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クマを下さい

これは書き下ろし。

私は息子が望むがまま、共にゲームセンターを訪れていた。ガチャガチャとした騒音の発信源は言うまでもなく、周りに鎮座する大型ゲーム機から。その中でもやはり多くを占めるのはクレーンゲームである。私達はその隙間を縫って、目当ての品を探す。

趣味と実益を兼ねて沢山のお菓子を落として、友人やその子供達に配って来たが、今日は形に残る物の方が良いだろう。そう思って辺りを見回していると、あるものを発見した。

とあるテーマパークの雄雌対となる熊の縫いぐるみ。その似て非なるものである故に細かい設定や物語さえ存在しないらしい。つまり私の中では本家大元の模造品である。だがそんなのは関係ない。あの二人が対となる物を持つ事に意味がある。

「母ちゃんそれ取るの? お菓子じゃなくて」

「あぁ。留守番をしている二人のお土産だよ」

息子のきょとんとした顔を他所に、私は銀貨一枚を投入口に入れた。

最近のクレーンゲームは一発取りが難しい。故に何度か硬貨を投入して、位置をずらして落とす事が基本となる。胴体と比べて頭部が重い事を予測し、まずは頭をクレーンの端に引っ掛ける。少し持ち上がり、僅かに穴へと近付いた。同様の手口で頭部を引っ掛け、また近付ける。これを数回繰り返すうちに、頭から真っ逆さまに熊の縫いぐるみが落ちて来た。

自分がやっているにも関わらず、息子はらんらんと目を輝かせる。私の代わりに雌のぬいぐるみを取り出し口から引き寄せると、笑顔を浮かべる。

「母ちゃん、それ姉ちゃんの分でしょ? じゃあ兄ちゃんのも」

「分かっているよ」

小さな生き物が可愛らしい縫ぐるみを抱き締めている。それだけでも絵になる光景だった。私は息子の頭を掻き回すと、次は雄の縫ぐるみを取ろうと店員を探す事にした。と、その前に。

「姉ちゃんの分の縫いぐるみ、お前が守っていてくれるかい?」

「しょうがないな。特別だよ」

とは言いながらも満更でもなさそう。ニヤニヤと上がった口角が其れを物語る。

息子にとって若造の方がヒエラルキーは上。其れは娘にとってもそうだろう。だから互いが互いにぞんざいに扱う。けれどもきっと、根底までぞんざいに扱う気は更々ない。

近くを通りかかった店員を見つけると、私は今取ったばかりのゲーム機を指さした。

「すみません。この男の子のバージョン、並べて頂けませんか?」

「……はい。ただいま……」

そそくさと準備を始める私を他所に、息子は裾を引っ張る。何か言いたげだったので、屈んで耳を近付けると、困った様に囁く。

「母ちゃん。目付きが鋭いから店員さん引いてるよ」

息子よ。其れは生憎、私が直せるものではなくてね。

このシーン、

『すみません。その雄熊、並べていただけませんか?』

にするか考えてたんです。

『雄熊』、『雌熊』呼びは、親族由来です。

『なぁぁぁあんで、「男の子」、「女の子」呼びしないのぉぉぉお!!』

という私の叫の元、元に戻りました。


ラスボス系母の、クレームゲーム得意な伏線回収です。


寒い。冬眠しそう。

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