく説明するのか? いやいや、そこまで花関係無いから良いか。
今回はグロ描写は多いです。敵が敵なので。
RANKⅣ女子寮。
壁に大きな穴が空き、瓦礫が室内に散乱している。
そして、血塗れの死体が一つ転がっている。
その死体の側に立つのが侵入者。
白い髪に白いドレス。何処かのお嬢様と言われれば皆信じる様な容姿。
だが、その白いドレスの足下は赤く染まっている。髪にも返り血が付着しており、異常さを醸し出す。
その目の前に居るのが星野宮と麒麟音だ。
星野宮は目の当たりにした死に体を震わせ、膝を付いて胸を押さえている。
麒麟音は嫌悪感を抱きながら少女を睨んでいた。
そして少女の後ろ、大きな穴の丁度真ん中で宙に浮いているのは月柏だ。
足下に風を纏、左手には火を纏っている。
少女は見下ろす月柏を睨み、叫ぶ。
「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろォォォォォォォッッ!!!!」
表情は歪んでいる。
その様子を見て、月柏は薄い笑みを浮かべる。
「何をそんなに騒ぐ? 怖いのか?」
「黙れッッッ!!!」
少女は手に持っていたコスモスを握り潰す。
その瞬間、少女の様子がいきなり変わり出す。
「………愛を、愛を、愛を、私に愛を。愛を、愛を、愛を、私に愛を」
呪文の様に、祈る様に言葉を発している。
その様子は一言で言ってしまえば異常。
月柏はこの隙に生み出した火を少女へ投げようとした。
だが、
「!!?」
月柏の動きが止まる。その表情は困惑。
「何をした?」
睨み付ける。
その様子を見て、その問いに答える訳でもなく少女は叫ぶ。
「愛を!! 私には愛が必要なのッッ!! 誰もが私を愛して!! 誰でも私は愛する!! 愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛愛…………私には愛が必要なのッッ!!!」
異常。執着。
何かを糧に生きている人間ではある。だが、それは全てに措いて行き過ぎていた。
「会話が出来ないみたいだな」
月柏は苦笑する。
少女が叫んでいる最中、月柏は考えていた。
自分の今の状態を。
外的接触は無かった。
『領域』に入った気配も無かった。
では、どうして今私は攻撃をしたくないのか?
そう、攻撃をしたくないのだ。攻撃出来ないのではない。
この違いは大きい
攻撃が出来ないと言う事は、攻撃を行いたいのだが、何らかの形で出来ないと言う事を指す。
だが、攻撃をしたくないと言う事は自分自身が攻撃を行う事を躊躇、または否定していると言う事だ。
何の能力?
月柏は思考を巡らせた。
精神干渉を基にした能力。
何が引き金だ?
………花か?
月柏は少女の手を見る。
強く握られ、花は地面に落ちている。
少女は花を握り潰した瞬間に叫びだした。
それと同時に月柏は攻撃をしたくなくなった。
引き金は花。
能力は、自分への敵意を消失させる能力。又は攻撃意欲を失わせる能力。
月柏は一瞬にして相手の能力の大まかな情報を整理推測していた。
この思考の回転スピードは言ってしまえば異常だ。
自身の命の危機、そんな中でも冷静に考える事が出来る。
本能ではなく理性で戦う人間。
それでも現段階での推測では突破口は見いだせていない。
この能力が領域内で効力を発揮する能力ならば、その領域を抜け出せば良いだけの事。
だが、領域を展開した様子は皆無。
それならば、この能力は『条件』発動。
発動条件がある能力。
例えば、火を生み出し操る能力ではなく、火を操るだけの能力の場合、場に火が無ければ能力を扱う事は出来ない。
この場合の条件は周りに火がある事。
これを踏まえると、矢張り花が発動条件だ。
だが、花を握り潰しただけで此所まで出来るのか?
月柏は顔を歪めた。
余りにも情報が少な過ぎるからだ。
「………アハッ…………もう、これぐらいで良いかな?」
不意に、少女は落ち着きを取り戻す。
感情の落差。
彼女の様子からして、感情の欠落が見られる。その為、この落差も月柏は大差気にしていなかった。
無視して思考に入ろうとした時、引っかかった。
「………これぐらいで良い?」
何を言っているのか?
