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ナナシの錬金工房  作者: 鈴原みこと
第1話 メイドたちの憂鬱
5/7

感傷的な贖罪

 ナナシの錬金工房を出たオリーヴは職場であるお屋敷に戻ってきた。

「この道をまっすぐ進めば戻れますよ」

 美貌(びぼう)の店主の指示に従って山道を歩いたオリーヴは、いつの間にか見慣れた屋敷の前に辿り着いていた。不思議なことに景色が変わった感覚さえなく、ただ気がついたらそこにいた、という(ふう)だった。夢でも見ていたのかと疑ったほどである。

 ただ、長かった髪の毛がバッサリ短くなっているから夢ではなかったと信じられる。ナナシの錬金工房で願いの対価として要求されたのがオリーヴの髪の毛だったのだ。髪には魔力が溜まりやすいから研究材料として重宝(ちょうほう)するらしい。

 屋敷に戻ったオリーヴは改めて自分の無実を訴え、質屋の店主に再度確認を取ってほしいと願い出た。一夜で髪の毛が短くなったオリーヴに狂気的なものを感じたらしいお嬢様は、もう一度だけ、と了承してくれた。

 ともに質屋を(おとな)ったオリーヴが、ペンダントを持ち込んだメイドの瞳の色がどうだったかを強調して店主に詰め寄ると、印象的な赤い瞳だったと回答があった。地味な髪色との対比でよく覚えていたらしい。

 かくしてオリーヴの無実は証明された。

 リネットはお嬢様のペンダントを盗んだ罪で一ヶ月の減給を言い渡されたが、ペンダント自体は無事に戻ってきていることと、ペンダントを質草に出した際の代金を返金したことで、鞭打ちの刑は(まぬか)れた。

「あなたに罪を着せようとした分の罰はあなたが決めていいわオリーヴ。どうしたい?」

 お嬢様に無邪気な笑顔で託されたオリーヴはしかし、何も望まなかった。

「ひと言謝ってもらえれば、それでいいです」

 場にいる者たちは驚いていたが、オリーヴとしてはさっさとこの件を終わらせてしまいたかったのだ。

 小さく「ごめんなさい」とだけ呟いたリネットは悔しそうだったし反省しているようにも見えなかったが、兎にも角にも謝ってくれた。オリーヴにはそれで十分だった。

 リネットの言葉を鵜呑みにして不当な罰を与えたお嬢様から謝罪はなかった。オリーヴにとってはそちらの方が衝撃的で残念な気持ちだった。

「あなたって寛大なのね。驚いたわ」

 ひとまずの解決をみて、それぞれの仕事へと戻ったあと、メイドの一人に感心したように話しかけられたオリーヴは、わずかに身を固くして緊張した。

 自分の態度が周りにどう見えていたかを自覚したオリーヴは、その反省を活かさなくてはならないが、これまで目を逸らし続けてきた人付き合いと改めて向き合う、というのはなかなか勇気がいることだった。

「そんなに立派なものではないんです⋯⋯ただ、自分の愚かさに気づいて、その恥ずかしさを誤魔化したかった、だけなのかも⋯⋯」

 今まで自分がとってきた態度のせいでどれだけ周囲に不快な思いさせてきたのか――それを思うと、(あやま)ちを犯したリネットの姿が自分と重なって、見ていられなかったのだ。

 リネットを許すことで、自分の醜態(しゅうたい)に対する免罪符を得ようとしたのかもしれない。

「今回のことは、自分を(かえり)みる機会を貰えたと思ってるんです。だから、これ以上大事(おおごと)にしたくなくて」

 これまでとは明らかに違うオリーヴの様子に、声をかけたメイドはきょとんと彼女を見つめ、次いで嘆息した。

「一晩のうちに何があったのかは知らないけど、いい顔になったわね」

 好意的に笑う先輩メイドは「なんか安心したわ」と言ってオリーヴの肩を優しく叩いた。それがとても温かいものに感じられて、オリーヴは少し嬉しかった。

 幾分か気持ちが楽になって、少しずつでもいいから周りとの関係を変えていきたい、とオリーヴは決意していた。

 そしてそれとは別に、あとひとつだけ、オリーヴには片を付けなければならないことがあった。

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