それは夜の様に
短編
薄暗い夜の様に
です。
昔よく行った水族館の印象は、薄暗い世界に青い光が思った空間という感じだった。昼間から一瞬で夜に時間経過した様なあの空気。あの素朴な優しい光をひっそりと愛していた。
けれども最近の水族館は何も魚を見る為だけに存在してはいない。冬に合わせた薄水色のイルミネーションや、雪の結晶が降り注ぐ演出がなされている。非常に小洒落た空間だった。
私達はその中を流れる煌びやかなBGMに耳を傾けながら、奥へと歩みを進める。
奥に配置されていたのは大水槽だった。夜の浅瀬を思わせる淡い青の海を熱帯魚が気ままに尾びれを動かしている。ただ観客を楽しませる訳でもなく、媚びを売る訳でもなく、ただ気ままに。
「水族館の空気が好きなんだ。此処はとても煌びやかだけど、大水槽の前に行くと薄暗い夜の様で。……誰かの拠り所になってくれそうな……そんな空気で」
「そうだな。ある意味、お前に似ている」
今の言葉を上手く飲み込めず、彼の方を向く。彼は私を見ておらず、ただ目の前の人工海へと注がれていた。
私の性格は物静かではない。何方と言えば明るく声を掛けて誰かを引っ張って日向に連れ出す側の方だと思う。まぁ、たまに悩んで塞ぎ込む事も多いけれど。
そう、からかい半分に答えようとしたら、彼の方が先に口を開いた。
「あんまり押し付けがましくないところ。常に決定権を相手に渡してくれるところ。誰かの居場所になろうとするところ。基本的にお前そっくり」
じっと見詰めていると、彼の目が此方に向いた。真摯な目が私を捉える。黒く澄んだ、夜を思わせる様な瞳。褒めて……くれている。でも、君こそが夜なんじゃない?
「願わくば、その優しさでお前自身が傷付く事の無いように。出来れば水槽を気ままに泳ぐ熱帯魚のように。そう生きて欲しい。そしてその礎が俺であって欲しいと思っている」
彼の視線は水槽に向いてなかった。ただずっと私に注がれている。
「有難う。でもその考えが夜の様だよ」
私よりも君の方が夜に近いよ。ただ優しくて、いつも私を気遣ってくれて、昔、不機嫌だった時と何ら変わらない。
「楽しいね。君と歩くの」
これはほぼ短編の通り。
滅茶苦茶好きな話だったので。
作者的には太陽の様だと思って書いてるんですけど、彼から見たらそうなのかなと。
水族館って結構凝っていて、入口行くだけでも楽しめます。
そういえば、最近行ってないな。