これぐらいで? ………何を? 何かをしていたのか?
彼女は何をしていた? 叫んでいた。愛を叫んでいた。
………!!?
「まさか!?」
月柏は気付いた。
だが、全ては遅かった。
ブシュッッッ!!!
「ぐほッッ………な……に?」
月柏の胸から腕が飛び出ている。いや、突き抜けている。
口から血を流す。痛みが襲う。必死に後ろを見る。
すると、今現在でも自分の目の前に立っている少女が、自分の後ろに立っている。
月柏は顔を歪めた。
「………全てフェイクか………」
「アハッ! 残念! 私の能力が戦意喪失させるだけの能力だと思った? 大きな間違いだよ!! もう少し早く気づければ………助かったかもね?」
ブシュッッッ!!!
腕を引き抜く。
月柏は少女を睨み、唇を噛む。
「…………チッ!」
虚ろな目。胸を貫かれ、即死じゃないだけでもマシな状態。
すると、足に纏っていた風消える。
集中力が切れた。痛覚。それが全てを消し去った。
風を失った月柏はそのまま為す術無く落下して行く。
ガサガサガサガサガサッ!!! ドスッッ―――。
木に落ち、最後に地面に落ちたであろう鈍い音が響いた。
少女は下を見ながら笑っていた。
「つまらない最後ッ!!」
笑いながら少女は宙を歩いていた。
月柏は飛んでいたのだ。それを後ろから刺し、立っている。
この時点で彼女の能力が戦意喪失させる能力じゃないのは一目瞭然。
「つ・ぎ・はぁ~………そこの2人だね」
少女は笑みを浮かべ、星野宮と麒麟音を指さし首を傾げた。
そしてゆっくりと近づく。宙を歩きながら近づく。
「どんな風にして死にたい? 大丈夫よ? 酷い死に方にはしないから。だって、私は愛を知っているのだもの」
笑みを浮かべる。可愛らしくない、恐怖を煽る笑み。
その時、麒麟音は呟いた。
「『解除しろ』」
「? ―――!!!??」
突然少女が床に落ちる。
それはいきなり。少女は目を丸くしながら自分の体を触っていた。
何かされたのか?
だが、外傷はない。
そして、視線を前へ向ける。
そこには、少女を指さしながら立っている麒麟音。
「何を………したの?」
少女は尋ねた。
少女の表情には困惑しかない。何故?どうして?
少女の困惑した表情を見て、麒麟音は笑みを浮かべた。だが、それは麒麟音紗々としての笑みではなかった。
「この場は既に、私の独壇場だ」
麒麟音は前髪を掻き上げた。
「『生きて帰れると思うな』」
麒麟音紗々。序列σが本気を出す。
ランクⅣ男子寮付近。
血塗れの死体が転がる中、3人は既に始めていた。
「ハァァァァァァァァッッッ!!!」
五十嵐は駆け、跳び蹴りをする。
「フフ。肉弾戦をご所望ですか? ですが、俺、または僕、または私は体を使うのは苦手でして」
天酉が苦笑した瞬間、
ブシュゥゥゥゥウウウゥゥゥゥウウウウッッッッッ!!!!!!!!
