表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
余命一年のドアマット令嬢のやりたいこと全部  作者: 木の実山ユクラ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/47

意地悪令嬢と気弱令嬢





「ははは。お前の使用人、これは上玉だ。彼女なら娼館にやるまでもなく俺が買ってやってもいいな」


エクレールと対面していた、褐色の肌の男性はそんなことを言いながら笑い声をあげる。

そしてずいっとオレリアの前まで踏み出してくると、手を伸ばしてきた。


「や、やめてください」


頬に触れようとしてきた、装飾品とタトゥーだらけのその手に酷い嫌悪を感じ、オレリアは全力で顔を背けた。



男性の手は無事に逃れることが出来たが、それを見たエクレールは何故か高笑いを始める。


「この雑巾女が私より価値がある訳なんてないけど、それでいいなら公爵にこの雑巾女を売ってあげるわ!! ……ねえ、雑巾女。あんたは何故かルイス様と歩いてたみたいだけど、あんたにはこの公爵みたいな下種の方がお似合いよ?」


いきなりルイスの名前が出てきて、オレリアは少しだけ怯んだ。

一方のエクレールはオレリアの表情を目ざとく察知して、唇を歪ませる。



「あれえ?あんたもしかして、身の程知らずにも舞い上がっちゃってた?馬鹿ね!あのルイス様が、あんたなんかに本気になる訳ないじゃない。あんたみたいな雑巾があのルイス様とどうやって出会ったのか知らないけど、剣術大会に招待されたからって何?」


「……」


「ルイス様は誰にでも優しいの!だからあんたはその辺の捨て猫と同じにしか見られてないわよ?」


オレリアがルイスに捨て猫だと思われているのは確かにそうかもしれない。

それには妙に納得してしまったが、気を取り直したオレリアは努めて静かにエクレールの手を引いた。

最初の目的を素早く実行する為だ。


「それよりエクレール、ここから出ようよ。そんな危ない賭け事は、止めよう……」




バシン!!



「嫌よ!!何様のつもり?!引っ張らないで!私に気安く触らないで!」


鋭い音を立てて、オレリアの手は振り払われた。


見れば、エクレールの両目はまるで獣のようにつり上がっている。


「というか何なの?なんで雑巾女の癖にそんなに上から目線なの?もしかしてルイス様に招待されたことが自分が特別だからだと思ってるの?だから雑巾の癖に私に命令するの?あっきれた!!!」


「そ、そんなんじゃなくて……」


「じゃあ何?もしかしてまさか、誰にでも優しいルイス様に優しくされて両思いかもしれないとか思っちゃった?きゃはは、これだからモテない使用人は!本当にチョロくて愚かね!!」


「……」


「よく考えれば、ルイス様もルイス様よね!こんな雑巾女にも無意味に優しくするから、免疫のない雑巾女は勘違いしてつけあがるのよ!それをルイス様は分かってやってるのか知らずにやってるのか、どちらにしてもこんな女に気を持たせるなんて愚かで無責任な男よね!!!」


エクレールは高い声で笑いながら、台の上に並べてあったカードやチェスの駒などを当たり散らすように薙ぎ払っていく。

飛び散ったカードとチェスの駒が数個、オレリアに当たって下に落ちた。


「ねえ、ルイス様って見る目が本当にないのね!招待したのは私じゃなくて、公爵令嬢でもなくて、あんたみたいな雑巾女?ねえ、ルイス様ってブス専なのかしらね!!それとも、あんたみたいなのを勘違いさせて遊んでるのかしら!意外にも遊び人なのね!」






パン!!!



「えっ……」


乾いた音とエクレールの呆けた声がして、室内はしんと静まり返った。

先ほどまで暴れていたエクレールは動きを止め、エクレールと向き合っていた男性も驚いて口をつぐみ、周りに集まっていた人だかりも目を見張ったまま突っ立っている。



オレリアがエクレールの頬を張ったままの姿勢で、静かに顔を上げた。


「言っていい事と悪いことがあるよ、エクレール」


「な、な、なによ!!ほんとの事でしょ!あんたみたいな雑巾女がルイス様にエスコートしてもらえるなんてありえないでしょ!ルイス様がおかしいのよ!!あんたみたいなのにも優しくするなんて、本当に気色悪い!!」



オレリアは再び手を振り上げてしまいそうになった。

辛うじて止めたが、オレリアは自分の所為でルイスが散々に言われているのが悔しくて堪らなかった。


何故ルイスがそんな事を言われなければいけないのだろう。

あんなに優しくて、あんなに綺麗で、あんなにかっこいい人なのに。


エクレールの悪意ある言葉でルイスが汚染されていくのが堪らなく嫌だった。

たとえここにルイスがいなくてこの汚い言葉を聞いていなかったとしても、それでも言われているという事実だけで許せない思いだった。



「ルイスさんにだけはそんな言葉を使わないで」


「へえ、なあにそれ!ルイスさんにだけは、とかあんた何様のつもり? ……ああ、分かった。やっぱりあんた、本気でルイス様に惚れてるわけ」


「……」


「ねえ、ハッキリ言ってみなさいよ。だからこの私の頬を張ったの?」


「……」


「そうなんでしょ?あんたみたいな雑巾女が一丁前に恋とかしちゃってるんでしょ?ああ、気色悪いわ!」


「……」


「すっかり黙っちゃった。きゃはは。私を叩いた時の勢いはどうしたの?惚れてたって相手にしてもらえないのは明白だから我に返っちゃった? ここではたくさん人が見ているものね。振られる事は決まってるし、あんな男にまんまと誑かされちゃって、あんたは本当に恥ずかしい雑巾女よね」


エクレールは唇を釣り上げ、高い声で笑いだした。

彼女はどんな時でも相手よりも優位に立ちたがる。

それが叶って今、エクレールは満足そうだ。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新しいものを書き始めました。 よかったら覗きに来てください! さあ王子、私と一緒に逃げましょう
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