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One-eyed  作者: 龍門 
次へのプロローグ =Long prologue to the following=
46/60

ベンジェンス・オブ・トリガー

冒頭を加筆いたしました。


今回の話は過去話を書くために書いた様なもんです。

その過去話がいつになるかは不明ですけどね。






 ロシア連邦首都モスクワ。


 高層ビル。

 天高く聳えるそのビルは押してしまえば倒れてしまいそうな程、不安定に感じた。


 その高層ビル内部。

 77階。その階全てが一つの空間と成し、装飾などで煌びやかに輝いている。


 パーティー会場。

 そう思っても間違いはないだろう。


 沢山の人が、グラス片手に談笑している。

 見るからに高そうな服を纏い、お偉いさんの誕生日パーティーの様だ。


 だが、そう思うだけで断言は出来ない。

 その要因が壁際、そして談笑する男の側に立つ男達。


 腰にはあからさまな黒い塊。拳銃を所持している。


 その物騒な武器が、異常さを醸し出していた。

 けれども男達は自然に談笑し、自然に手に持つグラスを傾け、自然にテーブルに並べられた食事を口に運ぶ。


 SPか? それは否だ。

 拳銃を持つ者達の眼は異常だ。


 完全に護るなんて者の眼じゃない。

 狩人だ。


 それは談笑する男達にも言える。

 全てとは言わないが、その者達も護られる者の眼じゃない。

 此方も狩る側の眼だ。


 異常。それは自然にして異常。


「いやいや、まさか有名なあの組織の人間と、こうして話せるとは思いませんでしたよ」

 白い髭を生やした男は笑う。


「有名などと、野蛮で上り詰めただけですので」

 眼鏡を掛けた若干小太りの男は謙遜する。


「それを言ったら、私達もそうですぞ?」

 細身の男が笑った。


「ハハッ! 我々は、同じ穴の狢ですからな」

 陽気に笑う白髭の男。


「………まさかロシアの方が、私達に協力して下さるとは思いませんでしたよ」


「私達は余りある兵器を消費したいだけですよ」


「相手は何処の合衆国ですかな?」

 と、細身の男が笑う。


 話を少し聞いただけで解る。

 この者達は争いを望んでいると。


 それが、余りにも簡単に話すものだから、危機感が感じられない。

 こんな話をグラス片手に談笑しながら話す内容か?


「今回の戦争は、我々も大いに手を貸しますよ?」

 小太りの男が下品な笑みを浮かべた。


「ハハッ! それは嬉しい限りですな!!」


 このまま、この物騒な話が続くのかと思った矢先、男達の周りを囲んでいた拳銃を所持する一人の男が出入り口に目をやった。


「………再生」


「ん? 何か言ったかな―――」

 声が途絶えた。


ブシュゥゥゥウウウゥゥゥゥゥウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!


 理由は簡単だ、白髭の男の首が一瞬にして飛んだからだ。


「「な!!?」」

 小太りと細身の男は驚き、直ぐさま指示を飛ばした。


「侵入者だ!! 相手は能力者だ!!」


「『攻撃系能力アタック・アビリティ』と思われる!! 直ぐさま動け!!」


 その指示は、明らかに慣れている。


 だが、

「残念だ。残念だ。残念だ」


ブシュゥゥゥウウウゥゥゥゥゥウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!

 拳銃を持つ者達が次々に血を噴きだし、体の何処かを飛ばし、絶命していく。


「遅くはない。けれども、速くもない」


ブシュゥゥゥウウウゥゥゥゥゥウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!

 拳銃を持つ以外の者すらも同様に絶命していく。


「貴様!! 私を『骨組みの―――」

 細身の男が叫んでいる途中で、言葉が止まる。


 細身の男の目の前には、刀を手にし、サングラスを掛けた男。

「ん? どうした? 名乗りはしないのか? 否、出来ないのか?」

 笑みを零す。


ブシュゥゥゥウウウゥゥゥゥゥウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!

