出会い
目を覚ますと、私は見知らぬ森の中に居た。
意識が覚醒していくにつれ、全てを思い出した。私がなにをして、どうしてこの世界に来たのか。そして、これからするべきことを。
人助けをするとは言ったものの、辺り一面鬱蒼とした木に囲まれていて、付近にはとても人がいるようには感じない。
まず人に会わなければ何も始まらない、仕方なく移動しようと立ち上がると、先程見つけた黒い何かのことが気になり、見てみることにした。
レオナ「うーん。生き物なのかなー。それともマミちゃんがくれたアイテムかなにか?」
そう言いながらそれに伸ばした手は、触る寸前で弾かれた。
レオナ「いたっ!」
悪魔のようなものは突然動き出し、私の目線の高さまで飛んできて怒鳴ってきた。
???「おいお前!俺様に気安く触ろうとしてんじゃねぇ!」
レオナ「うわー生きてた。ほんとに来ちゃたんだね~。ファンタジー世界。ねぇ君名前は?」
???「…お前、礼儀ってもんを知らんようだな。まず、勝手に触ろうとしたことを謝れ!次に、相手に尋ねる前に、まず自分が名を名乗る!分かったか!」
レオナ「おぉこれはこれは、先程は大変失礼致しました。私の名はひぐ…いえ、レオナと申します。よろしければ貴方のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか」
???「お前、ふざけてんだろ」
レオナ「そのようなことは決してございません」
???「ふん!まあいい、よく聞け!俺様の名はトキア。誰もが虜になってしまう、キュートでチャーミングな小悪魔ちゃんよ!」
ババァーン!という効果音が聞こえてきそうな程の見事な決めポーズをみせつけられ、懐かしい記憶が思い起こされてきた。小学生の頃、特撮ヒーローの決め台詞とポーズを完コピして、櫂渡がよく渾身のドヤ顔でクラスのみんなにお披露目していた時のことを。
レオナ(櫂渡も小学生の頃よくこんなことやってたなぁ…)
トキア「おい。なんとか言えよ」
レオナ「ごめんごめん。なんだか懐かしくなっちゃって。ねぇねぇ!トアって呼んでもいい?」
トキア「っ!いや、なんでだよ。俺様の名前はトキアだぞ!一文字くらい略すな!」
レオナ「ふふっ。なんとなく私がそう呼びたいの。ね?いいでしょ?」
トキア「…へんなやつ。勝手にしろ」
レオナ「ありがと。ねぇトア、早速なんだけど、ひとつお願い聞いてくれない?」
トキア「おいおい。初対面だってのに図々しいやつだな。……なんだよ」
レオナ「君、この辺詳しいでしょ?よかったら近くの村まで案内してくれないかな?」
トキア「えぇ!?やだよ面倒くせー。それに案内したところで俺様に何のメリットがあるってんだ?」
レオナ「うーん。道中、美少女JKとの楽しい時間を過ごせる。とか?」
トキア「…話にならん。あーあ、時間を無駄にした。お前とはここでお別れだ。あばよ!」
そう言い放ち、飛び去ろうとしたトキアは、突如現れた光の鎖によって引っ張られ、気付いた時には地面に墜落していた。
トキア「は?」
レオナ「え?」
光の鎖は黒く禍々しいオーラを放っており、5m程の長さでレオナとトキアの胸の辺りから出現しお互いを繋いでいた。
トキア「おいお前!一体なにしたんだ!」
レオナ「えぇ~知らないよこんなの!なにこれ?魔法?」
トキア「あーあ、そういうことかよ。しょーがねえ。案内してやる!」
レオナ「え?いいの?やったー!なんかわかんないけどありがとっ!トア。よろしくね」
こうして私は、トアに近くの村まで案内してもらえることになった。そして、トアの案内で近くの村に向かう道中色々な話をした。
レオナ「ねぇ。そういえばトアはなんであんなとこでうつ伏せで寝てたの?」
トキア「なんでって……まぁいつものように森をうろついてたら、いきなりなにかに潰されて気失ってたみたいだな」
レオナ「その。潰したのってもしかして…」
トキア「察しがいいじゃないか、間違いなくお前だ!」
レオナ「誠に申し訳ございませんでした」
トキア「まあいいけどよ。てか、お前こそなんであんなとこにいきなり落ちてきたんだ?」
レオナ「えーっと、わたしは…なんて言えばいいかな。うーん。強いて言うなら、天からの使いってやつだから?」
トキア「あーうん。よくわからんが触れないほうがいいってことはよーく分かった」
レオナ「あー!その反応、信じてないでしょ!?」
トキア「別にそんなことは」
