デートは何処に行きたい?
これは書き下ろしです。
今まで生きてきて早数十年、独り身のまま生きてきた。故に、王道のデートというものを全く知らない。どうすれば良いのだろう。遊園地? 映画館? それとも美術館?
「あんまり気張るな。お前が行きたいところを言えば良い」
好きなところ……。けれども折角の初デートなのだ。適当な場所を上げて台無しにしたくない。
そこで思い浮かんだのは昔見た少女漫画の一幕だった。大人の女性の理想のデートプランで水族館が描かれていた気がする。じゃあ。
「水族館で」
「分かった」
彼は静かに了承すると、持っていたスマホを操作して、何やら調べ物を始めた。キョトンとするのも束の間、彼はスマホの画面をテーブルに差し出した。
「都内の有名どころで行くと、此処と此処」
一つは都内有数のデートスポット、もう一つは大都会の一部エリアを開拓して作られた場所。何方も非常に人気の高い水族館だった。
本来ならば、都内有数のデートスポットを上げるべきだと思うのだが、交通の便を考えると大都会の一部を開拓した方が良いだろう。此方は予約が必要なそうなので、会話の後にでも入れておこう。
「じゃあこっちで」
「分かった」
彼はまたスマホを操作すると、鞄の中にスマホをしまった。
「予約入れといた。だからチケット買う必要ないから」
「うん?」
思わず時が止まる。何か物凄い彼に借りを作った気がする。其れも予約を通り越したお金に関する出来事のような……。
今の彼の言葉を反芻する。『チケット買う必要ないから』。うん。彼はこう言った。
いや、納得するな。私もスマホを取り出して、改めて入園料を検索。約三千円。慌てて財布を引っ張り出すと、彼の前に献上した。
「お納め下さい」
「いや、別に支払わくても」
「君と付き合えてとても幸せ者だと思ってる。昔から凄く優しい人だとも思っている。けれどもお金の勘定はまた別の話だから。此処をなぁなぁにすると恋愛以前に友愛も破綻するから」
暫く彼と見詰めあった。もしかしたら睨み合ったと言っても良いかも知れない。彼は呆れた様に鞄から財布を出すと、渋々と言うように財布の中に千円札を入れた。
其れから二人で食事をした後の事、彼は席を立った。
「悪い。ちょっとトイレ」
「はいよ」
少しづつではあるが、自分から行動する事も出来ている。彼が戻って来たら、当日の待ち合わせ場所をバス停にする提案をして。其れから。
「待たせたな。帰るぞ」
気が付くと彼が立っていて、私の事を見下ろしていた。帰る準備は万全で、鞄さえ持てば何時でも出られる状態だった。私も財布を出して席を立ち上がる。しかし。
「勘定済ませたから、後は出るだけ」
「君ってやつァよォ!!」
私が叫んだのと、彼がニヒルな顔を浮かべたのはほぼ同時だった。
お金の話ってとても大切で、ここがなぁなぁになると全てが崩壊すると思ってるんです。
だから可能な限りフラットにしたい。
貸し借りなしね。仲が良いから。
これお読みの方、私の連載初めてですか?
初めてだと思ってお話させて戴くんですけど、やたら水族館行きたがります。
理由は小学生のときに読んだ少女漫画から。
綺麗な先生が『水族館デートするのが夢』と言っていた事が印象に残っているから。
え、デートって何するの?
作者、人間に対しては拗らせた厄介ヲタだから、これから先、誰かと付き合うイメージが全く無いんだけど。