 細身の男は、盛大に血を降らせる。


「な!? どうやって!?」

 小太りの男が逃げながら驚いた。


 それもその筈だ。

 刀を持つ男と細身の男との距離は6メートル以上あったのだ。


 刀の間合いではない。

 それでは、刀以外でやったのでは? そう思う程だ。


「私の間合いは、私の見る光景」


「撃てェェェェェェェェッッッ!!!!」

 声と共に、銃声が鳴り響く。


ドドドドドドドドドドドドドドッッッッッッッ!!!!!!!!!!!

 それは四方八方、刀を持つ男に銃口を向け発射されている。


 生きている筈はない。仕留めた。

 そう皆が思った。


 けれども、銃声の中で嫌に声は響いた。

「………一時停止」


 小太りの男は、そこで一旦記憶が途切れていた。

 そして、気付いた時には、


「………再生」


ブシュゥゥゥウウウゥゥゥゥゥウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!

 血の雨が降り注いでいた。


「なっ………何故………どうやって………」

 腰を抜かし、床にへたる。


 刀を持つ男は、小太りに刃先を向ける。

「私の間合いは、私の見る光景」


ブシュゥッッ!!!


「ぐはッッ!! ………どう………やって………」

 小太りの男の胸に突き刺さる何か。だが、それは姿無き不可視。


「遅い。遅すぎた。貴様が………死ぬのが遅すぎた」


ブシュゥ………ズズズズズ―――。

 小太りの男に刺さった何かが抜かれる。


「永遠を祈れ。儚さに懺悔しろ。そして、死を恐れろ」


ブシュゥゥゥウウウゥゥゥゥゥウウウウウウゥゥゥゥゥッッッ!!!!!!!!

