五時以降も
これは書き下ろし。
母様の解説を此処に入れておきました。
彼を部屋に上げると、視線だけをぐるりと動かして辺りの様子を観察した。そこでベッドの上の貼り紙を注視する。そこには『恋愛三ヶ条』の文字……
そのままだった……。という焦りを誤魔化す様に、私は話題を振る。
「そ……そう言えばさ!! 母が言っていた『言ってる意味、分かるね?』ってなんだろうね。私……全然分からなくって……!!」
どうしよう。焦るのを誤魔化そうとしているのに、墓穴を掘っている気がする。寧ろ『今まで以上に焦ってます』と態度で示して居るようなものだった。
しかし彼は特段指摘する事なく、静かに『あぁ……』と答えた。
「お前の母さんと弟は『五時以降に帰る』と言った。そしてその次に『君に戦利品を渡す』とも。だから俺が五時以降もこの場所に居ないと戦利品を渡せない訳だ。つまりお前の母さんが言いたいのは『五時以降も此処に居るように』って事だと思う」
そう言われて見れば、私に話し掛けた時に一度目の『五時以降に帰る』。彼に向かって二度目の『五時以降に帰る』を言っていた。
母や弟が何時帰って来ようが彼にとっては重要な話ではない訳で、其れを態々母が彼に伝える。という事自体、それなりの意味があったという事だ。
思わずぽかんと口を開けて彼を見ていると、彼はさもおかしそうに声を上げた。
「お前は少し抜けてるから、そこが可愛い。そしてちょっと心配」
抜けている。という事は特段否定しないけれども、心配される様な事だろうか? 分からなくても、生きていけるのでは無いだろうか?
そう、内心の疑問や不安を打ち消す様に、彼は手を伸ばして私の髪に触れる。私の弟にでもする様に、軽くぽん、ぽんと叩いた後、静かに私の目を見詰めて来た。
「今も抜けてる。『可愛い』って言ったのに、『心配』って言葉に気を取られてる」
「あ……」
油断していたところを容赦なく刺して来るのは、彼の専売特許である。それはこの間、水族館で間接キスをした時に改めて思い知った事だろう。
私は何となく居た堪れなくなって、部屋の中心を指さした。
「あ……あの……疲れてると思うから、座ってて、お茶……用意するから!!」
対する私はそんな知恵の回る事は出来ないので、苦し紛れな言い訳をして部屋を後にした。
五時以降も此処に居るように。
居ないと渡せないからね。
これが母の言いたかった事。
でも裏を返せば、娘に何かあった時に、その場で問い詰める為です。
『逃がさないよ? 逃げられると思わないでね(¬ _ ¬)』
というのが母の本音。
娘と息子が可愛くて仕方ないだけの人です。
息子に彼女が出来たら、娘を無理やり連れて、審査始めます。
『え、私は良いよ……。彼奴が選んだんだから、何も言うことはないよ……』
『妹になるんだから、君も見ないと後悔するよ。さて、始めるよ』
と言いながら、○×棒片手に審査してそう。




