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そばかす糸目はのんびりしたい  作者: 楢山幕府


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35/38

35.とある「青き閃光」の苦悩

 ユージンが水害発生の報告を受けたその場に、サーフェスはいた。

 いた、だけだ。


(自分は何もできない)


 慌ただしく対応するユージンを、ただ見ているしかなかった。

 特級クラスの冒険者で魔物の扱いには慣れていても、自然災害ともなれば門外漢だ。

 時に冒険者ギルドの要請で、手伝いに向かうことはある。

 魔物のいる地域なら警護に回り、魔法が必要な場面があれば手を貸す。その全ては、現場仕事だ。

 冒険者なのだから、当たり前のこと。


(適材適所だと、わかっているのに……)


 雨の中、城を出て行くユージンを見送りながら、無力感に苛まれる。

 手伝いたくても、今は邪魔になるだけだった。

 しとしとと降った雨粒が窓を流れる。

 幾本の筋を眺め、早く晴れることをサーフェスは祈った。

 できるのは、それだけだった。

 脳裏に過るのは、鬼気迫るユージンの顔。

 いつもなら、のほほんとしたそばかす糸目が、眉間にシワを寄せ、一分一秒を争っていた。

 立場を理解するには十分だった。

 ユージンは領主で、サーフェスは客人に過ぎない。

 その事実に、何故か胸を締め付けられた。


 雨が上がったところで、町からも対策本部へ手伝いに行く流れができ、「青き閃光」も同行した。

 到着した先で、泥まみれで働くユージンを見たとき、サーフェスの無力感は一層強くなった。

 現場は慌ただしく、とてもじゃないが声をかけられるような状況ではない。


(あんなに汚れて)


 どこもかしこも土のにおいに溢れていた。

 自分の身綺麗さが余計に際立つ。

 結局、すぐには担当を振り分けられないため、待つ時間が生まれた。


「もどかしいですね」

「仕方ねぇだろ。オマエも一緒にギャーギャー騒ぐか?」


 皆、被災者を助けたい気持ちでいっぱいだった。

 町の人間が、何かできないかと、声を張り上げている。


「今は余計な手間を増やさないのが、最大の支援だと理解しています」

「なら良かった」


 要請を待たず、先に動いていることを鑑みれば、ネオやリヒュテも気持ちは一緒である。

 早く、助けたい。

 けれど対策本部にも許容量があり、溢れる気持ちはありがた迷惑になる。

 集団から一歩離れて観察することで、いくらか冷静になれた。

 人の熱意というものは、集まれば集まるほど膨張し、方向を見失う。

 集団が迷う前に、ユージンは行き先を記した看板をせっせと用意していた。


「裏方も大変だよなぁ」


 ネオの言葉に同意する。

 現場の人間は、成果を得やすい。

 人目にも触れやすく、感謝もされる。

 片や裏方の頑張りを知っているのは、精通している者だけだ。

 この場で直接ユージンの働きを見ている者には頑張りが伝わるが、他ではどうだろうか。


「ユージンくんは、気にしないのでしょうけれど」


 これが自分の仕事だと、笑う姿が頭に浮かんだ。

 責任感が強いのは、砦の一件でわかっている。


「また無理をしないでほしいですね」

「周りが止めるだろ。何を言っても領主様だ」


 文官だったときとは立場が違う。

 汗を流しながら走り回っているのを見ると、そうは思えなくとも。



◆◆◆◆◆◆



 異変が起こったのは、「青き閃光」もそれぞれ分かれて、堤防の補修作業を手伝っているときだった。

 リヒュテがいるところが騒がしくなる。

 物々しい雰囲気に、サーフェスとネオも合流すべく向かった。

 そこで予想外の魔物と遭遇する。

 艶やかな白い毛並みを七色に光らせ、鋭く尖った長い角を持つ魔物。


 一角獣。


 古い目撃情報しかなく、本当に存在するのか疑われてすらいた。

 子爵領のエンブレムにもなっているが、領民も出会ったことはない。


「実在していたのですか!?」


 リヒュテが盾を持って対峙し、その背後にユージンがいるのを見て、肝が冷える。

 既に感覚でユージンの存在を察していたネオは、走りながら王都で手に入れた黒いマスクで顔を覆っていた。

 くぐもった声が発せられる。


「無事そうだな」

「あなたも大丈夫ですか?」

「おう、いい買い物をしたかもしんねぇ」


 状態異常を軽減する効果があり、試しに買ったものだ。

 ユージンの特性にも対応できるなら、今後出番が増えるだろう。


「アイツら、逃げずに何揉めてんだ?」

「もしかしたらユージンくんの特性が効いているのかもしれません」


 一角獣のまとう雰囲気に変化が見られた。

 現場に到着し、ユージンを掴もうとしていた騎士の腕を取る。


「待ちなさい、主人の言うことが聞けないのですか!」

「冒険者がシャシャリ出てくんな!」


 町の中でも、特に騎士から冒険者が嫌われているのは自覚していた。

 敵意を向けられるのは別に構わない。

 だが、焦りから状況を見誤っているのは、捨て置けなかった。

 一角獣が倒れたことで、状況は落ち着いたものの。


「信じてても、主人を守ることがオレらの一番なんだよ!」


 また近衛騎士と衝突する。

 彼には彼の言い分がある。

 ユージンを守りたい気持ちは、痛いほどわかった。それでも、ぶつからずにはいられない。

 冒険者としての勘が、ユージンを支持していた。

 危険からは自分が守る。

 その自負を持って対立した。

 最終的に、ユージンが手を取ったのは近衛騎士のほうだった。

 場を丸く収めるためだろう。

 冒険者の心証が良くない中、災害時に要らぬ軋轢を生むことはない。

 ない、とわかっている。


(どうして)


 どうして、自分の手は握られなかったのか。

 頼られなかったのか。

 呆然としてしまう。

 胸に穴が空き、冷たい風が吹き込んだ。

 平静を装いながら、ユージンに語りかける。


「いざというときは加勢します」

「サーフェスさんも、ありがとうございます」


 いつもの笑顔で丁寧に答えられた。

 害のない、人好きする顔だ。

 だというのに。

 何故、こんなにも近衛騎士との対応の違いが気になるのか。


「自分も騎士になったら――」


 ぽつりと、こぼした言葉に返ってきたのは、ネオの冷笑だった。


「ハッ、それで満足できんのかよ」

「どういう意味です?」

「『相手に触れたい』と意識するかどうか、とか甘っちょろいこと言ってんなって話」


 ネオの口から出たフレーズで思いだされるのは、ユージンの私室で交わされた会話だ。


「聞いてたんですか?」

「聞こえたんだよ。どっちも自分が傷付かないように逃げ道だけこしらえて、温いことしてんじゃねぇよ」


 ダセぇ、とまで吐き捨てられる。


「オマエが『触れたい』と意識しねぇのは、好きなように『触れてる』からじゃねぇか」


 矢継ぎ早に意見を投げ込まれ、理解が追い付かない。

 視界の端では、一角獣の治療が済んでいた。


「お友達でいたいなら、立場を弁えろよ」


 無事に終わりました、とユージンが手を振ってくる。

 サーフェスも手を振って答えたものの、自分がどんな顔をしているかはわからなかった。

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