流されちゃ駄目だよ
短編
家では暴君
です。
彼奴と別れた後、弟は俺が抱えた熊の縫いぐるみの女の子を凝視して首を傾けた。
「兄ちゃんが女の子なの?」
「あぁ。交換したからな」
静かに頷くと、弟は大変怪訝な、いや、恐ろしい物を見た様な顔をした。
「其れは兄ちゃんが交換したかったから?」
「そうだよ。俺から願った。ほら、ゲームするんだろ?」
此方がそう促すと弟は黙って頷いて、俺に用意していたゲーム機を差し出した。胡座の上に先程交換した熊の女の子の縫いぐるみ。其れを抱え込む様にして、弟から借りたゲーム機を構える。
するとまた弟が口を開く。
「最近の姉ちゃん、また煩いから、てっきり無理矢理交換したのかと思った。『うるせぇ、私のだよ。黙って言うこと聞け』って」
……前々から思っていたのだが、お前の姉はそこまで傍若無人なのか? 俺が知っている限り、彼奴は何時も自分を殺してばかりだった。間違っても人のものを奪う様な輩ではない。
そんな身内に対してそれなりに失礼な事を飲み込んだ。
「姉ちゃん、俺以外の人と一緒に居る時は何時も猫被ってるけど、本当は凄く乱暴なんだよ。
最近はまた凄く慌ただしい音を立てて二階まで駆け上がるし、『姉ちゃん煩い』って怒鳴り込んだら変な張り紙貼ってるし、覗き込もうとしたら、取っ組み合いの喧嘩になった。其れで母ちゃんに怒られたんだよ」
「変な張り紙って?」
あれには心当たりがあった。けれども其れを確かめずには居られなかった。
「恋愛三ヶ条って奴」
あぁ、やはりあれだったのか。部屋を訪れた時に見た。
彼奴は俺に対して恋愛感情を持つ為に、態々部屋に張り紙まで貼ったのだ。
付き合う事に対して様々な事をしてきた。けれども其れで彼奴が俺の事で焦燥を感じてしまったら、本末転倒である。
焦らなくて良いと言いながら、無理に迫って圧を掛けているのは此方の方かも知れない。彼奴が心から俺と触れ合いたいと思ってくれるまで、ちゃんと見守り続けなくては。
そう、改めて心に蓋をしようとした時だった。弟は俺の袖を引っ張ると真っ直ぐな目をしてこう言った。
「だからね、兄ちゃん。それぐらい姉ちゃんは自己主張が強いから、兄ちゃんも同じくらい強くて良いんだよ。あんまり遠慮していると、兄ちゃん優しいから流されてちゃうよ」
その言葉に思わず口を噤んだ。いや、俺は遠慮なんかした事はない。
「大丈夫だよ。無理をさせているのは俺の方」
幸せにさせると言っておきながら、俺も彼奴を利用して幸せになろうとしている輩と大して変わらない。
姉の解析度、高いでしょう?
周りからの意見を総合して作ったんですよ。
外では猫被りますよ。皆が皆。
その方が生きやすいから。
そして彼女が隠していても、周りにバレバレです。
弟は喧嘩しながらも彼女の事を心配してます。
ただ気遣いの仕方が小学生特有の突っかかりなので、
『やーい、やーい、湿度高い顔しやがってー』です。
でも反応無かったんだろうな。
『……で?』って。
彼女にとって、彼は精神安定剤の役割を果たしているので、居ないと駄目。絶対駄目。
だからくっ付けました。