五十嵐の右足が吹き飛ぶ。
「チッ!!」
右足は宙を舞い、地面に落ちる。
が、
「舐めるなよッッ!!!」
吹き飛んだ筈の右足は瞬時に再生し、その右足で着地。
そのまま右足を軸に回し蹴りをする。
「!?」
天酉はしゃがみそれを回避。
「忘れるな。これは1対2だぞ?」
何時の間にか天酉の前まで移動していた越智が、腕を振り上げる。
「ふッッ!!」
体を反り、紙一重で躱し。天酉は瞬時に距離を取る。
「………ナイフですか? 随分物騒な物をお持ちで」
越智の持つナイフを見ながら笑みを浮かべる。
「テメェ何が体を使うのは苦手だ。明らかに今の動きは経験者だろうが」
五十嵐は右足の爪先を地面に何度か叩きながら睨む。
「まさか避けられるとは。抉る程度はいけると思ったんだが」
腰に手を当て越智が少し驚く。
「………そちらのポニーテールの彼の能力はどうやら再生能力らしいですね。ですが、貴方の能力は何ですか?」
「俺の能力は少し面倒でね。発動するにも、な」
ナイフの刃先を向ける。
「アンタの能力は何だ? 久太郎の足を吹き飛ばした時は何も無かった。もしくは、見えなかったのかな?」
「素晴らしいですね。そうですよ。私の能力は『不可視の刃』中々に良い能力でしょ?」
天酉は笑みを浮かべ、膝に付いた汚れを払いながら向き合う。
「随分卑怯臭い能力だな。『領域』を張った気配は皆無。と、言う事は『条件』発動か? もしくは無敵の自由発動ってか?」
「それはどうでしょう」
天酉は答えない。
余計な情報は与えない。それは常識である。
越智はナイフを持つ手を変え、天酉に聞こえる大きさの声で五十嵐に言う。
「久太郎。お前がアイツを押さえろ」
「んあぁ? 死ねってか?」
「尊い命だったって、泣いてやる」
越智は五十嵐を見て笑う。
頭を掻き、小さく溜息を吐く。
「はぁ………マジで死んだら呪ってやる、よッッッ!!!!」
一気に間を詰める。
それは既に常人の域を超えていた。
何処の真人間が数メートルを一瞬で詰める事が出来る?
「貴方は………『完璧』ですか」
天酉は突っ込んで来る五十嵐を見て呟いた。
「んあぁ? 俺は唯の不死身だ!!」
膝を突き出し、顔を狙う。
「成る程………肉体再生による、細胞の強化………貴方は既に1つの完成形」
喋りながらも天酉は五十嵐の攻撃を紙一重で躱して行く。
「滅びない肉体。それが貴方の完成した姿。実に面白いですね」
「余裕だな、おいッ!!」
拳を突き、それを躱されれば回転し肘を入れる。
だが、それすらも天酉は余裕を見せて躱す。
「やり辛いな……」
五十嵐の動きは武術を齧っていないながらも素人のそれとは違っていた。
達人とでも渡り合えるその動きは、自身の肉体に再生と言う無手に取っては最大の武器を持っているからだ。
腕を折られようとも、足を折られようとも、内蔵を破壊されようとも、直ぐさま再生する。
それは怪我をする事に対しての恐怖が限りなく無いに等しい。
その為の動き。
頭、腹、太股を狙い蹴りを繰り出す。
が、それも躱すか止めるかで効かない。
「テメェ………見切りか? 全然当たらねぇ」
一旦後ろに下がり五十嵐は肩で息をしながら天酉を睨む。
息を切らしている五十嵐に対して、天酉は涼しい顔で笑う。
「いやいや、所詮貴方も素人。見切りなど簡単ですよ。………ですが、躱すのも疲れました」
天酉が言った瞬間、
ブシュゥゥゥゥウウウゥゥゥゥウウウウッッッッッ!!!!!!!!
五十嵐の首筋から血が噴き出す。
「チッ! …………」
が、それも一瞬にして血が止まる。
五十嵐が首筋を拭うと首筋には傷跡すら無い。
「素晴らしい。これが完成された能力者ですか」
素直に、天酉は驚き感動し、褒める。
「テメェ、さっきから完成とか何だそりゃ?」
五十嵐は腕に付いた血を見ながら尋ねる。
「知らないので? ………簡単に説明しますと、貴方は『完璧』。固有する能力を完成させた者を指す言葉。貴方はその『完璧』なんですよ? 誇っても良いぐらいです」
手を大きく広げ、笑みを浮かべながら説明する。
その説明を聞き、五十嵐は眉を細める。
「………成る程ね。随分勝手な事で。『完璧』って、それはつまり完成しちまった形。んじゃ、此所で俺が負ければ俺はそこまでの能力者って事だろ? 完成しちまってるんだ。もうこれ以上の成長は見込めない………そうだろ?」
「中々に頭の回転が良いですね。その通りですよ。完成。裏を返せばそれ以上の成長が見込めない事を言う。貴方の能力、そこがゴールですよ?」
完成する事は全ての人間が目指す終着点ではない。
全てに措いて完璧な人間は、次のステップを見失う事になる。
それは生きる過程に措いて絶望。
成長とはイコールで言って良い程に生きる事に繋がる。
その過程を終えてしまった人間に、次は無い。後は終わりを待つだけ。
「道理で最近背が伸びないと思ったわ」
冗談を言いながら五十嵐は突っ込む。
「まぁ、高過ぎも不便か」
「フフ、前座的には………貴方は楽しめましたよ?」
天酉は笑みを浮かべる。
「ハッ! 長編の前座だぞ? 売りは泣けるなんだ。まだハンカチの準備は早いだろ?」
蹴り、蹴り、蹴り。上段、中段、下段。それを交互に繰り出す。
「残念な事に、私は感動物が嫌いなんです………泣けないから」
ブシュゥゥゥゥウウウゥゥゥゥウウウウッッッッッ!!!!!!!!
