真実一路~彼女は私情を混ぜ合わせそれを決意として固める~
……………どうぞ。
影八目は目の前の光景を疑った。
第二段階まで進み、あと少しで最終段階に入りそうだった空河をいとも簡単に元に戻した。
「………彼女は一体?」
考えられなかった。
月柏は一切特殊な事はしていない。
それなのに、止まった。
「まぁ、貴方達で到底出来ない事ですよ」
不意に、後ろから声がした。
だが、影八目は振り返らずに尋ねる。
「それは何故?」
声の主はクスクスと笑いながら答える。
「何故? 決まっているでしょ? あの能力の使用を強要したからですよ。それに、貴方は人から慕われるタイプではないでしょ?」
「随分な言われようですね。胸に突き刺さりますよ」
態とらしく胸を押さえる。
「まぁ、『隻眼』の中にも信用出来る者は居るのでしょうけどね」
声の主は影八目の後ろに立つ。
「情報を寄こせ。何の為にアンタ等と手を組んでいると思っている?」
声のトーンが一瞬で低くなり、口調が変わる。
影八目は振り返らず、穏やかな表情で尋ねる。
「何の情報ですか? 復讐相手? それとも貴方の尊敬する者が幽閉されている場所ですか?」
「全てだ」
「強欲ですね」
頬を吊り上げる。
「遠慮なんて出来る程ゆとりはない。助け出し、復讐しなければならない」
声の主は人差し指を影八目の後頭部に当てる。
「答えないならば、此所で廃人と化せ」
「ハハッ! ………容赦ないですね。………では、少し尋ねても良いですか?」
影八目は空河を見ながら尋ねる。
「………何をだ?」
「何故、エンゼルは元に戻ったのですか?」
影八目は先程からそれだけが気になっていた。
あの様な事は前にもあった。
その時はαが全力を出してやっと止まった。
それなのに、何の苦労も無く止まった。それが至極気になっていた。
「あれが出来るのは俺が知っている限り2人。鬼手旋士と月柏鈴葉だけだ。この学園で一番空河天士を理解しようとした者達。そして理解したいと思わせた人物だ。つまりは、あの『死の行列行進』は空河天士の深層心理に強く影響しているって事だ。不安定であれば、能力は強まり。安定していれば弱まる。月柏鈴葉は語りかけで元に戻したみたいだが、鬼手旋士は殴り合いだろうな。語り方は人それぞれって事だ」
つまりは精神状態が全ての鍵だと言う事。
空河を理解しようとした者達。
空河に理解したいと思わせた者達。
どれだけの距離かどうか。
それを踏まえて、月柏は自身の心情を紡いだ。
「それだけの事で………」
「去年もそうだったが、能力使用後は空河天士の記憶に欠落が見られた。つまりは殆ど覚えていないって事だ。だからどの様にして戻って来たとか、何を感じていたとか、そんな話は聞けない。残念だったな」
空河は無意識に声を聞き、そして戻りたいと願う。
無意識の空河にそう思わせるには、それ相応の者の声でなければならない。
それこそが繋がりと言うモノ。
月柏が左右に「貴女では救えない」と言ったのはあの場での空河と左右の繋がりが細く短かったからだ。
つまりは今現在であの状態の空河を元に戻す方法は不可視な繋がりでしかない。
全ては両人の匙加減1つ。
「馬鹿らしい。愛だの友情ですか?」
言葉通り馬鹿にする。
すると、影八目の後ろに立つ男が笑う。
「愛を紡いでいるのは月柏鈴葉ぐらいだろう。だが、俺達の関係は友情ではないさ」
「では、何ですか?」
「空河天士も言っていただろ? アイツは救われたいのさ。だから救う。ギブアンドテイクな関係だよ」
「薄情な関係ですね。貴方が此所まで来て選んだのがそれですか? 鴨梨元」
影八目は尋ねる。
