純一無雑~その時だけ彼女は素直になり、彼は素直になれない自分に苛立つ~
いやぁ~今回も展開が!
まぁ、良いよね。うん。
星野宮が空河に決闘を挑んだ。
それを受けた空河は星野宮の怪我を安否し、明堂に治療してもらう事を提案した。
骸骨達の戦闘で星野宮は無傷ではなかった。
他にも精神的にも疲労が蓄積している為、ベストではない。
空河はベストコンディションの星野宮を潰してこそ。と、思っていた。
星野宮が明堂に治療してもらっている頃、空河と左右は話していた。
「………つまりは、今回の目的は全てこれの為ですか?」
地べたに座りながら、目の前に立つ左右を見上げる。
「あぁ。やり方は少し雑だったか?」
「雑の中の雑だ。それを俺に言ってくれれば………」
頭を掻く。
「最初は言おうと思ったんだよ。何か、アンタが本気で潰そうとしていたら」
「じゃぁ、何で?」
「影八目蜻蛉に止められた」
「………そうか」
同じ組織の一員の名前が出ても、空河は動揺もせずに納得した。
「驚かないのか?」
流石の左右も尋ねる。
「あぁ。アイツはそう言う事をする男だ。元々アイツはタカ派だからな」
そう言いながら自分の手首に嵌められたリング状の装置を見る。
「タカ派? 元々『隻眼』はそう言う人間の集まりだろ?」
『隻眼の番犬』は犯罪に手を染めた能力者の排除を目的とした組織。その目的の為ならば障害を全て排除する者達だ。
そんな組織にもタカ派などあるのか?
左右は首を傾げた。
「まぁ、タカ派って言うのは当てはまらないか? 言うならば戦争派って感じかな」
「戦争? 何処と? まさか国々って言わないよな?」
呆れた様に苦笑する。
「まぁ、必然的にそうなるかもしれない」
「は?」
空河は平然と淡々と答える。
「俺等は言わば能力者の敵。攻撃してくれば排除し、危険分子だと思えば排除してきた。大義名分なんて事を無視して。で、それを行って来たのは俺を含めたハト派。まぁ、生易しいモノじゃないけど。タカ派の対義語はハト派だから言っているだけだし」
「つまりはどう言う意味だ?」
「つまりは、ハト派は『隻眼』の目的以上の事は求めない奴等の事。逆にタカ派はその目的を大きく変えようとしている。………タカ派の排除目標は世界で幅を利かせている能力者組織。ヨーロッパ全土を実質占めている『溶けた翼』。唯ひたすら能力者を集め続ける『神秘なる使命』。そして、現在最強の過激派と呼ばれる『雷の投擲』。この3つの組織と全面戦争を押している連中をタカ派と呼んでいる」
『雷の投擲』と言う名を出した時だけ、少し顔を歪めた。
左右はそれに気付いたが、何も言わず自分の考えを言う。
「だが、『隻眼』は元々の目的の為に少数精鋭だろ? 『溶けた翼』は10000を超える大組織だ。他の2つも数に至っては無謀過ぎる」
「何か考えでもあるんだろ? 表向きは一応αに従ってはいるけど、後々どうなるか。だな」
「どんな組織でも内部分裂が起こるんだな」
左右は腕を組みながら頷く。
そして思い出した様に尋ねる。
「あの影八目もタカ派なんだろ? 私が共に居た限り差程そうは見えなかったが?」
「アイツ、嘘吐きなんですよ。自分の事を絶対に明かさない。そして、私欲の為に場を掻き混ぜる奴だ。今回も多分この学園の能力者のレベルを見るのと、俺の現在を見る為だろうな。そして今回の騒動が丁度良かったんだろ。この手枷はついでさ」
手首をブラァ~ンとさせながら溜息を吐く。
「………騙された気がするな」
「アイツの本当を捜そうとするのは疲れるだけ。気にしない方が良い」
「………何時の間にか消えているし………馬鹿にされた気分だ」
左右は思わず奥歯を噛み締める。
利用されたって所が苛立ちを大きくさせた。
「まぁ、どうでも良いさ。それよりも」
嵌められたリング状の装置を左右の前へ出す。
「ん?」
「これ、壊してくれない? どうも何か仕掛けられてるみたいでさ。違和感しか無い」
顔を歪める。
「………解った。天士は私がそれを壊せると思えば良い」
そう言いながら装置に触れる。
触れながら、ふと、左右が空河を見る。
「何か?」
「………アンタ、さっきから敬語とタメ口が混じってるんだけど、どう言う事?」
「………何だろう、まぁ………何となく?」
疑問形。つまりは無意識。
「……………………あっそう」
今回はしょうがないと心に言い聞かせながら手枷をなぞる。
「一瞬で壊れるだろうさ」
「そうだな……ですね」
無理矢理敬語に戻す。不自然極まりない。
すると、
ガチャッン!!
