Exclusion beginning~排除開始~
※編集加筆しました。
今回は裏です。
学園って感じではなく、戦闘です。
この物語は現段階では裏・表の差を大きくしようと思っています。
その為、表とのギャップが凄まじいです。
後々その差が無くなってくるかもしれませんが、書きたいのは学園ラブコメなので!!
『宝殿高校』南側。
時刻は0時。
予知が叩き出した侵入者が現れる時刻。唯一の情報。
風さえも吹かない広大な敷地。
街灯も無い暗闇の中、複数の何者かが蠢いていた。
共通して黒い服を纏い、黒いサングラスを掛け、警戒しながらも足を進めていく。
肩から下げたり、手に持つ銃は些か大きすぎ物騒過ぎた。
この学園で武器を持つ者は極端に少ない。
能力を使える者で武器を使う者は数名いるが、それでも本当に数名だ。学園の者でないのならば、つまりは侵入者。
超能力と言う自分の意志で使用出来る言わば兵器。
そんな力を持つ人間が集まっているのならば、それを脅威に思ったり欲しがったりするのは至極当たり前な事だ。この集団も目的はその前者であり後者だった。
集団は辺りを見渡しながら腰を低くしながら進む。
その戦闘を歩く者が木の後ろに隠れ、辺りを見渡す。
「………トラップは皆無です」
足下、頭上。
何処を見てもトラップらしい物などない。
その報告を聞き、集団の男が落胆する様な声を出す。
「はぁ~………能力者がとか言いながら、所詮は学生が溜まる場所か。拍子抜けだな」
表情から一気に緊張感が抜け落ちる。それは他の者も同じだった。
能力者と言う人間の枠では収まりきらない者。
様々な者がこの学園に侵入し、誰1人帰ってこなかった不可侵領域。
だが、そんな話が流れていたにも関わらず、今簡単に侵入出来た事に侵入者達は安堵と余裕を持った。
「………先去 (先に行く)」
1人の男がそう言い残し、歩き出す。
「なっ」
止めようとしたが、言葉を呑む。
「………あの中国人、今なんて言ったんですか?」
「先に行くってよ。此所は日本なんだから、俺等の言う事に従って貰いたいけどな。どうやら俺等を雇った奴は、他国の傭兵崩れも雇ったらしい」
心底嫌そうな顔をし、さっさと行ってしまう中国人の背中から視線を外し、後ろを見る。
「数名アイツに付いて行け。1人は流石に不用心だ」
その言葉を聞き、数名が行ってしまった中国人の後を追うように歩き出す。
「俺等も二つに分けるぞ」
「Wir gehen auch(我々も行く)」
アジア圏内の言葉ではなく、ニュアンスからしてヨーロッパ。
「………ドイツの………そうかい。んじゃ、アンタ等は向こうから」
日本人の男が指を指す。
「Zustimmung(了解)」
ドイツ語を喋る男は数名を連れ、指さした方へ歩いて行く。
「これで俺等日本人だけになったな」
「何で此所に日本人以外の奴が居るんですか? そんなに俺等は信用無いんですかね?」
「少なくとも、俺等だけでは心許ないんだろうな」
2人の男が話している後ろで、1人の男が自身の腕を抱きながらブツブツと呟いていた。
「………ぶっ殺してやる………殺して………殺して………殺して………殺して………」
「何だコイツ? 薬でもキメてんのか?」
「コイツも元傭兵なんですけどね、殺した女が夢に出るらしいんですよ。それで薬に手出して、そのまま虜ってヤツですよ」
「………チッ! 余計な事しなければ良いがな」
そう吐き捨て、男達は歩き出した。
一見しても、統率力の無い集団。寄せ集め。
薬をキメている時点でこの様な隠密には向かないだろう。
不安を和らげるとか、その範疇を完全に超えている。
仲間意識などは当然ない。
撃たれ、倒れる者なら盾にする。
捕まり人質となるならば、その者ごと撃ち抜く。
傭兵と聞けば百戦錬磨を想像する。
が、所詮は崩れなのだ。
その理由が戦争に嫌気が差したなど様々な理由が在ろうが無かろうが、この場に居る時点で殺す以外の自分を生かす場を知らない輩なのだ。
人の死を見すぎた者は、悔やみ銃を手放すか。それでも尚殺し続けるかの二択しかない。
此所に集まった者は皆後者だ。
大義名分も、自身の考えすらも無しに今から銃を子供に向けに行く。
これ程に、救いが無いものが在るのだろうか?
