5_遭遇、ラスボス⁉
「あ……!」
「ん……?」
どん! と。その子の姿を見たとたんに。
自分の心臓の鼓動が跳ね上がるようだった!
「蔵山……、さん?」
学校の昇降口。外履きと内履きを履き替えて、下駄箱に入れる場所。
そこで、僕は。
先日僕の事を振った、蔵山水樹と遭遇してしまったのだ!
「……笹倉君? その人……? だれっ⁉」
うわっ⁈ なんだろうか、すんごい尖った声で聞いてくる蔵山さん。
「誰ってさ? 私は浅見光海って言って。可愛い後輩の恋愛相談に乗っている、優しいお姉さんよ」
今度は僕の後ろから、光海さんの声が聞こえてくる。
なんだよ? なんなんだ?
かたや僕の事を振った美少女。かたや僕の事は彼氏とは見ないと言った上級生。
君ら二人、なんでそんなに殺気立ってんの⁈
「……笹倉君! 見損なった!!」
おわう。なんだ、蔵山さんは何言ってんだ?
突然顔真っ赤にして、僕の顔を凄い表情でにらみつけてくる!
「私が駄目だったからって、一週間もしないうちに! すぐに後釜見つけて来るなんてさ!!」
何言ってんだこの美少女は!! おおきな漆黒の瞳で僕に怒りを撃ち込んできて。
言葉を言うごとに、激しくかぶりを振って。
綺麗に梳かれたストレートの髪の毛が、彼女が肩を動かすごとにさらさらと流れる。
あまりに可憐な様子に、僕は見惚れたけど。
わからん。まったくわかんない。
なんで怒ってんだよ、蔵山さん!!
「あーあ。これだからお嬢様は。いい? 云っておくけど、正時は。あなたの道具じゃないし、親衛隊でもないのよ? 独立した一個の人格を持った人間。変な所有物意識を向けるものじゃないわよ?」
ぐわっ! 光海さんが何でか知んないけど、蔵山さんに攻撃言語をたたきこんでる!!
「笹倉君! 何その女! こんな失礼なこと言われたのは初めてよ!!」
意外だな、この子。こんなに気が強かったんだ……。
そんな感じに蔵山さんの印象が映ったので、僕がぽけーっとしていると。
「なによ、ガキ女!! アンタこそ上級生に失礼なんじゃないの? たかが顔がいいだけでさ!! 私の可愛い後輩を。振っておきながら、それでも好きで居続けて欲しかったの? 甘ったれんじゃないわよ!!」
そして、もう片方の核弾頭。光海さんも全く退きやしない。
やめーてーくれー!!
これじゃ僕は、まさに不実な男。
どっちかと付き合えているわけでもないのに、リスクだけを受ける貧乏くじを引いた形になっちゃうじゃないか!!
「ふん! 2年生の癖に、1年生同士の恋愛事情に口を挟まないでください! ですよ!!」
きっつ。キッツイ言葉を応酬する、蔵山さん。
「そりゃま、たしかに。コミュニティ外の人間が、外側からコミュニティの内側に切り込むのは礼儀知らずだわ。それ位はわかるけどね? 云っておくけど、お嬢さん? 貴方は正時を振る事で、正時をあなたのコミュニティから弾き出したんだから。それでも自分に夢中であって欲しいなんてさ? 都合の良い甘えそのものだと。思いはしないの? おつむの中身の機能は、テストにしか対応してないの?」
どういうボキャブラリだ……。まるで弁論師のように言葉のラッシュを蔵山さんに叩き込む光海さん。
と。
ホームルーム10分前の予鈴が校内に響き渡った。
「行こう! 笹倉君! 2年生の教室は2階だし、私達1年生の教室は3階だし! 急がないと、ホームルームに遅刻しちゃうよ!!」
といって、なんと!!
僕の手をぎゅっと握って引っ張りながら歩き出す蔵山さん。
「こ、光海さん! 午後、アルバイトで会いましょう!!」
意外と握力の強い蔵山さんの手を振り解けず、ずんずん歩んでいく彼女に引っ張られながら。僕は波間に溺れながらも手を振る人間みたいに、光海さんに言葉を告げた。
「正時。アルバイトの時に話聞くわ」
光海さんはそういって、自分のクラスの教室の方に一人で歩き始めた。
* * *
「どういうことなのよ! 笹倉君!」
予鈴が鳴る前に、教室前の廊下に辿り着いて。
なんか泣きそうなぐらい気が昂っている、蔵山さんに。
首を絞められそうなほどに、睨みつけられて。
「な、なんか悪いことした? 僕」
と僕は聞いたが。
「胸に手を当てればわかるでしょ⁈ 私の事を好きと言っておいて、それなのに!! あんな可愛い人とも付き合ってるって! どういうつもりなのよ⁈ 笹倉君!」
激昂して興奮して。
何だか泣き始めて。
「告白してくれて、嬉しかったんだから!!」
って言って、大泣きを始める蔵山さん。
僕は、未知の全く理解できない生物を見るような気持になった。
なんでかって?
なんでかわかるだろ。つまり。
「嬉しかったら、なんで振るんだよ!!」
僕の口からたまらない声をまとって飛び出した、その言葉が。
蔵山さんの行動に対する、僕の持った最大の疑問だったんだ。




