お前の姉ちゃんのものだから
これは多分、書き下ろし。
雌雄対となる縫いぐるみを取った後、私は息子と共にカフェに来ていた。丁度三時のおやつの時間であったし、一休みがしたいと息子から言われての事だった。
弟はクリームソーダを崩しながら、私に問い掛ける。
「兄ちゃん、帰っても居るかな?」
「釘刺したからね。居ると思うよ」
私が刺した釘。『五時以降に帰るから』、『戦利品を得られたら君に渡そう』この二つの意味を合わせると、五時以降もあの場所に居ないと戦利品を受け取れない。つまり五時以降、私達が帰って来る時間になっても、お前は帰るな。という意味である。
この言葉の意味が分からない輩では無いと思っている。君、頭回るだろう? そう迫り上がる口角を珈琲を嗜む事で誤魔化す。この様な表情、あまり子供達には見せたくない。
「じゃあゲームしたい!!」
「あんまり邪魔するなよ。お前の兄ちゃんは、お前の姉ちゃんの物なのだから」
「えー……」
不貞腐れる息子を相手に私はただ微笑む。付き合って以降も息子の面倒を見させるのは、流石に娘に可哀想だ。今日だってそう思って連れ出したのだから。
娘は誰かの為に自分を何処までも犠牲に出来る。其れが自分の大切な人ならば尚更。けれども唯一犠牲に出来ないものがある。それはあの若造との関係であろう。
少し前、若造が家に来る事は疎か、名前が出る事も少なくなった時がある。その時、あの子は明らかに元気がなかった。異様に大人しくなったその様は非常に“らしく”なかった。
必死に誤魔化していたから、敢えて突っ込む様な野暮な真似はしなかったけれど。
あの若造がどうなろうが、私の知った事では無い。けれども二人の関係が切れたら恐らく、あの子はあの子のままでは居られない。それ程の精神安定剤の役割を果たしている。だったらあの子の笑顔の為に、一役買ってもらおうではないか。
で息子と娘の事を考えて、私は一つの提案をした。
「でも引き留める手段は多い方が良い。私も手を打ってあげよう」
「?」
「お前が大好きな兄ちゃんに夜、食べてって貰おうと思ってね。そうすれば、夕飯出来るまでの間、二人か三人でゲーム出来るよ」
別に嫌な話じゃないだろう? 弟は若造にいて欲しい。あの子もきっとそう。じゃあ、私は『帰る』という逃げ道を徹底的に塞ぐまでだ。
私の提案に弟は爛々と目を輝かせた。よし、交渉成立。
「夕飯買って帰ろう」
時間的にも悪くないだろうしね。
そうこれー。
本人は良い感じに誤魔化せていると思っているのに、周りにはバレバレ。
失恋のショックで落ち込んでるなんて知る由もない。
だから母は『あの若造と一緒に居ないからか』と思ってる訳です。
ちょっとした誤算ではありますが、あながち間違っては居ません。
幼少期から、ずっと一緒に居て今まで頻繁に繋がりがあった人と話せなくなったら、精神的に負担があると思うんですよ。
失恋だけじゃないと思うんですよ。
辛かったあの想いを、信頼出来る誰かに相談出来なかった苦しみもあると思うんですよ。
思春期なら親には恥ずかしくて言えないだろうし。
クラスメイトなら、変な噂流されたり、ギスギスしたりしそうだし。
特に、女子同士の秘密はすぐバレっから却下。
私、なんの恨みがあるんだろう。
だから唯一頼れるのが彼なんですよ。
長年の信頼と、寡黙故の誠実さがあるの。
でも出来ないじゃないですか。
惚れた人が別に居るのに、他の男の子に相談なんて。
だから病める時も健やかなる時も、一緒にいてあげて欲しいと思います。