月柏鈴葉は木の枝に座っていた。
耳には拡声装置がつけられている。何もせず、目を瞑りジッと待っている。
『此方小国。発見しました。南側から侵入し、三手に別れ校舎を目指しています』
付けた拡声装置から小国の声が聴こえる。
月柏は瞑っていた目をゆっくりと開ける。
表情には何も浮かんでいない。だが、無と言うのは言い過ぎている。
限りなく感情を消し去った表情。
口が小さく動く。
「………始めましょうか」
捕縛。それが不可能であるならば撃破。
傭兵崩れと『生徒会』がぶつかる―――。
学園の森。林と言うには木が立派過ぎる。ミニチュアの森だろうか?
先行した中国人の男と数名は木々に体を隠しながら確実に校舎へ向かっていた。そんな中、中国人の男は落胆していた。
これが日本の能力者が集う場所なのか?と。余りにも簡単過ぎる。
男はこの警備の薄さは能力に頼り過ぎた結果だと考えていた。
以前にも、同じ様に某国の能力者育成施設に侵入と言う仕事を行ったばかりだった。
その時は20名で事に当たり、侵入する時点で5名が死亡。
任務を終え脱出した時点で生き残ったのは4名。
それ程に各国の能力者への執着保持は強いのだ。
それなのに………。
男は溜息に似た息を吐く。
噂は聞いていた。
「生きては戻って来られない」などと言ういかにもと言う噂を。
それがどうだ?蓋を開けてみればこんなにも簡単に侵入出来てしまう。
自身の力に傲るにも程がある。
となると、噂は真っ赤な嘘なのであろう。
男はさっさと仕事を済ませようと少し歩く速度を速めた。
その時、
「こんにちは。Hello。你好。안녕하십니까。Bonjour。Guten Tag。Ciao。Hola。Oi」
声だけが森に響き渡る。
男達は一斉に銃を構えるが、皆が皆バラバラの方向へ銃口を向けている。
「どれでした?」
緊張感に合わない口調。
だが、男達は姿無き声に緊張感を強いられていた。
中国人の男は奥歯を噛んだ。
既に見つかっていただと?どうして?何故?
自身が見つかった事に対しての疑問。
だが、この状況でその疑問抱く時点で男の底が知れていた。此所は何処だ?それを再確認しなければならない。
そして、直ぐさま考えなければならない。
行き着く答えは1つ。
嵌められた、と。
警備の薄さはブラフ。
侵入者に心理的余裕を与え、周りへの警戒を緩ませ余裕を持たせる為の。
その為用心深さと慎重さが霞んでしまった。
今、自分達が何処に侵入しているか。それそのものが霞んでいたのだ。
傭兵崩れだろうが、戦闘の心得ぐらいは弁えているだろう。
既に、こめかみに銃口を突き付けられている。
既に、喉元に刃先を突き付けられている。
既に、退路は断たれた。
「怎样做!? (どうしますか!?)」
男の後ろから叫ぶ。
この時点で、この集団は三流だと解ってしまう。
男は奥歯を噛み締めた。
安請け合いし過ぎたのだ。メンツをちゃんと確認すれば良かったのだ。
囮を使って退路を作るのも、この寄せ集めのメンツでは誰も手を挙げないだろう。
ではどうする? 戦うか? 姿も見えない相手と?