装置が綺麗に割れる。
「流石」
完全にタメ口だが、もう気にしない2人。
手首を擦りながら空河は立ち上がる。
「………何で私の思惑に今更乗った? 今のあの子は既に理解して動こうとしている。私の目的は十二分に果たせた」
左右は今更尋ねる。
自分で嗾けた。だが、そのせいで自分の信用を失った。
それを覚悟した上での行動。それでも今更迷う。
そんな左右を見て、空河は笑った。
「動き出そうとするだけじゃ、足りないだろ? 動かないと。物事は順序良く回ってはこない。必要な手順を無視して襲って来る。それを如何に効率良く、手際良く回避、または乗り越えるかが重要なんだよ。今回は、それが早まっただけの話。遅かれ早かれ、誰かが動いて誰かが被害者の立場に立って、誰かが加害者になってんだよ。綺麗に収まる物事を、俺は認めたくないね。波瀾万丈上等だろ? ………姉さん」
姉さん。言われ慣れている自分の呼び名。
それを、今此所で呼んでくれる事に、どれ程の喜びと悲しさを感じるのか。
彼の奥に自分への信用が無いのは解っている。
彼がその事に気付いていない事も解っている。
それでも、彼は呼んでくれる。
………、
「今回はごめんな」
それだけ言って左右は空河から離れて行った。
「………五十嵐さんに叱られろ………ば~か」
微笑みながら呟いた。
明堂による治療が終わり、星野宮は対峙していた。
目の前に立つのは空河。
星野宮は目の前に居る空河をRANKⅡではなく、自分以上のRANKⅣと考えた。
それぐらいの力の差。感情などで埋められる差ではない。
星野宮は最初から全力で行く気だった。
誰も合図もせずに、互いに見据え合う。
矢張り、最初に動いたのは星野宮。
「『鎮魂曲』」
ドンッ!!!
空河の真後ろの壁が砕ける。
避けた?………いや、だとしても空河は星野宮の能力をまだ十分に理解していない。
これは隙を突けるチャンス。
そう考え動く。
「『円舞曲』」
そう発するのと同時に前へ向って駆け出し、両裾から弦を出す。
「『鎮魂曲』ッッ!!!」
先程と同じ言葉、だが威力は格段に上がっている。
「………」
空河は動じずに、腕を下へ振る。
ドゴォォォォンッ!!!
弦が一瞬にして地面へめり込む。
「チッ! ………『交声曲』」
「!?」
顔を歪める。
此所で星野宮の能力が弦主体ではなく、音主体の能力だと空河は確信する。
弦はカモフラージュの役割も果たしていると。
「舐めるなよ」
脚に力を溜める。
そして、
ドゴォォォォオオオオオォォォォォォンッッッッッッ!!!!!!!!!!
地面が抉れ爆ぜる。
「なっ!?」
「脳揺らすぐらいの音出さないと無意味だぞ? ………音源は絶てば、この不快音も終わりだ」
脚に力を溜め、砂塵に紛れながら瞬時に星野宮の後ろに回り込んだ。
右手を、星野宮の背中に当てる。
「………吹き飛べ」
「!? キャッ!!!」
凄まじい速さで、空河からはじき飛ばされる様に吹き飛び地面を転がる。
「…………ゲホッ………ゴホッ!」
咳き込み、軽く口から血を流す。
「………今………のは?」
「分析はもっと早くだぞ?」
「なっ!?」
後ろから声がし、振り返るが、
「遅い」
「キャァアアァァァァァァァァァァッッッ!!!!!!!」
吹き飛ばされる。
一方的。
まず、音単体しか操れない星野宮に、力を扱える空河が劣る筈がない。
「来い」
引っ張る動作をする。
「なっ―――クッ!!!!!」
何かに引っ張られる様に、凄まじい速さで空河へ向かう。
だが、星野宮もやられてばかりではない。
「クッ! ………『鎮魂曲』!!!!!」
叫ぶ。
「!?」
瞬時に何かを避ける。
ドゴォォォォオオオオオォォォォォォンッッッッッッ!!!!!!!!!!!
