イーブ
中身は無いよ。先に言っておきます。はい。
第二校舎屋上。
麒麟音が携帯を耳に当てながら立っていた。
「………成る程。それだと、かなりの確率で忍び込んでいるかもしれないね♪ うん……解ってる。彼と天士を会わせてはいけないぐらい。………過去の傷『雷の投擲』だけじゃないから…………うん。それじゃ」
空を見上げる。
表情は悲しそうに何かを考える様に。
「………敵ばかりだね。本当」
呟く。
その表情は苦しそうに、だが少し笑みを浮かべ。
「………物思いに更ける乙女は大層華があるな」
麒麟音の後ろから、長髪黒髪の男が笑みを浮かべながら歩いて来る。
振り返り、麒麟音は微笑む。
「そう? でも、乙女って言われるのは少し恥ずかしいな。美女って言う方が嬉しいかも♪」
「そうか、なら美少女だな」
「間に入った小は何?」
口を尖らせながら文句を言う。
麒麟音の横に立ちながら長髪の男はポケットから飴を取り出す。
「この前、『決闘』の場で彼を見た。中々に面白いな。目立った行為はしていなかったが、私には十分過ぎる程見えた」
飴を口の中に放り込みながら笑みを浮かべる。
「でしょ? やっぱり天士は『異常者に好かれる者』だね♪」
「アブノーマル………それは私も含まれて? いや、話の流れからして私もか」
少し肩を落としながらも微笑んでいる。
「奇人変人に好かれるのは天士の能力だよ。まぁ、敵もだけどね」
少し表情を暗くする。それに気付き長髪の男は尋ねる。
「先程の電話、彼の事か?」
「ん? ……そうだよ。ちょっとこの学園に面倒な人が紛れ込んだらしくてね。その子供達がそろそろ侵入して来るだろうって」
「………子供で解った。随分凶悪な者に好かれているんだな、彼は。だが、彼の周りには猛者が揃っているだろ? そうそう簡単には」
空河の周りに居る者は皆RANKⅣだ。
このRANKは学園内だけのものだが、早々簡単にやられる程ではない。
ある意味軍隊より頼りになる。と、言っても過言ではない。
それでも、麒麟音の表情は暗い。
「そうなんだけど、外の能力者と此所の能力者は決定的に違う部分がある」
「…………それは一体?」
「簡単な事だよ。………壊れ方を知っているかどうか」
男は首を傾げる。
「壊れ方?」
「そう。この学園にも組織に属している人間は何人か居る。その人達なら人を殺す事には慣れている。でも、それでも自分の感情を壊す事には慣れていない。壊れた人の相手をするのも」
自身の自我を崩壊させる事は全てが負に繋がる訳ではない。
感情を壊し、殺戮者となった者程怖い者は無い。
言葉は聞かず、情も効かない。
化け物。言い過ぎではない。
人は人を殺す事は出来る。それは人にどの様なダメージを与えれば死に繋がるか知っているからだ。
だが、化け物は違う。
越智の『破壊狂』の痛覚麻痺然り、空河の『死の行列行進』の感情封印然り。
人は痛覚の恐怖、死の恐怖、殺す恐怖のどれか一つでも壊せば、化け物に変わる。
恐怖を無くした化け物は、どんなSFに出てくる化け物にも劣らないだろう。
ゾンビだろうと、巨大な四足歩行の化け物だろうと、空を飛ぶゲテモノだろうと。
「超能力なんて言う、無能力者から見れば化け物の私達でも感情を壊した化け物にはそう簡単に勝てない」
「だが、それでも人体構造は同じだ。心臓の代わりにコアがあるとか、何度か殺さなければ死なないとか、その様な奇天烈でなければ勝てるだろう?」
男の言っている事は間違いではない。
感情を壊したと言っても、脚を斬れば歩けない。腕を斬れば物を掴めない。首を落とせば死ぬ。頭を吹き飛ばせば死ぬ。心臓を一撃で貫けば死ぬ。体その物を一瞬で吹き飛ばせば死ぬ。
