覚えのない罪
「あの子です! あの子が持ち去るのを見ました!」
ヒステリックな声を響かせて、彼女はオリーヴを指さした。
何が起こっているのか、すぐには理解できなかった。ただ、お嬢様と仲間のメイドたちの視線が冷たく突き刺さって、オリーヴの心は恐怖に震えた。
今朝方のこと。この屋敷の一人娘であるお嬢様が、大事なペンダントが見当たらない、と騒ぎ始めたのが発端だった。
昨夜着替えのときに首から外してドレッサーに置き、そのままにしておいたはずのロケットペンダントが、今朝起きた時にはなくなっていたんだとか。
ロケットには亡き母親の肖像画が入っているらしく、命より大事なのだと怒り心頭のお嬢様が、部屋に入った可能性があるメイドたちを集めて詰問し始めた矢先のことだった。
ピンクブロンドの髪を振り乱す勢いで、メイドのリネットが叫んだのである。彼女がピタリと指し示した指の先で、オリーヴは力なく首を振った。
「知りません⋯⋯」
嘘ではない。だってオリーヴはロケットペンダントの存在すら今の今まで知らなかったのだ。もちろんそのことを訴えたが、リネットには鼻で笑われただけだった。
「ウソよ。この屋敷で働いていて、お嬢様が日頃あれほど大事になさっているペンダントを知らないだなんて、ありえないじゃない」
場にいる数名のメイドがこれに頷いている。それ以外も同意見だと言いたげな表情を浮かべていた。
これは、オリーヴの落ち度といえばそうなる。
彼女はこれまで他人に関心を持たずにきた。他のメイドたちと交流する気もなく、ただ坦々と自分の仕事だけをこなす日々。それで不満もなかったし、問題ないと思っていた。
そんな彼女を他のメイドたちは当然のように敬遠する。結果、オリーヴ一人が、誰もが知るはずの事実を知らずにいたのだ。
皆がオリーヴを仲間外れにしたわけではない。オリーヴが自分で輪から外れていたせいなのだから、誰を責めようもなく、彼女はただ俯いた。
だが、それが良くなかった。
その場にいた皆が、オリーヴの有罪を信じてしまったのである。
激怒したお嬢様が「ペンダントをどこにやった」と詰問し、オリーヴが「知りません」と繰り返す。
昨日オリーヴはお嬢様の部屋に入ってもいない。リネットは目撃したはずのない告白をしている。そう訴えても、言い逃れだと決めつけられた。
すっかり主導権を握ってしまったリネットが、金銭目当てではないかと言い出した。あのロケットペンダントには高価な装飾が施されていたから、売り払えば大金が手に入る。
その主張をきっかけに調査がなされ、果たしてロケットペンダントはとある質屋で見つかった。買い取った店の主人が、癖の強いブラウン髪の美少女が売りに来た、と証言したことで、その特徴に当てはまるオリーヴで間違いない、ということになった。
もちろんオリーヴは否定した。やってもいない罪で罰を受けるのは納得がいかない。
いつまでも自分の非を認めようとしないオリーヴの強情さに業を煮やしたお嬢様は、彼女を納屋に閉じ込めてしまった。
閉じ込められたオリーヴは食事も与えられず、毛布すらない状態で孤独な夜を迎えた。寒さに震えて自分の身体を抱きしめ、ひどい仕打ちに悔し涙がこぼれる。
何も悪いことはしていないのに⋯⋯。
嘘の告発をしたリネットと、彼女の言葉を信じた全員を呪いながら、オリーヴの心は薄れゆく意識のなかに溶けていった。