空河の後ろの壁が観客席もろとも抉れる。
「おいおい………さっきの比じゃねぇぞ」
流石の空河も冷や汗を流した。
「余所見している暇があるの!?」
「!?」
注意が逸れた為に、星野宮が自由になり懐を取られる。
「舐めるなッ!!」
吹き飛ばそうとした瞬間、
「こっちの台詞よッ! 『夜想曲』!!」
「!!? ………動きがッッ! が、!?」
突然身体の自由が利かなくなり一瞬戸惑うが直ぐに能力を使用しようと星野宮を見る。が、星野宮は地面を蹴り、飛び込む様に空河に抱き付いた。
「フフ………天士が使ったのは『重力』・『斥力』・『張力』だけど……その3つはもう使えない」
空河にくっつきながら見上げ笑みを浮かべる。
「『重力』は的を絞る事が出来ず、『斥力』や『張力』を使えば―――」
喋っている最中、袖から弦が現れ空河と星野宮を縛る様に動き回る。
「―――肉を千切りたいなら、どうぞ?」
星野宮が弦で一緒に縛られたのはこれが目的だった。
例え空河を弦で縛り上げても、『重力』を使えばそれで終わる。
この行為は賭けだった。
もし『重力』が人1人だけに絞れたら、確実に潰されていた。が、賭には勝った。
「………まだ『引力』があるぞ?」
くっつく星野宮を見ながら笑みを浮かべる。
「対策は取るわよ?」
対して星野宮も笑みを浮かべた。
すると、空気が変わる。
「………チッ! 弦か」
「流石。そう、今私達の周りには弦の壁が出来上がっている」
星野宮が上を見上げる。体が縛られているから若干辛そうに。
「………天士の能力は『力』………なんでしょ?」
「………あぁ」
「それなら此所から逃げる方法なんて沢山あるよね?」
星野宮は尋ねる。そして核心を突く。
「天士の能力は全ての『力』じゃない。『重力・斥力・張力・引力』この4つしか使えない。でしょ?」
「…………流石だな。まぁ、後『筋力』ってのが残っているが、今この状況では使えないしな。まぁ、あれだ。全ての力を使えたら俺は既に世界征服でもしているよ」
「良かったよ。天士が無敵じゃなくて。最強なら、まだ私は追いつけるし追い抜かせる」
安心したかの様に空河の胸に額を付ける。
「………俺を追い抜かしてどうする?」
「天士を守る」
即答だった。
「もう守られる歳でもねぇよ」
苦笑する。
「じゃ、心の支えになる」
「………そっか」
拒否せず認めもせずに。
「天士の事を知って、本当の天士を………好きになろうと思う」
躊躇せずに、素直に明かす。
「そっか」
「色々な意味で強くなって、色々な意味で守れる様に。曖昧だけど、事実だから。………だから、今は否定しないで。立ち直れなくなる。今は認めないで。満足してしまう。見ていて。卑怯かもしれないけど、今の私に天士の答えを受け止める自信が無いから………今はまだ、弱いから」
涙を堪えていた。
今言っている事が逃げだと知っているからだ。
現時点ではきっと空河が自分の気持ちを否定すると解っているから。
今はまだ、空河の心に入れないから。
答えを後回しにした。
「………そっか」
空を見上げる。
「………………ありがと」
「何が?」
「言いたかった………ありがとうって。………………生きていて………ありがとうって」
堪えていた涙が溢れ出す。
それは、目的や何も無い。
唯々、素直な思い。
偽りなどは無い。それが本心だから、言いたかった言葉だから、震える声を必死に堪える。溢れる涙の止め方が解らないから歯を食いしばる。
強がって生きてきた。
その事に気付いたらから、言えた。
「………心配してくれて有難う」
空を仰ぎながら、小さく呟く。
この距離ならば、星野宮の耳にも届く。
だが、星野宮は何も言わずに空河の胸を涙で濡らした。
空河は事故前の自分を知っている唯一の彼女に会えた事を、感謝した。
あの頃の何も知らなかったあの頃の自分を知っている彼女が、自分が生きていた事に感謝してくれた事に静かに胸打たれた。
何も否定せず、何も認めず。
此所から始めるのか、終わるのか。
震え涙を堪えて、それでも流す彼女は…………どことなく自分と似ていると、空河は思った。
けれど、この事は誰にも言わずに心にしまう。
何故か涙が溢れたから。
素直に自分の弱さを現せない自分に、腹が立ったから………。
一方、鴨梨・草島両名。
「あれ? いきなり2人くっついたと思ったら、天使ちゃん泣いてるよね?」
「マジで? ………てか、何か良い感じって言うか、もうバトルって雰囲気じゃないよね?」
「途中までは『斥力』でエゲツない事してたのに?」
「………なんか、さっきから展開に付いて行けないのは俺だけ?」
「………青春?」
矢張り展開の早さについて行けなかった。
今回、音や力などを物理学的に?力学的に?って言うか頭を捻って書こうと思ったんだけどさ、無理。
まぁ~だから天士の能力を『重力・斥力・張力・引力・筋力』だけにした!
能力の説明は一段落したら書きます。
何か最近天士のキャラが解らなく………。
まぁ、素直になれない奴って事で。
今回の戦闘シーンは書くの面倒って言うか難しかったです。
ミナの能力って音とか弦じゃない?
何か音って言っても超音波とか出したら負けな様な気がして………。
天士も何か重力撃ち出すとかやってしまったら負けな様な気がして………。
草島みたいに解りやすいのにすれば良かった……。
今更後悔しても遅いか………。
ミナの心情は書けたと思うのですが、展開が少し急すぎると言うか、詰め込み過ぎたと言うか………まぁ、辛口評価だと思います。
でもね、此所で書かないと次何時書けるか解らないし、今後の展開楽になるし………言い訳だよ?悪い!!?
あっ、スイマセン。だから濡れたタオルで背中を叩かないで下さい。
まぁ、次回で一応の補足説明とか色々書きます。ですから許して下さい。
それでは……それでは……。