気弱な令嬢とお芋 2
強盗が捕縛された現場に戻ると、金髪の騎士がヒラヒラと手を振っていた。
もう強盗の姿はそこにはなかったので、オレリアが応急処置を受けている間に、すべて片付けられてしまったのだろう。
「お嬢さん、あなたの落したお芋たち、拾っといたよ。怪我、大丈夫だった?」
金髪の騎士は、オレリアに向けてニコッと笑ったのだった。
「ほい、あなたのお芋たち。これで全部あると思うけど」
「あ、あり……ありがとうございます」
「ほーい」
気さくな感じの金髪の騎士から芋を受け取って、オレリアは深々と頭を下げた。
「それにしても、強盗が騒いでいる最中に、このお芋たちが転がり出てきた時は笑いをこらえるのに必死だったよ。ねえ、ルイス」
金髪の騎士にルイスと呼ばれた黒髪の騎士は、咳払いをするように片手を口に当てて小さく頷いた。
「まあ、少しだけ、なごんでしまいましたけど」
「ルイス、ちょっと笑い漏れてたもんね」
「いえ笑うだなんて、被害者の方たちが怖い目に合っているさなかに、そこまで不謹慎なことはしていません」
「いーや、口角上がってたの、俺見てたよ」
「……む」
「めっちゃ笑うの我慢してる顔してた」
「………………。くれぐれも、殿下には内密に」
黒髪の騎士は、観念した悪戯っ子の様に小さく笑った。
礼儀正しい黒髪の騎士も恰好良かったけれど、金髪の騎士と気さくに話す黒髪の騎士も、とても魅力的だった。
オレリアが騎士2人のやり取りを見ていると、黒髪の騎士が振り返った。
「では、私たちはこれで失礼しようと思いますが、大丈夫そうですか?」
「……は、はい」
「重そうな荷物ですが、そちらも貴方一人で大丈夫ですか?」
「は、はい」
オレリアは芋などの買った物を大きな荷物入れに入れて背負っているが、重いものを運んだり背負ったりするのは慣れっこだ。
いつものことだ。
そのおかげでオレリアは、見る人が心配するような細腕にも拘らず、結構力はあるのだ。
「大丈夫、です」
今度ばかりは何とか声が出せたオレリアは、心配ないとばかりにコクコクと頷いた。
「そうですか、なら良いのですが。無理なさらないでくださいね」
「あ、は、はい」
「それでは、お気をつけて」
「じゃーねー」
黒髪の騎士はオレリアにぺこりと頭を下げ、金髪の騎士はヒラヒラと手を振って去っていった。
去っていく2人の背の高い後ろ姿をぼんやりと見送って、オレリアは帰路に着いた。
(すごい一日だった……)
街で偶々騎士たちに助けられるなんて、普通のご令嬢からしてみればこんなに感動するようなことではないのかもしれない。
でもオレリアからしてみれば、これは大きな出来事だった。
以前のオレリアのままで市場と屋敷の往復をするだけだったら、きっとかっこいい騎士たちの姿を見ることは出来なかっただろう。
気弱で卑屈なオレリアのままで、自分には似合わないからと綺麗なドレスを見ようともしないままだったら、騎士たちに助けられることもなかっただろう。
これは、オレリアが自分で決めて、自分で踏みだしたから変わった未来なのかもしれない。
(でも多分、騎士さんたちにまた会うことは、もうないだろうけど……)
あの騎士たちは王家直属の格の高い騎士たちだったので、使用人同然のオレリアが再び会うことはもうないだろう。
でもきっと、死ぬ間際に「かっこよかったなあ」なんて思いだすくらいは許されるのではないだろうか。
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