 小太りの男の首が飛ぶ。


「………無事完了だ」

 刀を持つ男の側に、先程まで男達の周りに居た1人が近づく。


「先程は助かった」


「礼は後だ。カリーナが仕事をしていれば全ては上手く行くだろう」


「………そうだな。終わりを始めと区切ろう。今から、貴様等が好きな戦争を始めよう」


 血。そして死体。それだけを残して2人の男は姿を消した。

 これは、始まりなのだ。




















 現在の状況を説明しよう。


 まず、腹を抱えながら笑っている男。黒天鴉。

 壁に手を付きながら大きな溜息を吐き、鬱に突入している男。空河天士。


 まぁ、あれだ。格好付けて言った推理が見事に外れて恥ずかしいのだよ。


「………何で教えてくれなかった?」

 若干涙目で尋ねる。


 腹を抱えたまま、此方は笑い過ぎによる涙を流しながら答える。

「だ、だってよ………スゲェー自信満々で……ククッ……マジ………最高!!」

 「ぎゃはははははははは」と馬鹿笑いしながら転げ回っている。


 空河は数分前の事を思い出し、赤面。

「死にたい。まじ、穴があったら入りたい所じゃねぇーよ。存在を抹消したい」

 手で顔を隠しながら壁に凭れる。


「いやいや、相変わらずだよな!! ホント……ププッ!! ネタが尽きないなぁおい!! きゃははははははは!!!!」

 空河を指さしながら馬鹿笑い。


「…………もう勘弁してくれ」

 苛々は募っているのだが、怒る気は起こらず、唯々笑うのを止めて欲しいと願う。


「はぁ~………かなり面白かった。思い出して笑わない様にしないとな」

 笑い過ぎにより流れた涙を拭いながら息を整える。


 その様子を見ながら空河は尋ねる。

「…………で、お前は何で此所に? 変装して学生までしているんだ。仕事なんだろ?」

 頬杖をつきながら尋ねるが、若干傷が残っているらしい。顔が引き攣ったままだ。


「あぁ、まぁな。仕事だ。その仕事って言うのがな―――」

「おいおい。こんな所でそんな事暴露して良いのかよ? 誰かに聞かれているかもしれないぞ?」

 安易に自身が此所に居る理由を暴露しようとした黒天の言葉を遮る。


 が、黒天は笑みを浮かべたまま言う。

「大丈夫だ! 近くには居ねぇ。居たら俺が速攻に気付く。例えどんな奴だろうとも、気付く自信はあるからな!!」

 と、自信満々に言う。


 普通なら、そこで「そんなの信用出来るか!」と反論するのだろうが、空河はしない。

 2人は互いに知らない仲ではない。


 どちらかと言えば知っている方であろう。


 黒天鴉。組織が暗躍する中、唯1人で複数相手に生き延びて来た殺し屋。

 客は選ばないが依頼内容は選ぶと言う男。

 それでも汚い仕事を請け負って来た為、裏では『ゴミに溜まるカラス』と呼ばれている。


 ゴミ掃除。何時の間にかそう呼ぶ奴まで居る始末。


 そんな2人だが、決して出会った時はこの様な感じではなかった。

 言ってしまえば敵同士。

 それでもこの様に互いに笑って冗談を言える仲になっているのは、空河が黒天の命の恩人だからと言うのが強いだろう。


「そうかい。まぁ、お前の実力は知ってるからな。疑いはしない。で、仕事内容は?」


「今回も差程良い仕事とは言えないんだけどな。さっきの、ボブカットちゃんと褐色爽やか君が関係している」

 胸ポケットから煙草を取り出し、咥える。


「だろうとは思ったよ。此所は禁煙」


「固いこと言うなや。でな、仕事の内容は至って簡単。監視、不穏な動きを見せれば抹殺。な? 簡単だろ?」

 煙草に火を点け、煙を吸い込みながら説明する。


「あの2人はどっかの組織に所属しているだろ? 雰囲気でそこは解った。その組織はなんだ?」


「あんまり耳にしないかもな。俺も組織自体を良く知っている訳ではねぇけど、『神の如き強者アザゼル』って言うんだが、知っているか?」


 少し考える動作をする。

「名前は聞いた事がある。前にリストに載っていたが、危険度は低いと言う事で消されていたな。だが、組織の事は全くだ」


「まぁ、リストに載ったのは4年前の出来事があったからだろうな」

 腕を組み、煙を吐き出す。


「………出来事? 俺等のリストに載るって事は結構デカイぞ?」


「あぁ。内容的には内輪もめなんだけどな。今後の組織の方針についてもめたらしい。此所まで聞けば何処の組織でもある事なんだが、問題はその内輪もめで離反した奴が大層キレた奴でな。100人斬りを実現しちゃったんだよ」


 空河は首を傾げた。

「100人斬り? そんなもん誰でも突破してるだろ? そんな騒ぐ事か?」


 能力者の組織は全てでは無いが、殆どが人を殺す事を主としている。

 そんな中、100人などは組織に属していれば一ヶ月もせずに突破出来る。


「まぁ、俺等の常識ならば差程気にはしなくとも良いんだが、問題がソイツの殺した相手だ」

 灰がポトリと落ちる。

「『骨組みの強欲カーカス・マモン』の幹部。そしてその部下、それ以外にもその場に居た者を含めた100人斬りだ。『骨組みの強欲』の事は小耳に挟む程度は知っているだろ?」

 大きく煙を吸い込み、フィルターギリギリまで短くなった煙草を廊下に落とし踏み消す。


「あぁ。殲滅対象だ。だが、そこまで問題視する事か?」

 何処かの組織の幹部を殺す事など、差程不思議な事ではない。

 現に、『隻眼の番犬ワン・アイド・ケルベロス』の仕事はその様な事ばかりだ。


「タイミングが悪かったんだ。まるで狙ったかの如きタイミング。………ある3つの組織が集まった場で、その集まった組織幹部を巻き添えにしたって言うオプション付き。その組織の名は………『雷の投擲ゲイ・ボルグ』。世界で一番危険視されている過激派組織。その幹部が巻き添え食らったのがリストに載る原因だ」


