貴方の家族よ?
短編
これ以上、混沌としないでくれ!!
です。
玄関が閉じると同時に急いで鍵を閉め、慌てて二階へと駆け込んだ。部屋の扉を急いで閉ざしてベッドの上に体育座りした。考えるのは別れ際の彼の行動に付いてだ。
頬に触れられ、瞳が柔らかく蕩けて、顔が近付いて、それで、それで、それで……唇が……触れ合うかと思った。心臓が鳴り響くのは、何も階段を急いで駆け上がっただけでは無いだろう。
『恋愛感情を持ったまま付き合いたい』と宣言したのは私からなのだ。其れを動揺一つで覆すな。有言実行したのだから、其れは絶対に守らねばならない。
このままではいけない。自分から恋愛感情を意識させなくては。そう決心して思い立ったのは、格言を目に入り易い場所に貼っておく事だった。
とある有名人が言っていた。『目標としている事があるならば、見える場所に貼るべきだ』と。そうと決まれば話は早い。私はベッドから飛び降りると机を引っ掻き回し、『恋愛三ヶ条』の入ったクリアファイルとマジックテープを取り出して、ベッドの壁にぺたりと貼り付けた。これで比較的、目に入り易――。
「姉ちゃん、帰って来て来てから凄く煩い!! 階段登る音したり、何か漁る音したり、部屋の中で暴れるなよ!!」
少年の甲高い声。振り向くと目くじらを立てた弟が此方を黙って見詰めていた。
時が止まる。弟は私と壁に貼り付けたばかりの『恋愛三ヶ条』の格言を交互に見た後、訝しむ様に叫んだ。
「何なんだよ、その壁紙!!」
「煩いなぁ!! お前にはまだ早いもんだよ!! 分かったらさっさと自分の部屋へ戻れ」
私と弟の部屋は襖を通じて繋がっており、開けようと思えばすぐに出入りが出来るのだ。
貼ることに夢中になっていたが、襖に貼れば良かったか……!!
弟は私の書いた張り紙に興味津々だった。別にバレてああだこうだ言うようならば、腕付くで分からせれば良いのだが、非常に面倒だ。だから認識する前に摘み出そう。
そう、弟と腕を掴み合って、取っ組み合いの喧嘩をしようとした時だった。ギィ……っと扉の軋む不気味な音がした。機会のようにカク付いた動きで首を曲げると、母が無表情で此方を見詰めていた。
「何があった」
「帰って来た姉ちゃん煩くて、注意しようと部屋に入ったら、変な張り紙があった。其れを確認しようと思って近付いたら喧嘩になった」
母に意識が集中しているのを良いことに、弟が私の腕をすり抜けて、貼ったばかりの『恋愛三ヶ条』を指差す。
「何、この貼り紙……」
言い訳には時間が掛かる。少なくともこの部屋で立ち話をする様な簡単な事ではない。だからとりあえず、二人を部屋から出さねば。
「取り敢えず、二人とも部屋から出て!!」
「それよりあれは……」
「下で説明するから!!」
「なんか恋愛三ヶ条って書いてある」
「喧しい!! 」
私の絶叫に耳を傾けつつ、母の関心は貼り紙へと向かっている。
弟は早速冷やかす様にニヤニヤと笑い始めた。こうなるのが分かっていたから追い出したかったのだ。
「もう、何なんだよ!! この家族!! 私の話を聞いてよ!!」
「貴方の家族よ?」
「知ってるよ!!」
という訳で、ラスボス系母降臨です。
自分の子供達とは似ても似つかない程に冷徹。
惚れた奴以外、アウトオブ眼中。
其れは彼以上です。結構あからさま。
けども懐に入れると、冗談やちょっかいを出します。
『下で説明する』って言ってるのに、“わざと”『あれはなんなの?』と言ってるところとか。
困るの分かっててやってるんです。
傍から見るとシュール系ギャグ担当。