君のキスは優しいね
短編
まだ本番じゃない
です。
「じゃあ次、顔な」
口にキスへの前の前段階として、指、手首へと口付けを落とした彼はただ静かに宣言した。
顔。五感の大部分が集約されている場所。中でも体のほぼ全てを司る脳みそが埋まっている場所。だからこその人体の急所。そこに口付けるという事は、やはりそれなりに意味がある。
けれども間接キスから始まり、キスを願われ、こうして慣らしまで経た。もう待たせるのはやめだ。これ以上、彼の好意に甘える訳にはいかない。
そう決心した顔は、睨んでいる様に捉えられたのかも知れない。彼の指先が私の頬を撫でた。
「あんまり緊張するな。嫌なら止めるから」
「そうしてズルズル後回しにするのが一番嫌!!」
彼を待たせるのも、躊躇わせるのも、全部嫌!!
すると彼は吹き出した様に笑った。俯いて腹を抱えると笑い声を抑える様にくつくつと笑う。
「ぶっ……お前らしいな。本当に」
次に目を合わせた時は目に真心が宿っていた。彼も覚悟を決めたのだと知った。
彼は私の髪を、頬を撫でる。其れから前髪を捲り、額にキスを落とした。其れは指先にされた時よりもずっと繊細だった。無闇矢鱈に押し付ける真似はしない。泡沫のキスだった。
其れで彼の緊張も解れたのだろう。額から唇が離れ、流れる様に頬へと移動する。彼の手が怪我をしない様に半面を包み込むと、頬にキスを落とす。雪のようだった。淡雪の様に頬に乗り、溶けて消えてゆく。
全ての儀式が終わると、彼は私の体を引き寄せて、そっと抱き締められた。
「君のキスは優しいね」
キスは勿論、抱き締める腕も、性格も、何もかも優しい。私も……こんなキスが彼に出来るだろうか……。難しいかな?
「ずっと惚れてた女が漸く此方に意識を向けてくれたんだ。自分の欲を優先させて、拒絶されるのは真っ平御免なんだ……」
彼は本当に……昔から……きっとずっと……私を好きだった。きっと私が初恋を知って、失恋を覚える前から……。
「まだ終わりじゃないよ」
本番はまだこれから。
作者、何時も思うんですけど。
こういう身体的接触を無理に進める人、男女問わず、殴られても文句言えないと思うんですよ。
私の中で、これを『まぁまぁ、慣れるから!!』みたいな事言う人は、心のシャッターガラガラです。
金輪際、関わらない事を心に決めます。
大金叩いて人形を買え。タダで人を買うな。
※ことこの事に関しては地雷。
当たり前な事ですけど、こういう事を親身になって考えてくれる人はやっぱり心を預けたくなります。
人間嫌いが信頼する相手っていうのは、一般の方からしたら、大親友になって問題ないレベルだと思います。