 『雷の投擲』その組織名を聞いた瞬間、空河の時間が止まった。


 その様子を見ながら、黒天は新しい煙草に火を点けた。

 空河の過去を知ってはいるが、黒天は周りの奴の様に気を使う事はしない。

「どうやら過激派どうしで集まってどっかの主要都市を見通し良くする話し合いでもしてたんだろうな。そこに狙ったかの様に問題の奴が乱入。散々暴れて消えたって事。けどな、これだけでも別に『神の如き強者』は「離反した者がなにをやろうとも関係無い」で突き通せる筈だったんだ。だが、それも不可能になっちまった」


 一度切り、空河を見る。

 聞いているには聞いているのだろうが、表情からして『雷の投擲』に対しての憤怒が見え隠れしている。

 溜息を吐きながらも黒天は続ける。


「その襲撃事件があった後日に、『神の如き強者』のハト派と言われていた幹部の男が姿を消した。これまたタイミングばっちり。まるで、「勘づかれる前に消えた」ってな。こんな上手く出来た話は普通怪しむんだが、『骨組みの強欲』からしては絶好のチャンスって事だ。「大義名分を掲げて潰せる」って事。そっから『骨組みの強欲』の動きは活発になった」


「………『雷の投擲』………奴等は動いているのか?」

 尋ねる。その言葉の節々に何とも言えない憤怒が混ざっている。


「動いている。だが、『骨組みの強欲』よりかは活発的ではないな。まるで、形だけ行動しているみたいな感じだ」


「そうか………」


 黒天は再度溜息を吐く。

「大義名分なんてお前が掲げるなよ? 人を殺すのを正当化するのは阿呆と戦争好きな国だけで腹一杯だ。俺等能力者って言うのはそんなもん掲げても悪役にしかなれねぇからよ。強過ぎる力は悪役か独裁者にしかなれねぇ仕組みなんだ」


 それを聞き、空河は笑みを浮かべる。黒い、暗い笑みを。

「悪役になるのは慣れてる。今更だろ? それに、『雷の投擲』は殲滅対象だ。大義名分など掲げずとも、殺す事に変わりは無い」


「お前は阿呆か」


「んあぁ?」

 殺気が少し漏れ出す。だが、気にせず続ける。

「お前が今のまま『雷の投擲』を殺せば、次はお前が抹殺対象だ。殺して殺されないなんて都合の良すぎる話はねぇんだよ。そして、お前が殺されれば、次はお前を慕う人間がお前を殺した奴を殺すだろうさ。そして、また次。次。次。例え悪役になろうとも、そのループは切れない。お前は、自分の周りに居る奴等を誰かの復讐相手にしたいのか?」


 黒天の語る事は、汚い仕事をしてきた人間の言う事ではなかった。

 復讐すれば、自分が復讐される。


 だから止めろ。けれども空河に取っては詭弁である。

 もう既に、自分の大切な者は失っているのに、奪われているのに。何故、此所でそのループを止めないといけないのか?

 空河は拳を強く握った。


「じゃぁ………俺の……復讐はどうなる!? 俺の親を殺した……目の前で死んだ親の仇はどうする!? 誰にぶつける!? まさか親は復讐なんか望んでないなど言うなよ!! そんなもん誰にも解らないだ! 結局は俺がどうするかだろ!? 自己満だろうとなんだろうと、俺は止めない!!」

 叫ぶ。


 良くあるシーンで、親は復讐など望んでいない。と言う言葉は良く耳にする。


 だが、それは止める側の自己満足だろう。

 自分の目の前で復讐をする者を見たくないと言う我が儘。

 そんな物は、復讐する側に取っては迷惑以上の何者でもない。


 復讐とは結局は自己満足である。

 残された者が、死んだ者の名を掲げ殺しを正当化する方法の一つ。


 殺した後などは知らない。

 殺しにアフターケアは存在しなのだから。


 自己満足に最後は自滅。

 それが、末路だ。


「復讐したければすれば良い。だが、お前は復讐を成した後必ずこの場に、お前の周りに居る者の元へ戻って来る。それは許されない事だろ? 復讐者の末路は自滅だ。お前は捨てられるのか? 今の関係を、今の環境を」

