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目覚めの甘さ

今回が初投稿のめたです。良かったら最後まで読んでくれると嬉しいです

あの瞬間、世界は真っ暗になった。

冷たい金属の感触、激しい衝撃。

そして、意識はまるで遠くの海底に沈むように、深く深く沈んでいった。


次に目を開けた時、俺はまったく知らない場所にいた。


透き通るような青空、緑が生い茂る森の中。

太陽の光が木漏れ日となって地面に踊っている。

しかし、その美しさに心が震えるほどの安らぎはなかった。


身体中に鈍い痛みが走り、思うように動かせない。

手足は鉛のように重く、筋肉は硬直していた。


ゆっくりと目を凝らすと、胸元に小さく輝く紋章が見えた。

それは、見覚えのないマーク。淡い青白い光を放っている。


「……これは、スキル?」


頭の中にふいに、かつてスマホの画面で見たゲームのインターフェースが浮かんだ。

そこには「転生者スキル」として一つだけ表示された文字。


『スイーツ作り』


「は?」


思わず声が漏れた。


俺はずっと、異世界転生したら圧倒的な戦闘力や魔法のチートを得られると思っていた。

剣を振るい、炎を操り、魔王を倒す英雄になるはずだった。


なのに、俺に与えられたのは――甘いお菓子を作る力だけ。


混乱が心を支配する。


「どうして……?」


誰かに問いかけても、答えは返ってこない。


痛みをこらえ、俺は森の中を彷徨い始めた。

周囲は深い緑に覆われ、静寂が支配していた。


だが、心細さや孤独は日に日に重くのしかかった。


やがて森を抜けると、小さな村が見えた。


しかしそこは、戦乱の影に覆われていた。


破壊された家屋、荒れ果てた畑。

村人たちの顔は険しく、疲れ切っている。

子供たちの笑顔は消え、老人たちは長い苦難の歴史を背負っていた。


「こんな世界で、俺は何をすればいいんだ……」


俺の持っていた材料は限られていた。

少量の小麦粉、卵、砂糖の代わりの蜂蜜、そして森で摘んだベリー。


スキルを使い、手をかざすと材料は魔法のように変化し始めた。


粉はふわりと軽く、卵は濃厚なクリームへと姿を変える。

焼き上がったのは、見たこともない美しいケーキだった。


恐る恐る、それを老人に差し出す。


彼は警戒の目で見たが、一口食べた瞬間、表情が変わった。


瞳に久しぶりの輝きが戻り、口元には自然な笑みが浮かんだ。


「……これが甘さか。忘れていた、心の味だ」


その時、俺は初めて気づいた。


この世界は、戦いと悲しみによって、人々の心から喜びを奪っていたのだと。


スイーツはただの食べ物ではない。

心の傷を癒す、魔法のような力を持っているのだ。


「俺は剣も魔法もない。だけど、こんな形で誰かの心を救えるかもしれない」


そう決意した瞬間、胸の奥に深い孤独と覚悟が湧き上がった。


この世界で戦うためには、力だけではない。心を繋ぐ力も必要なのだ。


甘い香りが村に漂い始め、少しずつ人々の表情が変わり始めた。


でも、これは始まりに過ぎない。


この甘さが、世界の闇をどう変えていくのか、俺にはまだわからなかった。

最後まで見てくれてありがとうございました

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