そう考えれば至極簡単だ。
だが、麒麟音は知っている。化け物と対峙した時の恐怖を。
「私は、任務で一度死にかけている。その時の相手は死の恐怖を無くした化け物だった。恐ろしいよ? 一瞬怖じ気付いた。その瞬間、私のお腹に大きな穴が開いた。能力が効かない訳じゃない。死なない訳じゃない。勝てない訳じゃない。なのに、勝てない。死ぬと脳裏を過ぎった。その瞬間に私は負けた。そして後一歩で死んでいた」
恐怖による思考停止。それによる一瞬の隙。
殺す殺されるの場に措いて、それは致命的な隙。
「………戦いたくないな。そんな話を聞くと」
男は特に驚く事はしないが、眉を細める。
「だから、もし外の能力者が入って来たのなら正当法で戦ってはダメ。隙を突き一瞬で首を刎ねなければ、こっちが殺される」
麒麟音の表情は、学園生活を送る学生の表情ではなかった。
人の生き死にを見てきた、殺戮者の顔。
「………肝に銘じておく」
麒麟音は浮かない表情のまま、無理矢理笑みを作る。
「………嫌な感じ」
『宝殿高校』校外。
高校近くに立つ12階建てのマンション。
その部屋の一室。その一室に白いドレスを着た、白髪の女の子が部屋に置かれた花を見ながらウットリしていた。
「………ふふ」
眺めている花は白いカーネーション。
それを眺めながら女の子は呟く。
「綺麗………」
女の子はずっと花を見つめ、時折花に触れながら甲乙とした表情を浮かべている。
そんな中、奥のもう一つの部屋の戸が開く。
そこから出てきたのは青髪の男か女か判断に困る人。
見ようによってはその顔は男にも女にも見える。
「和と九九羽から連絡が入ったよ。俺、または僕、または私達は0時ジャストに作戦開始する。姫響は誰と接触するの?」
携帯片手に笑みを浮かべながら尋ねる。声は男なのだが、体付きは女な為断言出来ない。
姫響と呼ばれた女の子は花を眺めながら答える。
「『亡霊』」
それを聞き、青髪の人は首を傾げた。
「それは困るなぁ、貮も肆も捌も一筋縄で行かないし、下手すると死んじゃうよ?」
困ると言いながら、表情は笑みだ。
「………じゃぁ、『永遠の未完』で良い」
頬を膨らませながら妥協案を言う。
「まぁ、最初からそれが目的だからね。それと、能力は存分に使って良いよ? えげつない能力を」
笑みを浮かべながら、白いソファーに腰を下ろす。
「りょーかい」
姫響は面倒臭そうに答える。
そして、花を見て表情を緩める。
その様子を見ながら、青髪は呟いた。
「白いカーネーションの花言葉は………愛の拒絶………か」
笑みは一層に濃くなる。
場所は変わり校内。
無能力者、エンジニア宿舎。
二つのベッドと机しか置かれていない簡素な部屋。
その部屋に2人の男が居た。片方はベッドに座りながら携帯を片手に缶ビールを片手に。もう一方は椅子に腰を掛けながら本を逆さに読んでいる。
ベッドに座り、缶ビールを啜る男が携帯を眺めながら笑みを浮かべた。
「おいよ。決行時間が決定したよ。今日………明日かよ? 兎に角深夜の0時ジャストに動き出すよ」
それを聞いた椅子に座る男は本を読みながら答える。
「そうか。やっとか。で、汝はどれと接触するのだ?」
「俺かよ? 俺は『天才』ってのと一戦と行こうと思うよ。アイツ等の計画に不可欠と言われる『天才』って呼ばれる者達が、どれ程のモノか見たいんだよ」
不敵な笑みを浮かべる。
「成る程。それは我も気になるな」
「お前はどれに行くよ?」
「我は『完璧』と呼ばれる者と一戦交えようと思う。完成していると言われている者達だ。余程我を愉しませてくれよう」
男は本を閉じた。
