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- 序 -
少女が目覚めると、そこは籠の中だった。布がかかっているようで薄暗い。布を除けて隙間を開け、外の様子をうかがった。そこから見える風景は、石造りの建物らしきものの一部と、草木や花だった。どこかの庭のように見えるが、なぜ自分がここにいるのか、少女は思い出すことが出来なかった。
「……いらぬと言うておるのに」
ふいに声がして、近づいてくる足音が聞こえる。草を踏む音に混じって、しゃらしゃらと何か硬いものが擦れあうような音がした。
布で遮られた籠の中からの狭い視界にその人物の足がようやく入り、裸足の足の爪が光を乱反射してきらきらと輝いているのが見える。
しゃらり、と音がして、男が体を屈めて籠を覗きこみ、顔を上げた少女と目が合った。
これは、記憶を失った生贄の少女と、人喰いの神の物語―――。
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