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気弱な令嬢とお芋



その時だった。

ボトボトボト!!

オレリアが背負っていた大きな荷物入れの中から、鈍い音を立てて転がり落ちてきたものがあった。

その、大きくて丸い物。


芋だった。


それは幾つもボロボロと落ち、強盗の前にコロコロと転がる。


緊張感をもって騎士から目を離さなかった強盗だが、いきなり目の前に現れた大量の芋には流石に驚き、一瞬騎士たちから目を逸らした。


その強盗の隙を、逃すような騎士たちではなかった。


鋭く強盗に飛び掛かり、強盗がオレリアに突き付けていたナイフを払い落とす。

まるで、 舞でも見ているかのような軽やかさだった。


そして強盗に足払いを仕掛け、あっという間に地面に転がし、取り押さえてしまった。

それは、見惚れてしまうほど華麗な体裁きだった。


流石王家直属の騎士。

この国の騎士団の中でも選ばれた優秀な騎士だけが賜れるという、大変栄誉な階級。

彼らは、エリート中のエリートの騎士たちだ。


「はい、確保」


派手に整った顔の金髪の騎士が、強盗の巨体を縄で締め上げた。

最後のこれはまるで、手品か何かの見世物のような華やかさまであった。

遠巻きに見ていたギャラリーもオオッと感動の声を上げる。


(すごい……つよい……かっこいい)


捕まった強盗から解放されたオレリアは、力なく道にぺたんと座り込んで、騎士たちの活躍を惚れ惚れと見ていた。


金髪の騎士はきゃあきゃあと沸いているギャラリーに、愛想よく手を振っている。

そしてもう一人の騎士、黒髪の騎士は低く優しい声をしていた。


「大丈夫ですか?喉の怪我が心配です。すぐ近くのそこの店で手当てをしていただきましょう。立てますか?」


黒髪の騎士も、系統は違えど金髪の騎士と同じか、もしかしたらそれ以上に整った外見の人だった。

更に、身のこなしも優雅で美しい。

流石王家直属の騎士。武道に優れているだけでなく、色々な面で完璧だ。


「大丈夫ですか?」


「……」

(ほんとにかっこいい騎士さんだなあ……)


「あの、私の声は聞こえておりますか?」


「………………えっ?!」


座り込んでしまっているオレリアは、目の前で手を差し出している黒髪の騎士が心配そうに顔を覗き込んできたので、ようやく我に返った。


黒髪の騎士は、どうやらオレリアに話しかけているようだった。

生まれてこの方人に手を差し伸べられた記憶はないし、心配してもらった記憶もないし、オレリアはまさか自分が話しかけられているとは気づかず、ぼーっとしてしまっていた。


「喉の他に痛みや怪我は?」


黒髪の騎士の質問に、ブルブルブルと首を振る。

ただ一言、「大丈夫です」と言えばいいのに、目の前の騎士が眩しすぎて声が出ない。


「そうですか、よかった。では、お手を」


黒髪の騎士は静かに微笑み、煉瓦道にべタンと座り込んでしまっているオレリアに手を差し出した。

しかし、動揺したオレリアは何も言えず、自分ですくっと立ってしまう。


騎士の手を煩わせるわけにはいかないと思ったし、こんなに恰好の良い人を見たことが無かったので、手などに触れるなんて出来ないと思っての行動だった。


「失礼しました」


親切で差し出された手を拒否するというオレリアの礼を欠く行動に対しても、騎士は嫌そうなそぶりを一切見せず、そればかりか小さく謝罪をしてきた。

ここでようやく、オレリアは自分の方が失礼なことをしてしまったのだと冷静になり、反省した。

でもやっぱり緊張で声が出ないので、首をブンブンと振って騎士が悪いわけではない事だけ伝えた。



「そこのお店で応急処置をしてもらえるよう、頼んでみましょう」


そう言って騎士がオレリアを連れて中に入ったのは、オレリアが先ほど眺めていたアクセサリーショップだった。

中に入ると、どこもかしこも輝きだらけで、眩暈がしそうだった。


騎士はオレリアがソワソワと店内を見ている間に、手早く店主と話をつけてくれたようで、直ぐにオレリアを呼びに戻ってきた。


「店内で治療は出来ませんから、カウンターの裏をお借りすることになりました。行きましょう」


アクセサリーショップのカウンターの裏に行くと、救急箱を持った女性店員がオレリアを手近な椅子に座らせてくれた。


「彼女の処置をお願いしてよろしいでしょうか?私も心得はありますが、女性にお願いできるのなら、彼女もその方が安心でしょうから」


「あっ、はい、勿論です!処置させていただきますっ」


黒髪の騎士は、オレリアの応急処置を女性店員にお願いしてから小さく頭を下げ、一方の女性店員は顔を赤くしてオレリアの治療を快諾したのだった。


オレリアが女性店員から治療を受けている間も、黒髪の騎士はその場にいてくれた。

彼は何を言う訳でもないが、騎士として事件に巻き込まれた一般人の面倒を最後まで見てくれようとしているようだった。

彼はきっと、引き受けたことは最後まできっちりやり通す、責任感の強い人なのだろう。



「終わりましたあ!」


オレリアの傷の手当てをテキパキと終わらせ、騎士の方に振り向いた女性店員は、満面の笑みでそう報告した。


「ありがとうございます。お礼はまた後程、第二王子ディートリヒの名前で送らせていただきます。それでは失礼いたします」


騎士は丁寧に女性店員に頭を下げ、オレリアを伴ってお店を後にしようとする。

「いえ~、そんなこと全然ないですよお」と赤くなっていた女性店員は、スタスタと出入り口に歩いていく騎士をさりげなく呼び留めた。


「それより騎士様は、今晩暇だったりしませんか?一緒にお食事でも~なんて」


「いえ、今日は夜中まで仕事です」


「あっ、そうですか。ですよねえ~」


ポッと顔を赤らめた女性店員だったが、騎士が直ぐに迷いのない返事をしたのを見て、すごすごと引き下がった。


「それでは」


騎士は女性店員に一礼をしてから、店の扉を開けて、オレリアを先に通してくれた。

見るからに使用人の姿をしたオレリアのような女に対してでも笑顔でレディファーストができるなんて、王家の騎士は本当に格が違う。


俯いてしまいそうになるのを堪え、こっそりと騎士の横顔を見上げれば、とても綺麗でかっこよかった。


(やっぱり、モテそう、だなあ……)


違う世界の人なのだなあ、とオレリアは改めて思ったのだった。




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