盤上遊戯~理不尽は全てに措いて平等に不公平に~
・・・四文字熟語じゃないよ?
だって考えるの面倒なんだもん。
調査員に連れられながら、陣内はどんどん第一校舎から離れて行っていた。
「………」
陣内は最初から疑っていた。
何故自分は呼び出された?
何故未だに目的地に着かない?
何故この調査員は先程から挙動不審なんだ?
陣内はこの少しの疑惑から全て推測していた。
自分は離されている。
第一校舎から?
いや、『ボードゲーム研究会』の皆からだ。
何故自分だけ呼び出された?
いや、他の皆も同じ様に呼び出されている筈だ。
一体誰が?
考えられる線は小国章吾が流した噂。それに嫉妬した野郎共。
それとこれを気に私達が気に入らない者達が集まった。
目的もそうだろう。
結局は嫉妬か。
呆れ、そしてそれだけのモチベーションで良く計画したと賞賛する。
「……まだ着かないんですか?」
「は、………はい。もうすぐです」
明らかに肩をビクつかせた。
陣内は既に面倒臭くなっていた。
このまま付いて行っても面倒な事になる。
それならば、此所で逃げておいた方が楽だろう、と。
だが、その考えに至るには少し遅かった。
「着きました」
調査員は立ち止まる。
けれども此所は特別校舎裏。
この時間帯では特別校舎に人は居ない。
それならば、大きな音を出しても誰かが駆けつけるまでに全てを終わらせる事が出来る。
まぁ、言うなら私は舐められたと言う事だろうね。
と、陣内は溜息を吐いた。
舐められるのは別に良いと陣内は思っていた。
だが、問題はこの何かを企む連中が空河を狙っている事。
しかも、その企みに便乗し自分達を叩こうとしている事。
それが至極鶏冠に来て、そしてもの凄く苛ついていた。
「此所で……どんなゲームが?」
無表情のまま尋ねる。
その問いで調査員の女は気付く。
陣内が既に自分達の企みに気付いている事に
だが、動揺を現さず余裕の笑みを浮かべている。
此所がそのゲームの会場だからだ。
「ふふ……ゲームを始める前からゲームの終わりが見えるなんて………残酷よね?」
表情が歪む。
その瞬間、周りから1人の男が現れる。
細身の男。
陣内はその男を見た事が無かった為、きっとRANKⅣかRANKⅡ以下だろうと考える。
だが、この状況で陣内より下のRANKを寄こす意味が無い。
その為、RANKはⅣだろう。
「………はぁ~、面倒臭い。………天士の口癖移ったかな?」
などと言いながら再度溜息。
「ハッ! ………やっとテメェを俺の物に出来る時が来たぜ」
細身の男は舌を出しながら下品に笑みを浮かべる。
「何で私がお前の物にならないと?」
陣内は冷静に尋ねる。
「良いね。良いね。その無表情。その表情が快楽に歪む姿を想像するだけで………ゾクゾクするぜ」
「何なの? マゾなの? 残念だけど。私はお前みたいなカスの女になるつもりは毛頭ない。私はもっと私を大切にしてくれる人が良いの」
「んあぁ? 勘違いしてるな。お前に拒否する権利はねぇんだよ。今から俺がお前を力ずくで支配して、メス犬の様に首に縄付けてよぉ飼ってやるよ。楽しみだろ? 今も濡らしてるんじゃねぇか?」
男は腐った眼で陣内を上から下へ舐め回す様に見る。
「最悪だ。お前と話していると耳が腐る。お前を見ていると目が腐る。お前の吐いた息を嗅いでいると思うと鼻が腐る。お前と言っている事で口が腐る。五感の内、四つが腐る。触覚だけは腐らせたくないから、私はお前に触れない。だからお前も私に触れるな」
冷めた目で陣内は睨む。
だが、その目でさえ男に取っては楽しみの一つに組み込まれる。
「ハハッ!! 良いね、良いね!! その生意気な目をどうやって悲願する目に変えようか………楽しみだねぇ~」
その瞬間、細身の男が手に炎を作り出す。
「発火能力系の能力者………RANKⅣなのはその火力のお陰? それとも何か特別なオプションがあるの?」
陣内はつまらなそうに言う。
「ハッ!! テメェの下の毛燃やすには便利な能力だろ?」
「最悪」
それだけ言い、陣内は目を瞑る。
「んあぁ? 観念したか? ハッハッハ!! 良い心がけだ!!」
男は何かを勘違いし、叫び喜びを露わにする。
その下品で最悪な笑い声を聞いても尚、陣内は目を瞑ったまま。
そして、言葉を発する。
「只今から遊戯を始める。遊戯は盤上。つまりは盤上遊戯。遊戯の種類はランダムによって―――『チェス』」
目を瞑ったまま言葉を発する。
細身の男と調査員の女は意味が不明の言葉の羅列に混乱する。
だが、陣内は続ける。
「『チェス』の盤上を展開。白い駒を出現させます」
「「なっ!?」」
その瞬間、陣内の周りに人の形を象った石像達が現れる。
「今回、王者は『キング』になります。次は挑戦者です。ですが、此所でハンデ付けさせて貰います」
その時、陣内が片目を開ける。