「カッカッカッ!! 俺等2人とも『永遠の未完』じゃねぇーよ!! でもまぁ、目的はそれだからよ、あんまり行きすぎない様にしないとよ!!」
男はビールを飲みながら愉快そうに笑う。
「そうだな。此所には父上も居る事だし、失敗は出来ない」
「まぁ、失敗しそうになったらよ………全部消せば良い事だよ」
不敵に笑みを浮かべる。
「それもそうだ」
RANKⅣ男子寮。空河の部屋。
「スキップ」
「おい! また俺飛ばすなよ!!」
「ドロー2」
「ドロー2」
「へへっ! 俺もあるのだよ!! ドロー2!!」
「ドロー2」
「ドロー4」
「なにぃぃぃぃ!? お前等ドロー2を小出しにするなよ!! しかも宗次!? テメェードロー4とはどう言う事だ!?」
泣き叫ぶ馬鹿。
「早く引きな。で、何色?」
鴨梨が越智に尋ねる。
「黄色」
「8」
「お前等なんか共闘してな―――」
「スキップ」
「んな!?」
と、鴨梨と越智で馬鹿を虐めている。
てか、何故か空河の部屋でUNOをしている3人。
部屋主の空河はその様子を眉間に皺を寄せながら見ていた。
「ドロー2」
「ドロー2」
「へへっ! かなり引いたからあるのだよ!! ドロー2!!しかも2枚!」
「ドロー2」
「ドロー4」
「さっきと同じ展開!?」
「さっさと引きなよ。で、何色?」
「緑」
「ドロー2」
「ドロー4」
「うぉぉぉぉぉいッッ!!!」
馬鹿が吠える。
その様子を睨む空河が尋ねる。
「おい。何で俺の部屋でUNOしてる? てか、何で帰って来たらお前等が無断で俺の部屋に居る?」
黒天と別れた後、授業に出ずに開いている教室でサボり、部屋に戻ってきた空河。
ドアを開けた瞬間、馬鹿の泣き叫ぶ声がお帰り代わりだった。
「何でって、UNOしようと思って来たら居ないからさ、待つついでに。リバース」
越智がカードを出しながら答える。
「俺の番は!?」
「てか、天使ちゃん何処に居たの? スキップ」
カードを出しながら尋ねる鴨梨。
「お前等役札あり過ぎだろ!?」
「何処にって、第二校舎に居たぞ?」
「質問が間違ってたな。何処に居たのかじゃなく、誰と居たかだ。ドロー2」
越智が尋ね直す。
「食らえ! ドロー2!!!」
「………誰とも。空き教室でサボってた」
嘘を吐く。
「それダウト。様子可笑しいしよ? さっきから。ドロー2」
空河をチラリと見ながら笑う鴨梨。
「裏の人間か? まぁ、それ以外ないだろうけど。ドロー2」
「何で持ってるの!? 何でそんなにドロー2があるの!?」
「…………まぁ、そうだな。鴉って奴と会ってた」
素直に答える。嘘を吐く意味が無くなったからだ。
「ふざけるなよ!! 何でこんなに………って、山札の中殆ど役札じゃねぇーか!! これって可笑しいだろ!? 何でこんなに……てか、こんなにあるのに何で俺に全然こないの!? 可笑しいよね! 絶対可笑しいよね!!」
「「「煩い!!!」」」
~現在馬鹿をボコボコにしている為暫くお待ち下さい~
馬鹿をボコボコにし、UNOも中断。
「鴉って、フリーの殺し屋じゃん! また物騒な奴が忍び込んでるな。この学園のセキュリティーはどうなの?」
鴨梨が驚き、学園の警備の薄さに落胆している。
「俺はお前が鴉を知ってる方が驚きだ」
溜息を吐きながら鴨梨の情報の多さに感服。
「で、そのフリーの殺し屋さんは何と?」
UNOのカードでピラミットを作りながら尋ねる。
「まぁ、何だ。この学園に居るある組織の人間と接触して、仲良くなれればなって。的な感じだ」
大雑把で色々端折っているが、間違いではない。
「それはまた、最近の殺し屋は随分優しいんだな」
越智が苦笑する。
「まぁ、根は優しい奴だからな。野良犬見たら泣く様な奴だ」
その時の光景を思い出しながら苦笑。
