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恋人に求めるもの

今更ながら、短編

出来ないよ

です。

時計を見ると五時にはまだ時間がある。この間部屋に貼り紙をした時の様に弟が入ってくるなんて事は無い。空気が……壊れる事もない。

私は大きく深呼吸を行うと姿勢を正して彼を凝視する。

「あ……あの……」

「あんまり無理は……」

「それは大丈夫」

大丈夫。無理はしてない。ただ少し恥ずかしいだけ。何時かは聞かなければならない事を、今此処で聞いているだけ。チャンスは今なのだ。

「恋人として求める範囲って、どの程度……?」

言われた彼は虚を突かれた様な顔をして、私の顔を凝視した。『一体何が言いたいのか?』と顔に書いてある。

私は友人と恋人の違いというのを頭でも肌感覚でも分かってない。友人同士だって手を繋ぐ、抱き締め合う、『お食べ』だって……。キスは流石にしないかも知れないけれども、海外だったら普通な気がする。今までその範囲はしてきた。でも。

「手を繋ぎたい。抱き締め合いたい。キス……したい……。それ以上の事……とか……」

声が段々と小さくなっていく。今まで当たり前に傍に居てくれた分、そうなる事の想像が出来ない。もしもその域にまで踏み入れて、私は、私達の関係は今までのままで居られるだろうか?

「今言った事、全部したい」

俯く私に向かって、凛とした声が部屋に響く。その声が今このときを止めた気がした。その癖、心臓は何時もの二倍速で早鐘を打つ。怖気付くを通り越して呆然とした事は頭で分かっていた。

分かっていた事じゃないか。再三、彼にも自分にも言い聞かせて来た事じゃないか。『恋人として好きになりたい』と。けれども彼の優しさに甘えて、親愛止まりな関係を続けてきたのは私の方じゃないか。

「自分から……唇に……キスして……みる。だから……目を……閉じて」

「お前……」

しり込みを続ける本心に気付かれない様に、関係が変わる恐怖を振り払う様に、彼の顔に向かって手を伸ばす。指先で瞼に触れて、撫でるように閉ざた。そして頬を固定する。

恐る恐る顔を近付ける。近付いて、近付いて、もう少しで唇に触れ合うというところで、首がぐねりと曲る。最終的に押し当てられたのは、唇の端。ギリギリ唇に触れ合わない、頬だった。

私は強ばる首を動かして、また唇に標準を合わせようとした。しかし。

「もう十分だよ」

彼の手が後ろに回る。顔が離れるのを拒む様に、自らの肩に押し付ける。それをされた途端、全てを悟った。私は彼の気持ちを突き落としたのだ。それも手を振り上げて、高いところから。

「ご……御免なさい。次は……」

このまま終われない。終わっちゃいけない。駄目なんだ。だから私から唇にキスをしろ。

「頑張ってくれてるの、すげえ嬉しい。お前から『お食べ』されたのも、抱き締められたのも、キスをしようとしてくれたのも、全部、全部、嬉しい。

でも焦ってるのを見るのは好きじゃない。俺が見たいの過度に人に気を遣わず、気ままに生きるお前だ」

彼の腕が背中を撫でながら肩へと移動する。

「焦りに身を任せて唇奪うなよ。よし」

そうして肩を抱いたまま、ただ優しく笑った。

「傍に置いてくれて有難う。だからまた手の甲にキスさせて欲しい」

そう言って、流れる様に、想像を超えた靱やかさで、私の手の甲にキスを落とした。

作者はどうにも推しに蹴りを入れていくスタイルなので、大抵一回は心折ろうとします。

無理なら辞めます。


短編はモヤッとしていたので、此処で改変。

『やる前から泣くんじゃない。やってから泣け』

という私の平手でこうなりました。


変温動物なので、寒いと眠くなります。


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