馴れ初めは?
短編
愚痴ではなく惚気
です。
「ハンバーグオーブンに入れたらそっち行くから、先に座って待ってて」
母はそう言うと手早くオーブンにトレーを入れ、タイマーを設定した。其れから私の前に座ると、頬杖を着いて問い掛ける。
「君、自分の父親の性格、どう思ってる?」
「どうって……」
何時も単身赴任で家に居ない、家族とは別居状態の父の姿を浮かべた。
非常に天然でお人好し。何も無いところでよく転ぶ。典型期なドジっ子だった。そんな父がどうやって母と知り合い、私達二人の子供を設ける事になったのかは知らない。母も話さなかったし、私も聞こうとしなかったから。
目を泳がせる私を他所に、母は大きな溜息を吐いた。
「マヌケでドジでお人好し。何時もヘラヘラ笑って何も無い所で転び、頭を掻いて、詫びを入れる様な人。お菓子を分けようと袋を破裂させ、周りに散らばらせたのは昔から……。はぁ……」
口を開けば父に付いての愚痴ばかり。普段表情の変わらない母の眉間に皺が寄り、呆れた様な表情に変化する。非常に珍しい事だった。
母は基本的に無表情かつ無口な人である。句読点一つで話が終わる。其れを例え愚痴であってもここまで口を開かせられるのは、ある意味凄い事である。
こういった場面を何度も見てきたからこそ、あまり聞く必要を感じなかった。
私が惚けた顔で話を聞いていると、気が付いた様に母が真顔に戻る。
「あぁ……いけない。私達の馴れ初めや付き合った後の話だったね。
デートの発案は何時も相手が考えてくれた。よく行ったのは、美術館、博物館、水族館。『君、こういうの好きでしょ?』と言いながら、様々な場所へ降り立った。
でも大抵その後は予定を決めていないか、逆に詰めすぎて調整するのは私の役目だった。
恋人らしい事をしたのは随分と後だったね。出掛けはしたけど、手を繋いだのは付き合ってから半年経ってから。其れも私からだった。家に招かれたのは随分と後。
其れでも……悪くないと思っているよ。正反対だからこそ、補え合える事も多い」
父との馴れ初めを語る母は普段からは考えられない程に饒舌だった。表情筋は欠片も動かないが、口調や眼光がその優しさを物語る。やはり、なんだかんだで父を愛している。
「時間、掛かったんだね」
「正反対だった。それでも互いにそれで良いと受け入れて、此処まで来た」
そう言って私の方を黙って見据える。真摯な目だった。その言葉に誇りを感じさせる程。
彼が今の私を受け入れてくれている。焦る必要はないと。待ち続けると。その言葉を無視して暴走したのは私の方。だから、今少し彼を信じなくてはならない。
「まだ聞きたい? 君の父親の愚痴」
「もう良いかな」
愚痴ではなく、惚気だし。
ちなみにお菓子チリジリ事件の話はどっかの短編で書きました。タイトル忘れました。
確認しました。
回りくどいな
ですね。
クールな母が此処まで饒舌に語ること自体、凄く珍しい事。
彼女ちゃんが言ったように、惚気話始めそうになったら『で?』、『何を期待しているの?』と無表情で返します。
だから文句言いながらも愛しているんですよ。
『どうしようもないね。本当に( ー́∀ー̀ )』
内心こんな感じ。
真反対だからこそ、新たな発見がある。
新しい景色が見える。
それが存外、悪くなかった。楽しかった。だから結婚して子供もいる。
そんな母の愛情トーク。
珍しい!!




