お前の采配?
短編
家の敷地を跨ぐ事
です。
母と弟が出て行った後、扉の閉まる音がした。これが本当に二人きりなのだと報せる合図だった。取り敢えず、此処で突っ立っていても何なので、私の部屋に連れて行かなくては。
「……私の部屋行こう」
このまま顔を合わせていたら、緊張で赤くなりなり、言葉は噛むなり、何か仕出かしそうな気がする。だから彼の顔を見る事なく、一歩を踏み出そうとした時だった。
右手首を掴まれる。そして進行方向と逆方向に思い切り引っ張られる。後ろに倒れそうなのを引き留めたのは彼の体躯だった。
「二人きりさせたの、お前の采配?」
「あ……いや……母の……」
自分でも何とかしようと思ったけれど。というのはただの言い訳にしか聞こえない。ダカラこれ以上は口を噤む事にした。
その答えに彼は沈黙を持って回答した。代わりに私の肩に顔を埋めに掛かる。固めの髪が露出した肌に触れて擽ったい。
「……借りを作ったな……あの人に」
「『借り』なんて使わないでよ」
母は興味のない物に対しては歯牙にも掛けない。どうでも良い者に対しては視線の一つも向けない。けれどもその母が幼馴染とはいえ気を回したのだ。自ら二人きりになる手配までした。……相応に懐に入れている……のだと思う……。
だからこの件に至ってはそこまで心配する必要はない。それよりも。
「ちょっと、離して」
すると嫌がる様に腕に掛かる力が強くなった。自分の腕に閉じ込める様に。離さない様に。
「あ、『離れたい』って訳じゃなくてさ。これ、一方的だから」
バックハグはトキメキを呼ぶのかも知れない。けれども私は彼と向かい合いたい。彼の体を受け止めたい。
すると僅かに腕の力が弱くなった。けれども巻き付けた腕を離すつもりは無いようだった。だから私は彼の腕に包まったまま、くるりと体を振り返った。
僅かに頬が朱色に染まっている。不安げな瞳が僅かに揺れている。焦燥、独占、好意それらがぐちゃぐちゃになって、今の彼を構成していた。
「改めていらっしゃい」
「お邪魔します」
彼の後ろに手を回し胸に顔を埋める。彼の懐かしい匂いがした。
これ勝手な意見なんですが、凄い少女漫画的な場面だと思ってるんですよ。
バックハグなんてするの、少女漫画ぐらいでしょ〜。
という意見。
現実でやられたら普通に怖いし、生々しい恋愛にそんな場面ないと思うし。
また風邪引いたも知れません……。
今度から断ろうかな。