不可能を可能にする。とは言ったものだ。
不可能を可能に出来るのは、相手の油断と此方の運だけだ。
不可能を可能に出来る力が元から在るのならば、まず自身が窮地に立つ場面などやってこないだろう。
「おや? どうやら中国人の方が居るみたいですね。………初次见面。我、是你们敌人 (初めまして。私は、貴方達の敵です)」
日本語を中国語へ変え、態々挑発するような事を言う。
苛立ちが募る。
自身のミスを誰かに擦り付けたい気持ちになる。
姿無き声の緊張感で張り詰めた琴線が一気に震える。
切れてしまえば、収集は不可能だろう。
男は言い聞かせた。
落ち着け。落ち着け。これは相手の作戦だ。
だが、男は解っていない。それは見事に。
今この場に居るのはこの男一人か?
違う。男含めて6名。
歯車が合わない。いや、元から違う歯車の寄せ集め。
不安調和は既に始まっているのだ。
後は、1本ずつネジを抜いて行くだけ。
「脚震动着哟? (足が震えていますよ?)」
馬鹿にする様に、恐怖を煽る様に。此方からは見えている。そう態々伝える様に。
「………もうそろそろ、良いでしょうか?」
いきなり日本語に戻る。
これの意味する事は、
「退!! (退くぞ!!)」
男が叫んだ。
それは勘。肌に染みついた、死の臭い。
全神経が叫ぶ。
逃げろと。
「状況を破壊します」
その瞬間、男の叫び声で逃げようとしていた者達は、一斉にライフルの引き金を引いた。
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!!!!!!
それは突然。余りにも突然。
敵が見つかったのか? 否、そんな姿は微塵も見えない。
では、何を撃った?
集団は互いの足に銃口を向けて引き金を引いたのだ。
これが拳銃などなら、数発撃てば終わっていた。
だが、ライフル。足は既に蜂の巣と化した。
「「「「「「ぐがァァァァアアァァァァアアアアァァァァッッッッッ!!!!!!」」」」」」
響く叫び声。唐突な痛み。予想外な攻撃。
「到底………什么? (一体………何が?)」
両足をぶち抜かれ、その場に倒れながら男は呟いた。
その目には何が起こったか解らず、混乱していた。
確実に解るのは、考えられない程の痛み。
辺りを見る。
他の者も同様に倒れ、呻き声をあげている。
男はこの状況を見ても、自身の現状が解らないでいた。
すると、茂みの中から現れる。この状況を作り出した者が。
その者は耳につけた拡声装置を押さえながらゆっくりと歩いて来た。
「はい。此方終わりました。どうやら多国籍の様です。中国人の団体は有り得ないでしょうし………はい。今から捕縛し、引き渡します。はい。それではご武運を」
「你………!!! (貴様が………!!!)」
男は吠えた。
だが、体が動かない。
足だけでは? それなのに、何故腕も動かない?
ライフルは握っている。だが、銃口を向ける事が出来ない。
「俺が銃で撃たれると言う状況はやって来ない。何故なら、既にその状況は壊れたのだから」
現れた奥出雲史慈は蔑む様な目で見下ろしながら言い放った。
だが、男は言葉の意味を理解出来ない。
解った事はただ1つ。
「………化ケ物………ガ」
日本語で、最大級の言葉を吐き捨てた。
その言葉を聞き奥出雲は眉間に皺を寄せる。
「貴方達は、屑ですね」
ドイツ人の集団は森の中を歩いていた。
辺りを警戒しながらも、その足取りは軽い方だろう。
だが、集団の先頭を走っていた男が立ち止まる。
「………ist seltsam (………可笑しい)」
呟きながら辺りを見渡す。
男は異変に気付いていた。
周りの者は未だに気付いて居ない。その鈍感さに男は舌打ちをする。
「Die gleiche Stelle? (同じ所を?)」
辺りをもう一度見渡し、手を伸ばし木に触れる。
「あら? 気付いたの?」
「!? Wer ist es!? (誰だ!?)」
男は声のした方向に銃口を向ける。
すると、茂みから短い黒髪を掻き上げながら一人の女性、天下の『生徒会』会長様が現れる。
「素人………ではないみたいだけど、一流って訳でもないみたいね」
微笑む。だが、善意ではない。馬鹿にした笑み。
「此所は日本よ? 日本語ぐらい、喋れるでしょ?」
男は銃口を構えたまま、周りの者に指示を出す。
頷き、他の者達は月柏を取り囲む様にして広がる。
だが、月柏は気にせずに男は見ていた。
「………貴様ガ、コレヲ?」
片言だが、ちゃんとした日本語だ。
「貴方達は既に術中。気付いたのでしょ? 同じ所をグルグル回っている事に」
月柏は髪を後ろで束ねる。
銃口を向ける男は鼻で笑った。
「フンッ! ドンナ、能力カハ知らなイガ、方向感覚ヲ鈍らせるダケナラバ、突破口ハ、アル」
見栄ではない。それだけの実力が在ると言う事を思い知らせる為に態々口にする。
が、月柏は深い笑み浮かべた。
「馬鹿ね」
「………何ガ、ダ?」
男は怪訝な表情で尋ねる。
「どうやら、二流でも無く、三流だったようね」
溜息を吐く。それは挑発。
「ドウ言ウ、意味ダ?」
銃口を少し前へ突き出す。
が、月柏がそれ如きで怯えるか?