話の途中で、後ろの方からドドドドと激しく地面を蹴り上げこちらに向かってくる大きな足音が聞こえて来たので、私たちは身の危険を感じすぐさま足音の鳴る方へ振り向いた。
すると、森には似つかわしくない真っ赤な猪のような見た目をした巨大な四足獣が、ものすごい勢いで突進してきていた。
レオナ「ぎゃー!!モンスター!?でっっか!!」
トキア「なんだ。タタゴンか危険度2の雑魚じゃん」
レオナ「え?あんなにおっきいけど、意外と弱いの?」
トキア「あんなの脅威でもなんでもないな。まぁ、俺にとっては」
そう言い、空高く飛び上がったトキアは、ドヤ顔でこちらを見下ろしている。
レオナ「あー!ズルい!って、こっち来てるー!どーしよー!トアー」
トキア「神の使いとやらのお手並み拝見といこうかね」
レオナ(どうしよう。魔法使う?使い方はなんとなく体が覚えてくれてるみたいだから多分使えると思うけど。でも強力な魔法って言ってたし、威力とか分かんないし殺しちゃったらどうしよう。あ、でも人間じゃないから最悪大丈夫かな?いやいやそういう問題じゃない。ひとまず、魔法は試してから使ったほうがいいよね。でも待って、じゃあこの状況どうすれば…)
トキア「おい!前見ろ!!」
状況を打開する為の方法を思案していると、タタゴンはもう目の前まで迫っていた。
レオナ「え…死?」
轢き殺される。突然襲いかかってきた死の気配を前に、私は思わず目を閉じてしまった。瞬間、ドンッという鈍く大きな衝撃音が聞こえた。だが何故か体に痛みはない。恐る恐る目を開けてみると目の前でトキアがドーム状のバリアを張って守ってくれていた。
レオナ「…トア?」
トキア「ったく。神の使いだなんて大ホラ吹きやがって!何も出来ねえなら先言え!危なかっただろうが!」
レオナ「トア”~~~~!!ありがど~~~!死ぬかと思っだ~~」
トキア「礼はいい!とにかく今はこいつをどうにかしなきゃならん!」
レオナ「そ、そうだね!私、何かできること無いかな?」
トキア「そうだな…タタゴンは視界に入った動くものに反応して突進する習性がある。そしてこいつは見た目通り、旋回性能が極端に悪い。一度止まらないとほとんど方向転換出来ないんだ。あともうひとつ、こいつには弱点がある」
レオナ「弱点って!?」
トキア「ケツだ。興奮状態のこいつのケツに、ある程度の衝撃を与えてやれば驚いて気絶するはずだ」
レオナ「…つまり囮になれと?」
トキア「いーや、俺様が囮をやってやる。飛べるからな!お前はヤツのケツに蹴り入れる役だ。できるな?」
レオナ「ええー!?私非力な女の子なんだけど!?私なんかの蹴りがあんな大きい動物に効くのかな?」
トキア「弱点に当たりさえすれば大丈夫なはずだ!まず俺様がヤツを引き付けるから、お前は背後から一発かませ!」
レオナ「分かった。やるだけやってみる!」
トキアは頷くと、虫のように小刻みに飛び回り、タタゴンの注意を引きつつゆっくりと振り返らせ、元々タタゴンが突進して来た方向にまっすぐ飛んでいった。それを見て追いかけていったタタゴンを、わたしも全力で追いかけた。
私の助走が十分に付いた所を見計らい、トキアは振り向いて再びバリアを展開し、タタゴンの突進を止めるのと同時に叫んだ。
トキア「今だ!」
段々近づいてくるタタゴンの後ろ姿、思っていたよりも足が長く、おしりに足が届くか怪しい。だがもう考えている暇はない、私は全力でジャンプしてタタゴンのお尻に蹴りを入れた。
レオナ「やあぁぁぁぁぁ!!!」
ぷにっっっ。勢いよく飛び蹴りしたはずの私の踵には、想定していたものとは異なる柔らかい感触があった。
レオナ(やばい!全然届いてないし、手応えなかった!こんなんじゃ倒せっこないよ。どうしよう!!)
そういった私の考えとは裏腹に、気付くとタタゴンは泡を吹いて卒倒していた。
レオナ「…あれ?」
トキア「よーし。まあよくやった。まさかケツじゃなくキ○タマに蹴り入れるとは思わなかったけどな。こいつには少し同情するぜ…」
レオナ「あ。うそ?…なんか、ごめんね」
トキア「そいつはしばらく動けないだろう。他のモンスターが来ても面倒だ。先を急ぐぞ」
そう言い、村があるであろう方角に進むトキア。
レオナ「ねえトア。絶対に人が来ないような広い場所って、この辺りに無いかな?」
トキア「まぁ無いこともないが。急にどうした?」
レオナ「村に向かう前に、そこに連れて行って。試したいことがあるの」
レオナの真剣な眼差しを受け、トキアは何も言わずに案内を始めた。