「王者はか弱い女性の為、今回挑戦者の駒は二つ。男性を『キング』に女性を『クイーン』とします」
その瞬間、地面に白と黒が浮き出す。
そう、これが陣内の能力。『盤上遊戯』。
ボードゲームをベースにした能力。
基本ルールはその選ばれたゲームのルール通り。
だが、この盤上では陣内がルール。
今から始まるのは平等な遊戯ではなく、理不尽と卑怯が入り交じる一方的な蹂躙。
「さて、遊戯開始です」
言い切った時、目を開ける。
「先手は私からだ………e2のポーンをe3へ」
その瞬間、ポーンの石像が前へ動き出す。
「な………なんなのこれ? ……一体なんなの?」
調査員が動揺し、自身の立ち位置を動こうとする。
だが、
「なっ!? か、体が動かないッ!?」
調査員は更に動揺する。
「今はゲーム中だ。私に勝つ以外に逃げ出せる方法は無い」
陣内は微笑みながら教える。
「ハッ!! 知らねぇなッ! 所詮はRANKⅢ! RANKⅣの俺に壊せない訳がねぇんだよォォォォォォォッッ!!!!」
手に巨大な炎が生まれ、それを陣内へ向けて放つ。
だが、
「このゲームに炎は登場しない」
その瞬間、炎が宙で霧散した。
「なっ!?」
細身の男は驚愕する。
「舐めるなよ? 三流以下の下種野郎」
睨む。完全に卑下した瞳。
「ほら、お前等の番だ」
「なっ……クッ……」
細身の男は横に立つ調査員を見る。
「解ってるわよ。私に動けって言うんでしょ? でも、こんなのゲームになる訳がないじゃないッ!! 私とアンタしか居ないなんて………」
そう文句を言いながら一歩だけ前にでる。
「b1のナイトをc3へ」
ナイトが動き出す。
その後も、陣内は攻める事はせずじわじわと近づく。
焦る2人。
陣内は表情を変えずに駒を動かし続ける。
そして、
「クッ………」
調査員の女は顔を歪める。
盤上の状況は『クイーン』の完全孤立。
その光景を眺めながら、陣内は駒を無情に動かす。
「f4のナイトをg6へ」
g6は『クイーン』の立っている位置。
その瞬間、調査員は表情を歪める。
だが、その表情に真の恐怖はない。
所詮はゲーム。そうたかをくくっていた。
だが、
「言い忘れていた」
陣内が笑みを浮かべる。
「へっ?」
「………今回は何を賭けているか言っていなかった……」
「か、賭け?」
「そう。今回は………感情を戴くとしよう」
その瞬間、調査員の女と細身の男の表情が歪む。
「なっ!? 何だよそれ!!!」
男が叫ぶ。
「ふざけないでッ!! 何で…何でそこまでされないといけないのよ!?」
女が叫ぶ。
だが、陣内は冷静に笑みを浮かべたまま答える。
「お前等は私に何かするつもりだったのだろ? それならば、これぐらいで平等だ」
その瞬間、『クイーン』の前に立つナイトが石の剣を上げた。
「いや……いやッ!! 止めてッ! 許して……許して……お願いだからッ!!!」
調査員の女は完全な恐怖に顔を歪め、叫ぶ。
だが、
「ゲームは………止められない」
その瞬間、剣が振り下ろされる。
「いや――――」
だが、剣で調査員の体が傷つけられる訳でもなく、唯々そこに立っている。
けれども、明らかに様子は可笑しい。
調査員の女は上を見上げたまま震えている。
そして、直ぐにその震えが止まり表情を無くす。
意図とした無表情ではなく、強制的に無表情になる。
これが代償。
「勝敗がついての代償ではなく、その駒が盤上から消えた時に発生する代償」
陣内は上を見上げたまま動かない調査員を見ていた。
そして、その調査員の女はいきなり盤上の外へ出される。
「………なんだよこれ」
男は動揺する。
調査員の様子は植物人間とも見えてしまう。
自分もこうなるのか?自分もそうなってしまうのか?
そう言う恐怖に襲われる。
「さぁ。お前の番だ」
終わりへ近づく。
現状は、呆気なく終わりを告げた。
「あ………あっ………あぁ………あ………………」
震え出し、その場に蹲る。
事実上の死。
感情の死はそれを意味している。
「終わりだな。さて、トドメだ―――d4のクイーンをa7へ」
動き出す。クイーンが動き出す。
その姿を見ながら震える。
「いやだ………いやだ………いやだッッッッ!!!!!!」
叫ぶ。
だが、笑みを浮かべる陣内は最後に言い捨てる。
「大好きな女に殺されるんだ。本望だろ?」
「イヤダァァァァァァァァァァァアアアアァァアアアアアアアア!!!!!!!!」
陣内は目を瞑った。
「勝者は王者です。これをもって盤上遊戯『チェス』を終了します」
そして、ゆっくりと瞼を開ける。
「………さようなら。三流以下の下種野郎」
そう言いながら去る陣内。
そして、その場には空を見上げたまま無表情な2人が取り残されて………。
短いです。
はい。
まるまる雪袖で使ってしまった。
次回はプーさんか鴨&馬鹿かもです。
まだ決まってねぇーです。