能力と言う銃よりも殺傷能力に優れた物を毎日の様に目にしている。感じている。
そして、本人も扱える。
そんな彼女が、この程度の脅しに地面に両手を付き、命乞いをするのか?
浅はか過ぎる。
男達はまるっきり解っていない。
彼女が何故態々目の前に姿を現したのかを。
月柏の纏う雰囲気が一変する。
そして、ゆっくりと口を開く。
「全然駄目ね」
「………何?」
月柏のこの余裕な表情、態度を見ても尚、男は見当違いな考えをしていた。
何処かに伏兵が居るのか?
それとも、何かトラップが?
的外れも良い所だ。
目の前に伏兵よりも、トラップよりも恐ろしい者が立っている事に何故気付かない。
「既に、貴方達の仕事は終わったのよ? 此所から先、進む事は出来ない」
「ハハッ! 笑わせてクレル………女如キニ、何ガ、出来ル? 方向感覚ヲ、鈍らせる程度デ、私を止めラレルト、思うナヨ?」
男がニヤリと頬を吊り上げた。
「私が何時、方向感覚を鈍らせるだけって言ったかしら? 私が言った意味は―――」
そこで一旦言葉を切る。
そして、
「―――私に出会った時点で校舎に辿り着けないと言う意味で言ったのよ」
「!?」
男は少し銃口を下げてしまった。
突然襲ってきた殺気に似た威圧感。
こんな小娘が?こんな小娘如きに私が?
怖じ気付いたのか?
男は目の前の月柏を脅威と定めた。だが、遅い。遅すぎる。
「まずは、周りの人達から」
パチンッ―――。
指を鳴らした瞬間月柏を囲んでいた者達が、糸が切れた人形の様に地面に落ちる。
「ナッ!?」
男が思わず声をあげるが、遅い。
余りにも鈍足。
彼もまた―――、
月柏の右手から炎が現れる。
ゆらゆらと燃え、辺りを照らす。
そして、赤く照らされた月柏の表情は笑みすら浮かべていなかった。
「さようなら。恨むのならば、私ではなくこんな仕事を引き受けた自分を恨みなさい」
「ナッ! ナッ! ナッ! ぐがァアァァアアアァァァァアアアァァァアアアアアッッッ!!!!」
男は炎に呑まれた。
―――彼もまた、三流以下なのだ。
「殺しはしないわよ? 良かったわね。どう? 火加減は良い感じかしら?」
「ぐがアァアァァァアアァァァァアアァァァアアアァァァァアアアアアアッッッッ!!!!」
「そう。満足してくれて、嬉しいわ」
編集前は空河の戦闘シーンもあったのですが、侵入者側描写を増やした為に次回へ
てか、書いている時に思ったのですが、この物語にグロさと言うか残酷描写は求められてないのではないかと。
皆々様は学園ラブコメが読みたいのではなかと。
実際作者も思いました。
・・・でも頑張る。