別れよう
短編
気遣いで付き合わないで
ですね。
失恋の痛みは新しい恋で忘れるべきだ。というのはとある有名人の名言である。つまり他の何かで頭を一杯にする事で、今の苦しい過去を忘れようという荒治療的な手法である。
幸い、今は新しい恋を始める相手もいる。そして相手も自分と付き合おうと言ってくれた。けれども私は――。
「別れよう……」
週末、私は彼と約束した通り、近所のファミレスを訪れていた。辺りには家族連れや、友人間の会話で非常に賑やかであった。けれども私が言い放ったのは其れと対極に位置するものだ。
「まだ失恋を引き摺ってんの? 未練タラタラなのはお前のせいじゃない。俺の落ち度だから気にするな」
「いや……引き摺って無いとは言いきれないけど……」
そう、其れも問題の一つではある。今まで仲の良い幼馴染だと思っていた相手から突然告白されて混乱しているのもそう。けれども何よりそれ以上に。
「気遣いで付き合って貰うの……申し訳ないから」
この間帰る時、早々に言ってしまえれば良かったのだが、如何せん私の意思が弱くて有耶無耶になってしまった。けれども漸く言えた。
私の友人達は皆良い人である。だから自分の身を削って空いての幸せを願うという事もおかしくは無い。けれども……その優しさに縋り着いて自分の苦しさを埋めるような真似は絶対にしたくない。
漸く言えた。こう言えば相手も分かってくれる。そう思って彼の顔を真正面から見る。けれども彼の顔は思っていたのと全く別の表情だった。
「気遣いで付き合ってるのはお前の方だろ? 其れが苦しくて別れようって言ってんじゃないか」
怒りに満ちた形相で私の事を睨む。其れは幼少期に『何でも譲る癖やめろ』と私に指摘した形相と非常に似通っていた。
けれども彼が言ったことはもっともで、だから何も言えなくなる。
恐らく私は恋愛感情がないまま彼と付き合うのが嫌なんだ。其れを……彼に責任転換してしまってる。
「未練タラタラならあらゆる手段で忘れさせれば良い。そう言ったのは俺の方だ。無理矢理付き合ってるのはお前の方だし、俺はお前と付き合えただけで幸せだから、もっと我儘言え」
「有難う」
何時も彼に助けられてばかりである。もう少しちゃんとしなくては。そう考えると自分のやる事も必然的に見えてきた。
「あのさ……明日もまた、遊ぼう。予定空いてる? 」
「あぁ」
前までは『恋愛感情芽生えないと思うよ』発言で終了しましたが、
『やる前から諦めるなよ!!』という思いから変更しました。
そういや桜ってクローンなんですよね。
欠点が定まってるから、そこを突かれると非常に弱い。
それらを補ってこそ、人間だと思うので。