両足が吹き飛ぶ。
支えが無くなり、五十嵐は地面に落ちかける。が、両腕で支え、瞬時に両足が再生。
その流れでカポエイラの様に足で攻撃を繰り出す。
が、
「終わりと、言った筈ですが?」
ブシュッ!!!
「!?」
何かが斬れた。
唐突に鳴った音。生々しい音。
ブシュゥゥゥゥウウウゥゥゥゥウウウウッッッッッ!!!!!!!!
血が噴き出す。その血は五十嵐のモノ。
何処が斬られた?すると、五十嵐はいきなり体重が軽くなった事に気付く。
ドスッ………。
地面に落ちる。それは足。いや、下半身だ。
腰から下。それが力無く落ちる。
「クソが………ゲホッッ!!」
血を噴き出し、そのまま下半身を失った体は地面に倒れる。
傷口から血が大量に流れ出る。
止めどなく、臓器までもが血と共に流れ出る。
「………まだ生きているのでしょうか? 何処までが貴方の能力のデッドラインか解らないですからね。もっと簡単に首を斬り落とせば良かったのかもしれません。………今からでも遅くはない、か」
倒れ、血を流し続ける五十嵐を見下ろしながら、天酉は首を見る。
「面白かったですよ? 前座としては」
天酉の目は完全に笑っていなかった。
殺す。殺す。殺す。
それだけを宿した目。完全に壊れた目。
グシャッッッ!!!!ブチブチブチブチブチブチブチッッッッ!!!!!
天酉の右足がいきなり捻れる。肉が潰れる音。そして骨が肉を突き抜け露出している。
自分の足を見て、天酉は驚き感心する。
「!? ――――………ほぉう」
視線を上げる。表情には笑み。それは玩具を見つけた子供の様な。そんな表情。
そして、その視線の先には立っている。獲物を求める狩人が。殺したくて、殺したくて堪らない狩人が。
「今回のメインディッシュはお前か?」
それは狂った笑みを浮かべる『狂者』と呼ばれる男。
「これは………随分な能力をお持ちで」
『破壊狂』と呼ばれる、『天才』。
「さて、破壊を始めよう。俺の腹を満たす為に」
笑みを、残虐な笑みを浮かべる。
血を、血を、血を。
眼に映るモノを全て破壊して―――。
姫響の叫ぶ部分を書いていて、「あっ、俺が書く敵キャラこんなのばっかり」と思いました。
実に情緒不安定。落差が激しいのは書いていて結構楽なんですがね。
てか! 鈴葉が! 鈴葉が!!!
まさかの死亡!?なのかどうかは次回かその次に。
そして紗々始動。彼女の能力はチートです。かなりチートです。
そして此方も五十嵐死亡!?
的な感じですね。どうなのかは次回かな?
それにしても、天酉と姫響二人とも強いですね。
天酉の能力は随分迷いました。
先に名前決めたらかなり難しくなり、名前を5回ぐらい変えて、今回の厨二炸裂の名前に。「ブレイド」を使うのはかなり抵抗があったのですが、良いのが無く。
それでもチートですよね。
今回『完璧』の事が説明されました。
完成された能力者を『完璧』と………捻りも何もないですね。
次回も血が流れます。どうして現場に血が流れるんだ!的な感じです。
それでは、それでは………。
追伸。
「とある」第二期のオープニング良かった。
何話までやるのか。個人的には30行くか行かないかが好ましい。
………中途半端か。