 煙草を向ける。


 反論しようとした。

 だが、空河に否定する事など出来ない。


 それが解っているからこそ、黒天は続ける。

「復讐を成した奴が戻る場所は必ず人が死ぬ。お前は知り合いの血で血風呂に変わった世界を見たいのか? 見栄を張るな。お前に取って復讐は安易じゃねぇよ」


 空河の弱さを知っている。

 結局の部分で仲間を、友を捨てる事が出来ない事を。

 何も捨てずに十を持って復讐を成そうとするなど誰も許さない。


 復讐者は、人知れず殺して、自分が殺した者の様に死ななければならない。

 そうしなければ周りの者が死ぬ。


「復讐を成したいのなら今すぐこの場を捨てろ。今抱えている者を捨てろ。それが出来ないなら安易に復讐心など抱くな。闇って言うのは人が抱えられる物じゃない。住み着く物だ。抱えたフリをするな。哀れな最期を迎えるぞ」


 次第に空河の殺気が収まる。

 納得などはしてない。だが、自身の弱さを知っている為か反論出来ずにいる。


 普通に組織の殺しは良しとし、復讐による殺しはダメと言うのも可笑しな話だ。

 だが、黒天はちゃんと言った。

 「復讐したければすれば良い」と。

 だが、その復讐に周りを巻き込むなと。


 捨てる覚悟が無い以上、今の空河に復讐を成す力など無い。


 黒天は咥えていた煙草を落とし、踏み消す。

「柄にもねぇな。説教なんてよ。まぁ、別にお前が復讐を諦めたくないのは解る。『隻眼』でのお前はそれだけが生き甲斐だったからな。けれども、今のお前は変わってしまった。それは良いのか悪いのか。誰にも解らないからこそ、自分が理解出来るまで復讐は胸の中にしまえ。助言出来る奴も手助け出来る奴もいない。復讐って言うのはそう言うもんだ。敵が同じだろうと、何だろうと。最終的に目的はすれ違うからよ」


 握る拳の力を弱める。

「………諦めはしない。だが、今はその時じゃないと言い聞かせて動きはしない。久しぶりに説教された。………悪い気はしない」

 壁に凭れながら嗤笑する。


「まぁ、聞き流せ。俺も柄じゃなかった。裏の人間が幾ら語ろうとも、意味は無い。万引き犯が「盗みはダメ」とか殺人犯が「命は大事」とか言っても反感を買う様な感じだ。殺し屋が語っちゃダメな事だったな」

 此方も嗤笑。


 2人は結局の所似た者同士なのだろう。

 裏の人間ながら正当な理由を並べてしまう大層殺しに似合わない性格なのだ。


 『隻眼の番犬』にどっぷり浸かっていた頃の空河は、正真正銘の殺し屋だった。

 だが、この学園に来て、周りの生徒達と居る事で感化されてしまっている空河に、復讐を成す力も捨てる勇気も微塵も無かった。


 全ては詭弁なのだ。

 聞く者が聞けば良い言葉に聞こえ、聞く者が聞けば偽善者の戯言にしか聞こえない。

 だが、それで良いだろう。


 その者の、その時の心情にあった言葉。

 それが例えどんな屁理屈、綺麗事を並べた言葉だったとしても、それが理不尽で継ぎ接ぎだらけの言葉だったとしても。

 その者がその言葉に耳を傾ければ。


 どれがダメでどれが良いなど、判断出来る者などこの世に居ないのだから。

 時と場合。その通りだ。


「話が逸れまくったな。何時の間にか説教に変わってやがる。因みに廊下に捨てた吸い殻はお前が捨ててね」

 黒天が新たな煙草を咥えながら頭を掻く。


「何の話だった? ………あぁ、『神の如き強者』から離反した奴が100人斬りして、それが上手く行き過ぎていて、『骨組みの強欲』が大義名分掲げて戦争始めようとしているって所までか。俺捨てないから」