「アンタに何かを言われる筋合いはないな。………同じ土俵に立てないなら左右詩祁芽を嗾けるな。いずれ、その興味本位の行動が自分の首を絞めるぞ?」
ゆっくりと人差し指を後頭部から離す。
「………言われる筋合いはないですね。これが私なので」
そう言うと、ズプズプ―――………っと、影の中に沈んで行く。
「情報は彼女の方に教えておきます。………それでは」
「もうこの学園に足を踏み入れるな。………今度はトラウマを脳内再生してやるよ。エンドレスでな」
鴨梨は影に沈む影八目を睨みながら、吐き捨てる。
それを聞き、ニヤリと笑い態とらしく今思い出したと言う様に告げる。
「………忠告です。…………『溶けた翼』は『魔除け』の駆除に動き出しましたよ?」
「なっ!?」
最後の言葉に、鴨梨は目を見開く。
「フフ………どうなることやら」
そう言い残し、影八目は完全に影に沈んだ。
影はゆらり、ゆらりと揺れ直ぐに消える。
影八目が消えた所を睨む。
「………最後の最後に………糞が」
鴨梨は行き場のない苛立ちを吐き捨てた。
星野宮は混乱していた。
いきなり消えた骸骨達。そして、此方を見ている空河に。
早い展開に追いつけなくなっていた。
「あちゃぁあれはマジだな」
頭の後ろで腕を組みながら草島が苦笑する。
「マジ………って?」
草島と初面識のせいか、歯切れ悪く尋ねる。
「今回の目的ってさぁ、君と天士を戦わせる事だと思うんだよね。だから態と嗾けた。まぁ、その予想を上回るハプニングが起きたけどね。それでも天士のあの表情は………君って負けた事ってある?」
いきなり話を変える。
「えっ? ………」
突然で場違いな質問に戸惑う。
「だから、負けた事ある?」
「………それは訓練で? 実戦で?」
「実戦? 何ソレ? 殺し合い?」
草島が眉間に皺を寄せながら尋ねる。
「あっ、いや、殺し合いでは………」
草島が苦手なのか、先程から歯切れが悪い。
「まぁ、どっちでも良いけどさ。その言い方だと負けた事ないらしいね。なら、覚悟しといた方が良いよ?」
草島が星野宮を指さす。
「それは………どう言う意味?」
「君は確実に天士に負ける。踏んできた場数が違い過ぎる。本物と贋作の違いってヤツだよね」
贋作と言う単語に引っかかる。
「贋作? ………私が?」
星野宮が殺気を放つ。
だが、草島は動じない。そして考える様に顔を顰める。
「………そうか、君は『バーディア』の全てを知っている訳じゃないんだね」
「? それはどう言う意味………ですか?」
「尋ねてばかりだね。自分で考えれば? 君が居た学校だろ?」
草島は素っ気なく言い、星野宮から離れる。
星野宮は行き場のない何とも言えない感情を抱き、呼び止めようとしたが止めた。
何を聞きたいか解らないからだ。
贋作、『バーディア』の全て。
訳の分からない事を言う草島が何となく怖いと感じた。
戦っても、何もしていないのに恐怖を感じた。
『破壊狂』との戦闘では死の恐怖を感じた。
左右と対峙して力の差の恐怖を感じた。
そして先程、空河の真実と空河の能力を目の当たりにして、唯々恐怖した。
この学校に来て星野宮は自分の現在地の低さを痛感した。
そして自分の目的がすり替わっている事に気付かされた。
いや、元から気付いていたのかもしれない。
それを自身が自身の為に押さえつけ閉じ込めた。
左右に見透かされた。それは事実で、本当だった。自分の心の蓋を誰かにこじ開けられたと言う感覚が残っていた。
言い訳かもしれないが、自分でその蓋を開けたかった。自分の心は自分のモノで、他人に理解も判断もされたくなかった。
星野宮は拳を作る。
その悔しさは何によるものか?
