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童話のクライマックスじゃない

短篇

御伽噺のラストじゃない

です。

彼のキス慣らしの提案を受け、私は床に貼り付けた指をぴくりと震わせた。まだ緊張はある。けれどもそんな間もなく、彼はその手に目配せをした。

「じゃあまず、指貸して」

言われるがまま手を差し伸べると、両手でゆっくりと包み込む。其れから愛おしむ様に撫でられた。まるで大切なものを其の掌の中に納めた様に。

彼は優しげな目をして、私達の手に自らの顔を近付ける。顔から遠い位置にあるせいだろうか? この間、顔に迫られた時よりも、強ばる事はなかった。

彼の掌が名残り惜しげに私の甲から離れると唇がゆっくりと近付いてくる。触れ合うまで後僅かという所で、切れ長な目を閉ざし、唇を当てた。

恐らく体中で最も柔らかい部分。愛をつたえる為の部分。其れがわたしの指先に当たっている。あれほど怖かったのに、今はそこまでではない。

触れ合うのは数秒だったが、私には眠り姫が目を覚ます程、長い時間に感じられた。

「で、感想は?」

「童話っぽい」

物心着いた時から少女漫画よりも少年漫画を読む様になっていた。だから繊細な心理描写よりも、胸が熱くなる戦闘場面の方が好きだった。だからこう言ったキスシーンというのは、日常から乖離された崇高な儀式の様に感じられた。

「童話読んでるイメージ。そんなに無かったけど」

「雰囲気だよ」

彼はその返答に僅かに顔を綻ばせた。緊張が解けて、安心した表情。それを見ていると此方も安心する。彼にとっては、私に安心を与えるのが第一と思っているかも知れないけれど、彼もこうやって安心してくれたら嬉しいな。

彼はまた両手で私の手を包み込むと、そのままくるりと腕を裏返した。青白く、神経が幾つも通っている部分、そこを脈でも測る様になぞった後、また先程と同じ様に口付けを落とした。

皮膚が薄い。肉も薄い。神経をそのまま触れられた様な部分。其れに振れられるとなんだか擽ったくて、身動ぎした。

あぁこれは、童話の最後で王子様がお姫様に落とすキスではないのだ。其れには余りにも生々し過ぎる。血の通った人間が行った行為なのだと再認識した。

「擽ったいね。急所……だからかな……」

体温が上がる。恋人らしい生々しい空気に僅かに心が揺れる。其れを悟られないように、目に力を入れた。

「これまで何度も手首を掴んで歩いた。ただ手を掴んだだけじゃ、逃げられてしまいそうで。だからこれは……一種の贖罪……」

そんな事言わないでよ。これから先、私が逃げる事も無いとは言えないのだから。

この短篇、非常に気に入っているので、原点通りに行きました。


御伽噺のラストって大抵、王子が姫にキスして終わる。ちゃんちゃん。な感じじゃないですか。

其れに幼女って憧れるんですよ。『素敵だな』って。


でも実際にやられたら、そんな綺麗なもんじゃないと思うし、様々な感情が綯交ぜとなって出ると思うんですよ。


だからそこまでキンキラキンではないと思います。

なんでこんな擬態語が多いんだろう。

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