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余命一年のドアマット令嬢のやりたいこと全部  作者: 木の実山ユクラ


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気弱令嬢の告白






「私は、ルイスさんの事が好き!!」



賭博部屋の一角、綺麗な刺繍で飾られたパーテーションと仰々しいカーテンで人目から隔離されたその空間には、ざっと10人ほどの貴族たちがいる。

誰もが皆、冷やかすようなニタニタ笑いだったが、オレリアのはっきりとした一言に流石に驚いたようだった。


エクレールも、オレリアの予想外の反抗に口をパクパクさせている。



「あ……あは。でもはっきり言ったからって何?あんたが本気で惚れててもルイス様は気持ち悪いって思うだけよね。だからあんたが恥をかいただけよ、雑巾女」


「恥ずかしくなんてない。なんとも思われてないことなんて分かってるけど、ルイスさん程素敵な人を好きになったこと、私は恥ずかしいとは思わないっ!!」



エクレールはルイスの事を散々に酷く言ったけど、ルイスは好きになったことを誇れるような素晴らしい人だ。

オレリアのような女の子にも分け隔てなく優しくて、とても素敵な人だ。


汚い言葉で汚されていい人じゃない。

有る事無い事言われて貶められていい人じゃない。


だからオレリアは黙ったままエクレールの高笑いを聞いていたくはなかった。

勝ち誇ったような顔をしたエクレールを許す事は到底できなかった。

そう強く思ったから、殆ど反射的に宣言していた。

エクレールの思い通りに黙り込んだりしない。

これがオレリアの抵抗だ。



確かに正直に言えば何人もの人の前でこんな風に気持ちを告白したのは、死ぬほど恥ずかしい。

でもそれも、ルイスが汚い言葉を浴びせ続けられるのに比べたら、ずっとマシだ。

それにオレリアはもう少しで実際に死んじゃうし、こうしてエクレールに一撃お見舞い出来たのだから、なにも後悔なんてしていない。



ただ一つ思うことがあるとすれば、こんなオレリアに好きだと言われてしまったルイスの気持ちが心配だけど、幸いここにはルイスはいないし、ルイスと仲の良さそうな人間もいない。

だからオレリアが言ったことなど、ルイスの耳には入るまい。

だからこれまで通り、死んでしまうその日まで誰にも知られないように、ひっそりとお墓まで持っていこう。






チッ。

エクレールの舌打ちでオレリアはハッと身構えた。

怯んでいたはずのエクレールは、もういつもの意地悪な顔に戻っている。


「素敵なんて真顔で言って、本当に気持ち悪いわ。でもね、よく考えたらルイス様なんてちょっと顔が良くて第二王子の騎士ってだけで、三男で爵位も継げないしお金も滅茶苦茶あるわけじゃないのによ。怪我でもしたら騎士も出来なくてただの役立たずになるだけだし。キャーキャー言われてても、よく考えたら実際はそんなしょぼい男でしょ」


オレリアはぎゅっと両方のこぶしを握りしめ、キッとエクレールを睨みつけた。

エクレールがルイスにまだ汚い言葉を使い続ける気なら、オレリアも引くわけにはいかない。


「撤回して。そんなのは、違う!」


「何が違うのよ」


「ルイスさんは、優しくて真っすぐで、とってもかっこよくて、思いやりがあって、強くて努力家で、とても素敵な人!もしも怪我をして大変な目に遭っても、絶対腐ったりしない!」


「っ、なんなのよ、知ったような口をきいて!気持ち悪い!」


「でもエクレールは、ルイスさんのこと何も知らないのに、なんでそんなことばっかり言えるのっ!?」


「何それ!あんたの方がルイス様のことを知ってるって言いたいの?!」


「わ、私は……」


「もういい!もういいわ!!」


オレリアの反論を、エクレールはテーブルを叩いて遮った。

ハアハアと肩で息をしている。



……そういえば。

今更になってオレリアは思い出したが、エクレールは以前、第二王子の騎士が素敵だと言って何枚も手紙を書いたり、何回もダンスに誘ったりしていた。

その時のオレリアは第二王子の騎士が誰か知らなかったし、移り気なエクレールがまたやってると思っていただけだった。


だが今直感した。

多分エクレールがその時アピールをしていた相手は、クレーベや他の第二王子の騎士ではなくルイスだったのだろう。

もしかしたらエクレールも、ルイスに対して何か思ったことがあったのかもしれない。







「本当にもういいわ!こんな雑巾女との言い争いより本題よ。公爵、この生意気な雑巾女買うって言ったわよね。いくら?いくらで買うの?!」


エクレールはオレリアを背にして立っていた褐色肌の公爵と呼ばれた男性に向き直り、長い爪のついた人差し指でその胸元をグイッと押す。

噛みつかんばかりの勢いだ。


「この雑巾女、欲しいんでしょ?!」


「ああ、そうだな。じゃあこれでどうだ」


じゃらりと音を立てて男性の懐から現れたのは、金貨が詰まった絹の袋。

明らかに金貨数枚の話ではない。


テーブルの上に散らばった何枚かの金貨を見たが、エクレールは強気に首を振る。


「もっと出せるでしょ、公爵」


「じゃあもう一袋だ」


再びコインの音と共に、袋がテーブルに投げられた。


「……いいわね。これだけ元手があればすぐに敗けたお金も元通りだわ」


エクレールは、ようやく嬉しそうににんまりと笑った。




「じゃあこの使用人の女、俺が連れて帰っていいな」


「ええ、好きにして」


賭博場で人の身を賭けることは公には行われていないが、こうして秘かに行われていることはわりとある事なのだという。

周りで見ていた貴族たちも特に咎めることもせず、ただ今回は我関せずと言った顔で眺めているだけだ。


オレリアは金貨の袋を嬉しそうに両手に抱いたエクレールを嗜めようとしたが、いきなり後ろからグイッと腕を引かれた。


「っ」


「お前はこっちだ」


腕を引いたのは、エクレールと取引をした公爵である褐色肌の男性だ。


オレリアは逃げようと全力で暴れるが、男性の手はビクともしない。

壺を割ったあの時のように死ぬ気で腕を振ってみるが、男性の拘束はギリギリとオレリアを締め上げるばかりで、それから逃れることは出来なかった。


エクレールはその様子を見てにたりと笑っていた。


「公爵は半分異国の血が混じってるから、あんたの火事場の馬鹿力も流石に敵わないわけね。丁度いいじゃない。せいぜい可愛がってもらったらいいわ。 ねえ公爵。その失恋雑巾女、どんなことでもさせていいから、ボロボロにして捨ててやって」


「まあ大金で買ったからには使い潰してやるけどな」


「きゃはは。いいわね」



男性はソファにどかっと腰を下ろし、グラスのワインを手に取りながらもう片方の手でオレリアの腰を抱くようにして引っ張った。


オレリアは腰から崩れるようにして、その男性に引き寄せられる。

このままでは男性の上に座るような格好になってしまう。


(……い、嫌!)


意味も分からないうちに勝手に取引されて、使用人でもないのに義妹に勝手に売られて、得体の知れない男性に体を触られている。


オレリアは必死になって体をよじった。


「嫌、離して!!」









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