空河が自分より強い事への嫉妬か、他人に自分を理解された事への苛立ちか。
はたまた自分の弱さに気付いた虚しさか。
唯々、拳を強く握った。
目の前に見える自分のモチベーションであり目的であった人物を見据える。
目的ではダメだ。
心に言い聞かす。
現時点では、確実に彼よりも自分の方が弱い。
認めろ。認めた上で再認識しろ。
彼は、空河天士は自分の目的であり目標だと。
彼を超えて彼を守ると。
押しつけろ。自分の気持ちを。
消し去るな。自分の気持ちを。
「強くなる事」を捨てず、「守る事」も捨てず。
欲張って抱えて、強くなる方法を探す。
星野宮は決意を固めた。
後必要なモノはそれを行う力だけだった。
この決意を実行出来る為の口実、言い訳。
それが今の星野宮には必要だった。
今まで「天士を守る」と言う目的で動いていると思っていた星野宮は他の目的で動くのが怖かった。だから背中を押す何かを、欲していた。
その一歩の為に自身の目的であり目標となるべく人物を見据える。
彼だからこそ。自分の現在地を明確にする為に。
彼ならば………そう思いながら拳を思いっきり握り、叫ぶ。
「空河天士!! 私は私の為に貴方と戦いたい!!」
それは決別の為ではない。決意の為。
心の蓋を開けるのは自分だと、そう誇示する為。
自ら自分の目的に挑む。
「天士を守る為」に力を求めた。
「天才を維持する為」に力を強めた。
それら全てを認め1つに纏めてもう一度自分の目的、目標を再確認する。
「私は………「天士が私を頼る程に強くなる」。それが、私の新たな目的で、目標だ!!」
彼女は一歩前に出る。自分の本当に向き合いながら。
空河より強ければ、必然的に星野宮は天才で居続けられる。有り続けられる。
空河より強くなれば、守れる。一緒に居られる。
星野宮ミナもまた、一途に重過ぎて軽過ぎる愛を紡いでいた。
だがそれは月柏とは違い全てがマイナスからのスタート。
「………手加減は要らないだろ?」
指を鳴らしながら不敵に笑う。
星野宮も笑った。
「上等!!」
今、初めて同じ所に向かう事が出来るから。
幼なじみがぶつかる。
自己中心的に、身勝手に。
自身の為に。
それでも決意は固く。
一方、月柏と陣内は。
「別にアンタと天士が恋仲になった訳じゃないでしょ?」
「でも良い感じだったでしょ? これで私が一歩前に出たって事じゃない?」
「はぁ? どうせ天士は能力使っている時の記憶無いんだから、意味無いじゃない!」
「それでも繋がりよ。私の言葉で目覚める………」
「旋士でも元に戻るわよ」
「今居ない男を持ち出されても………それに私の気持ちはLOVEだから」
「実のならない恋ほど儚いモノは無いわね」
「何言っているのよ。実るわよ。確実に」
「無理でしょ」
「無理じゃないわよ」
「「……………んあぁ?」」
「空河天士!! 私は私の為に貴方と戦いたい!!」
「「!!?」」
「「………どう言うフラグ?」」
彼女等もいきなりの展開に追いつけていなかった。
アレですよね。
書いている本人はキャラ達の心情などは手に取る様に解るが、それを文でどう読んで下さる人に伝えるか、そこが重要ですよね。
作者は残念な事にそれ程の文才を持ち合わせていません。
自分で読んで、「これなら!」と思いますが、実際は伝わっていない可能性の方が高いですし。
何とも言えない感じです。
それでも小説を初めて書いた頃よりかは、少しはマシになっていると………信じたいです。
相変わらずのスローペースで話が進み、未だに見えない感じではあるのですが。
てか、少しシリアスと言うか、作者の小説に登場する女性達は何であんなにも一癖も二癖もあるのでしょうか?
今回はラブコメを目指した筈では?
鈴葉の愛は万人に受け入れられるのか?
そのような事を思いながら前回書き、今回もミナの思いは受け入れられるのか?
と、思いながら書きました。
元々作者は一目惚れって言うのを書くのが苦手なんですよ。
どうして一目惚れをするか解らないからです。
その為、何かと理由をつけないと安心しないんです。
今の状態だと、天士は鈴葉を選びそうですよね。
ですが、ヒロインはミナですよ?(笑)
ベターに行こうと思ったんだけどなぁ~…………。