☆3話
☆3話
・石沢雪弘はしばらく川岸翔子と音信不通になっていた。中学二年生の英語の問題集はto不定詞などの難しい問題が、
たくさん出て来て解くのに苦労したし川岸翔子に話すほど多くの英語のネタを提供できる気がしなくて、
ここ一ヶ月くらい電話をしなかった。土曜日の夕食後、携帯を取りだし電話のアイコンを開き川岸翔子の名前を、
人差し指で押した。しばらくコール音が続き雪弘はドキドキして電話が繋がるのを待った。電話が繋がり、
「もしもし石沢君?」と突然柔らかい子供のような声で川岸翔子の声が届いた。川岸さん元気してた?、と雪弘は聞き返すと、
ちょっといろいろバタバタしてて電話できなかったんだ、と語った。一呼吸置いて川岸翔子は「勉強進んでる?」と、
柔らかな声で訊いた。雪弘は言った。
「うん今勉強してる。to不定詞あたりから内容が難しくなって自分もその他大勢の人と同じように中学二年生から、
英語の内容が身につかなくなったんだなって思った。何かto不定詞ってto+動詞の原形で表すけどto以降の表現は、
主語=Sの後ろに付けるとMikeなどの主語を修飾する関係にあるんだって。何か英語の発音をスピーキングするCD付きの本の、
解説に書いてあった。その本にはSVOCなどの英文法の情報を斜線で区切っていてけっこう分かり易かったな。
今もそのCDのすぐ後に続いてスピーキングしてて今一ヶ月以上続いてる。文の塊のことを英語ではチャンクって言って、
問題集の文章問題とかで解答の情報を整理するとき使えるなとは思ってるんだ。勉強できる人とできない人の、
一番の違いって何か流行に乗りやすいかそうでないか? にあるみたい。自分は今楽曲とかゲームとか興味ないから、
勉強するにはある意味理想的な状態にあるんだ。テレビはもう殆ど見なくなったけど外部環境に時間を取られない、
と言うのが本当に頭のいい人の特徴だね。この前読んだ本の情報によると一回解いて正解した問題は2周目以降は、
もう解かなくてもいいんだって。考えてみれば中学時代でする勉強は学校の授業で教える一年分のペースに合わせなきゃ、
ならないわけでそしたら人間誰でも効率重視になるよね☆何か他の本によると難しい資格試験では一周目で1日3タイトル、
恐らく6頁分くらいの問題集を解くんだって。約2ヶ月くらいで一周して一年で五周くらい問題集を解き続ける、
そうだよ♡自分も英語の問題集をたくさん解いて実際の資格試験に活かしたいな。今to不定詞らへんの所を、
間違えた問題の答えをメモ帳に写して勉強してる。クロムのノートアプリにスキャンした問題集の頁の間違った問題に、
タッチペンで赤丸を付けたものを携帯で撮ってメモ帳で問題解いてる。一回だけ解けた問題も含めて2周目の問題を、
解いてみたけど何かまどろっこしい上に時間もかかって損だなって感じた。実際に経験してみると真面目にコツコツと、
努力しているのではなくみんなスピーディーにサクサク勉強するから資格試験に合格できるんだね☆
川岸さんも勉強続いてる?」
川岸翔子は一呼吸置いて……むぅ、と深いため息をつくと言った。
「へぇー、言われてみたら確かに勉強できる人からしたら効率重視でガンガンこなしていかないと好成績をキープできないね♡
そんな勉強できる人にとっては学校の授業も分かっていることを確認する意味でも必要なものかも知れないよね。
スピーキング練習をして斜線で区切ったCD付きの本の解説文を見るとどんな感じがするの? 英語が分かり易く、
なることで意識的な変化ってあるの?」
川岸翔子は柔らかく興味深げな子供のような声で雪弘に訊いた。雪弘は言った。
「何か日本語に対して違和感が出てくるんだ。主語を抜いて「掃除するよ」とか言ったりするけどなんでsheとかheとか、
youを文頭に付けないんだろう? って疑問に思えてきて一種の気持ち悪さを感じるんだ。英語のV=動詞に当たる、
主語が最終的に何をしたかの情報が日本語だと文の最後で説明されるのもかなり変な感じがしてこれは実際に、
スピーキングをしたことがある人じゃないと分からない不思議な感覚だよ。何か前に買った英語の新書の説明に、
よると洋楽の英語のフレーズに続けてスピーキングすると英語の語感が身について違和感を感じやすくなる、
とか書いてあったんだけど音楽好きの人だったらビートルズあたりのCDを一枚買ってスピーキング練習を続けても、
一定の効果は見込めると思う。カラオケで洋楽のタイトルを熱唱できたらちょっと物珍しいしインパクト、
あると思う☆その後の人生の交友関係の広がりを考えると割にスピーキング練習は顔を覚えてもらうことに、
貢献するんじゃないかな?」
それを聞いた川岸翔子は「違和感かぁ……」と物事を不思議に捉える子供のような声で興味深げに納得したような、
小さな深いため息のような声を出した。雪弘は翔子の子供のようにフワフワした感受性を前に人と会話しながら、
勉強を続けると割に理解の深いところまで探索してゆけるのかも知れないなと思った。川岸翔子は言った。
「何もせずに立ち止まって嫌になって目標を忘れる……と言う態度って考えてみればとても子供じみた姿勢だよね。
勉強の仕方が分からないのなら本で調べるなりなんなりと実際に行動に移すって必要なこと。雪ちゃんの話聞いてたら、
諦めないこととかインターネットではない書籍で情報を仕入れるって最初は一見意味なさげに見えるけど、
なかなか続けていくとたいした効果があるんだね♡資産のありなしが情報や勉強を必要としない理由になっては、
ダメだと思う。私も中二の問題集から勉強難しくなるけど腐らずに勉強続けていこうって思えてきた☆一日2頁だけでも、
勉強を続けていけばきっと理解できる日が必ず来るよね! 私も雪ちゃんと一緒に勉強続けていくよ」
雪弘は川岸翔子の元気そうな声を聞くといろいろ人生には辛いこととかもあるが何もしない選択肢を取り続けて、
勝手に腐っていって自滅するのって一番良くないパターンだな……と感じた。英語の勉強って一見地味ではあるが、
工夫を続けていけば楽しく興味深く続いていくのかも知れないしもうちょっと話題性のあるネタを仕入れて、
翔子との電話を楽しむのもアリだな☆と感じた。雪弘は、
「今日は川岸さんの元気そうな声を聞いてやる気でた。ありがとう。これからも連絡続けるね☆」
と言ってまたね、と伝え合って電話を切った。季節は五月下旬くらいにさしかかっていて柔らかく温かなフワフワした、
夜の空気感に包まれていた。もっと翔子との電話を楽しむためにいろいろと面白いネタを集めてみよう☆女子との会話は、
楽しく元気よくが基本だから意識的に図書館の本をいろいろ読んで楽しいお喋りをしてみよう☆雪弘の中に翔子との会話を、
楽しく有意義なものにする新しい意志が生まれた。
──(元気が一番だよな)
これからも変わらず勉強を続けるモチベが雪弘の胸の中に静かに宿った。
〈続く〉