 煙を吐く。

「そうそう。でな、まぁもう面倒になってきたから詳しい話は誰かに聞け。でな、何で俺が此所で学生して、さっきの2人を監視とか抹殺とかの依頼を受けているかと言うと、アイツ等が消えたハト派の部下だからって事だ」

 説教部分が長過ぎた為か、色々端折り始めた。


「それってよ、相場は依頼人が黒だろ?」


「あぁ。だから受けたんだよ。でな、お前に頼みがある」

 改まりながら黒天が言う。


「………俺は別にお前に貸しを作ったつもりはないけどな。まぁ、聞くだけ聞く。タダだからな」

 腕を組みながら面倒臭そうに黒天を見る。


「まぁ、簡単だ。あの2人から話を聞け。そして白だと思えば友好的に接してくれ」

 お願いの内容は実に意外な内容だった。


「ターゲットの心配か? さっきの説教と言い。5年前とは随分な心境の変化だな。何か嬉しい事でもあったのか?」

 ニタァと笑いながら茶化す。


「阿呆が。あの2人は唯々頭でっかちな奴等の腐った策に巻き込まれているだけだ。それがどうも不憫でな。昔を思い出すんだ………」

 少し暗い顔で俯きながら言う。何かトラウマでもあるのだろうか。


 その顔を見ながら、無表情で空河が思い出した様に言う。

「………昔ってあれか? 夜の街で背中に大きな傷を背負った女を不憫に思い、思わず買った話か?」

 言ってはダメなのだろうけど、凄く比べてはダメな様な気がするのは気のせいだろうか?


「ん? そうだな。何て言うんだろうな。そこに居てはダメって言うか、そんな感情が渦巻く。アイツを初めて見た時もそう思ったしな」

 過去でも振り返っているのか目を瞑りながら回想を始めている。


 その様子を見ながら溜息を吐く。

「昔話は嫁さんにしてやれよ。律儀にプロポーズまでした男が」


「まぁな。泣いて喜んでたわ」

 と、また話が脱線。てか、惚気。


 空河はもう面倒になったらしく、首を鳴らしながら歩き出す。

「一応は考えておく。でも期待はするな。あの女の子苦手なんだわ」

 真顔で若干青くしながら「てんし? 天使!」の件を思い出す。


「あぁ。まぁ頼む」

 笑みを浮かべながら手を振る黒天を見ながら、空河は呟く。

「………お人好し」

 それだけ言って歩き出す。振り返らずに廊下を曲がり姿が見えなくなった。


 煙草の煙が廊下を漂う様に彷徨い消える。

 残った黒天は律儀に捨てた吸い殻を拾い、それを眺めながら思わず呟く。

「………俺も所詮は自己満足で行動するんだよ」


 裏であろうとも表でもあろうとも、人間って言うのは根本は変わらない。

 自分が見たくないものは見たくない。


 自己中心的で偽善者なのだ。

 だからこそ、汚い仕事をする者が現れる。


「………変に語っちまった。俺の死期は近いかもな」

 勝手に自分で死亡フラグを立てようとする黒天。


 …………煙が消える。


 今まさに、物語は大きく膨れあがろうとしている。

 ―――破裂を恐れながら。











今回は少しドロドロする感じになると思います。

組織が絡むと自然とドロドロしちゃうんですよね。


まぁ、かなり面倒なのは確か。

てか、黒天は凄まじく喋る。まさか説教までするとは。


今回の復讐なんちゃらの部分は過去話を書くのでそこに詳しく書いてます。

前書きで言いましたが、いつになるかは不明です。


それでは、それでは………。

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