「そんな人が殺し屋?」
「まぁ、根っからの良い奴じゃないからな。その分冷酷さは滲み出てるよ」
鴨梨の問いに答えながら、空河は笑う。
殺し屋と全てが全て、金の為や殺人思考の持ち主ではない。
特殊な理由が無い奴も居れば、唯々成り行きで殺し屋を名乗っている奴も居る。
そんな中で、黒天の理由は理由が無いに分類される。
根が優しい奴が、何故態々殺し屋なのかと、今更ながら思い空河は笑っているのだ。
「で、その仲良くするかしないかの組織の名前は?」
越智が尋ねる。ピラミッドはかなりの高さに。既に越智は立ち上がっている。
「『神の如き強者』」
「!?」
越智が一度手を止める。だが、それだけで何かあったのかと見抜く事は難しい。
現に空河、鴨梨は気付かず話を続ける。
「『神の如き強者』? 聞いた事ないな」
「俺も名前ぐらいだ。何か内部分裂起こしているみたいでな。色々大変らしい」
空河自身も黒天からかなり端折った説明しかされていない為、多くは知らない。
「……その組織の人間は誰なんだ?」
越智が尋ねる。
この時、越智は眠れる老人が上げた組織名を思い出していた。
その中に、『神の如き強者』は上がっていた。此所で名前を聞き出せば、探す手間が省ける。そう考えていた。
「名前は………1人は夏刀簾鱗って奴と、ルイルって子だ」
思い出しながら答える。
「へぇ~あの2人は組織の人間だったんだな」
「知っていたのか?」
「まぁ、ね」
鴨梨の情報の多さに更に感服。
越智はピラミッドを完成させ、それを眺めながら尋ねる。
「で、その2人は黒なのか? 白なのか?」
問題はそこである。
現段階で空河は情報もクソもないので断言は出来ない。
その為、第一印象で答える。
「俺の考えでは白だ」
断言にも似た考え。越智は考えた。
眠れる老人が『神の如き強者』の名を上げた。少なからず、何かはある。
様子見。結論を後回しにする。
「………まぁ、今は情報が少な過ぎるからな。決めつけは出来ないがな」
「後は接触して確かめる。その時黒だと思えば、消すしかないだろうな」
黒だと解って慈悲をかける程、空河はぬるま湯には浸かっていない。
歯向かうなら殺す。
それは今現在でも健在な決まりだ。
「兎に角まぁ、こっちでも調べてみるよ」
「俺も帰るかな。飯まだ食べてないんだ」
鴨梨が立ち上がり、越智は時計を見ながら背筋を伸ばす。
「また………明日?」
何故か疑問形。サボる可能性を考慮しての疑問形。
越智と鴨梨は笑いながら「また明日」と手を挙げる。
そして2人は空河の部屋を後にした。
2人が出て行った後、空河は結構な高さのピラミッドを見ながら溜息を吐いた。
「これはどうすれば? ………てか、馬鹿をどうしようか?」
溜息を吐き床で気絶している馬鹿を見る。
ピラミッドなどは壊せば済むが、先程意識を刈り取ってしまった馬鹿をどうするかが問題。
考える素振りを見せるが、結論は決まっている。
「………捨てるか」
呟きながら、馬鹿の足を持ち引き摺りながらドアを開けた。
「起こす」じゃなく「捨てる」………ご愁傷様。
最後の方は要るかどうか迷った。
別に此所でこの話入れなくても(最後のUNOの件)良かったのですが、早めにこの様な事があったと越智と鴨梨の耳に入れておこうと。
そうすれば後々説明要らないかなって。
でも逆に知らないでって言うパターンも考えたのですが、次回から戦闘なんで面倒って事で。
次回から戦闘。
んで、『神の如き強者』の件。
それから………まだ過去じゃないかな?
早く過去書かないと色々と進めるのが難しく。
グダグダなのは毎回の事だし。
後何話かな?
それでは、それでは………。