そして
それからルイスに手を引かれて王城の衣装室に連れていかれたオレリアは、目もくらむようなドレスに圧倒されながらも、その場にいたメイドたちの手を借りて何とか一枚選び、その夜の祝勝会に参加した。
そのパーティに参加していたのは第二王子が懇意にしている人々ばかりで、いつかのパーティよりも随分と居心地がよかった。
以前のパーティと比べて規模が小さかったというのも理由にあるかもしれないが、エスコートしてくれたのがルイスだったから嬉しかったということも関係していたかもしれない。
そして踊りの練習などしたことはなかったオレリアだけれど、ルイスに誘われて一度だけ音楽に合わせて踊ってみた。
案の定、オレリアの踊りはへたくそ過ぎて見られたものではなかったが、ルイスが上手にリードしてくれたので楽しい思い出が出来た。
華やかなパーティ会場で花のように素敵なドレスを着て踊ることも、死ぬ前に一度やってみたかった。
その願いが思わぬところで叶って、オレリアは夢のような夜を過ごした。
とても素敵だった。
「……」
「あっ、オレリアさん!スープ零してるっす!」
「え?!ご、ごめんなさい!!」
昼食の配膳を終えて賄いのご飯を頂いていたが、昨晩の事を思い出してついぼーっとしてしまっていた。
スプーンの上に載っていた筈のスープはびしゃびゃと下に落ちていて、オレリアの仕事着を汚している。
そしてそれを指摘してくれた人物の顔を確認すると、使い終わった食器を戻しに来ていたアレスだった。
「ってオレリアさん、なんで俺に謝るんっすか。 ……あ。もしかして、このタイミングで俺に謝ってるんっすか?やだなあ、俺は昨日の剣術大会でオレリアさんがあの第二王子の騎士のルイスさんに招待されてたのを見てちょっとガーンってなりはしたっすけど、まあ相手はあのルイスさんだし、2人とも美男美女でお似合いだったし、まあそうっすよね~って感じに俺は思ってるんっすから。謝んないでくださいって!」
「え?えっと……」
オレリアは仕事着に零したスープを急いで拭き取りながら、首をかしげていた。
これまでずっと下を向いて働いてきただけのオレリアは、まだまだ人の好意にとても疎かった。
今は前を向いて明るく生きようとしてはいるが、半年やそこらでいきなり敏感になれる訳もなく。
オレリアがきょとんとしていると、アレスはすっと追加のタオルを差し出してくれた。
オレリアはそれを受け取り、有難く零れたスープを拭かせてもらう。
「まあ、これからは友達ってことで!!仲良くやりましょ、オレリアさん!」
「と、友達?」
服に落ちたスープをあらかた拭き終わったところでアレスに改めて礼を言うと、今度は思いもよらなかった提案が飛び出してきた。
「そーっす!オレリアさんみたいな美人な友達がいれば、俺も嬉しいっす!」
「い、いいんですか?友達!!」
「勿論っす!」
「じゃ、じゃあ是非!!」
アレスが手を差し出した手を見て、顔を輝かせたオレリアもおずおずと手を差し出した。
これは、夢にまで見た友達だ。
死ぬ前に、一回で良いから誰かと友達になってみたかった。
友達の作り方は分からなかったけど、こうして友達になりたいと言ってくれる人がいるなんて感激だ。
オレリアは固く握ったアレスの手をブンブンと上下に振った。
「あの、これからもよろしくお願いします、アレスさん!」
「こちらこそ、よろしくっす!」
挨拶も交わして無事に友人となったアレスは、持っていた空の食器を指定の場所に置いて来るといってしばし姿を消し、それからまたオレリアの所へと戻ってきた。
賄いをまだ食べている途中のオレリアの前に椅子を持って来て座り、アレスは他愛のない事を話し始めた。
アレスは元々人懐っこくて誰にでも分け隔てないタイプだが、友人となったことで更に距離が近くなったようだった。
オレリアは初めての友達にどぎまぎしながらも、夢にまで見た友達と楽しく話すという展開に心躍らせながら会話を楽しんでいた。
賄いの時間に一緒にいてくれる人はロナウトくらいしかいなかったから、とても新鮮だ。
「ところでオレリア。あのルイスさんとはどこまでいった感じなんっすか?」
「え?」
さっきまで料理の話とか訓練の話とかどうでもいいような楽しい会話をしていたのに、いきなりルイスの話題になったので、オレリアの声は裏返ってしまった。
「ほら、ルイスさんと手つないだとかいろいろあるじゃないっすか!オレリアはルイスさんから優勝の花も貰ってたし。あれはルイスさん、相当オレリアに惚れてるっすね!」
「え、いや、ルイスさんは誰にでもとても優しいので……」
「いやいや、謙遜はいいっすよ!まず騎士から剣術大会に招待されることも特別ですし、花も貰えるなんてそんなの、この勝利は貴方に捧げますって言われてるようなもんっすよ!いいなー、俺もオレリアみたいな女の子だったらルイスさんと結婚したいもんなー」
オレリアはルイスの最後の冗談に笑いながら、内心では首を横に振っていた。
(……あはは。アレスさんはそういうけど、ルイスさんはボロボロだったころの私を知っているから、ただ可哀そうって思ってくれてるだけだと思うんだ)
(私の生い立ちとか薄々気が付いていて、いろいろ経験させてあげようって思ってるだけだと思うんだ)
(ルイスさんは優しいから)
「ルイスさんはすっごい強いのに穏やかで優しくて紳士的で俺の憧れなんっすよねー。 女の子にもモテるし。 あ、オレリアはルイスさんとデートの予定とかあるんっすか?」
「で、デート?」
「ほら、二人で出かける予定っすよ!」
「あ、それなら来週末に……」
「え!来週末なんて言ったら俺は騎士昇格試験の真っただ中なのに……二人はデートっすか……」
急に試験の事を思い出したのか、アレスの顔はズーンと暗くなった。
それを見たオレリアは慌ててガッツポーズを作る。
「騎士昇格試験も来週末ですもんね。あの、応援してます」
「えー……?どうせ二人で楽しんで試験の事なんて忘れるっすよ。分かってますって……」
「そ、そんなことありません!」
「……なんちゃって!俺今回は結構自信あるんで、頑張ってくるっす!オレリアも目一杯デート楽しんできてくださいっす!」
ブンブンと首を振っていたオレリアを見てくすくすと笑ったアレスは、オレリアと同じようにガッツポーズを作った。
こうして初めてできた友達とのおしゃべりを楽しみ、時間は直ぐに来週末になったのだった。




