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余命一年のドアマット令嬢のやりたいこと全部  作者: 木の実山ユクラ


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金髪の騎士と第一試合



競技場一杯に、大仰なラッパの音が鳴り響く。

王家の紋章が入った旗が幾つも掲げられ、楽団と騎士団の行進が始まった。


肩から大きな楽器を下げた楽隊の演奏に合わせて、この日の為に追加の訓練をしてきた騎士団の若手たちが旗を持って競技場を横断する。

これが剣術大会スタートの合図だ。



騎士たちの一糸乱れぬ行進の出来栄えに、観客で埋まった客席は今年の剣術大会も期待ができると盛り上がり始めた。


「今年の優勝候補はやはり第一王子の筆頭騎士でしょうかな。彼は昨年の剣術大会の優勝者でもありますぞ」


「いえいえ、第一王女の近衛騎士ですわよ。彼女は騎士団がずっと手を焼かされてきた賊どもを先日撃退した今最も勢いのある騎士ですわよ」


「まあ。勢いの話でしたら東の辺境伯の騎士も負けておりませんことよ。今年騎士に任命された一人がとても才気溢れる方なのだとか」


「ふむ、才能ある騎士と言えばあの第二王子の騎士も中々じゃろう。驚くほど綺麗な戦い方をする騎士と、驚くほど華やかな戦いをする騎士がおる」



客席の貴族たちは、王族や大貴族達の勢力図の把握に余念が無いようだった。


そして客席が今年の出場者を予想して盛り上がっているうちに再びラッパが鳴り響いて、競技場に、二人の騎士が入場してくる。

どちらも剣技大会の黒と金の騎士服を纏い、大きなマントをはためかせている。

広い競技場だが、二人の騎士の存在感は圧倒的だった。


「さーて、軽く終わらせますか」


コキコキと肩を回しながら、気楽な感じで競技場の右側に立ったのは金髪の騎士。

第二王子の騎士であるクレーベだ。



クレーベは相手の騎士と向き合うと、陽の光に当たって光る見栄えの良い模造剣をひょいと構えた。

相手方の騎士も高価そうな飾りのついている模造剣を構えて準備万端だ。



二人の間に立った審判役によって、試合開始の合図が出される。


先に動いたのは相手方の騎士だった。

驚くべき速さでクレーベの方へ飛び込んでくる。


だがクレーベは、まるで散歩にでも来たような気軽さで立ったまま小さく笑った。


「ほい」

軽快な掛け声とともに、懐に飛び込んで来ようとした相手の攻撃をふわりとよけた。

次の攻撃も、ひらりと舞うように避ける。


「よいしょ」

そしておちょくるような派手な動きで相手の剣戟をいなしていく。


避けるだけの動作一つとっても、まるで舞台演劇でも見ているような華やかさだ。

観客、特に女性がクレーベを応援する声が次第に大きくなって聞こえる。



「くそおっ!」


軽々と攻撃を避け続けるクレーベに苛つく騎士は大きく剣を振り上げたが、それも微笑むクレーベにひらりと躱されてしまった。


「君は第三王女殿下の騎士になったばっかりだったよね。ならこれだけ動きに無駄があっても及第点ってとこかな」


クレーベに煽られて、焦り始めた騎士はちらりと第三王女の座る特別観客席を見る。

彼の主である第三王女は、祈るように両手を前で組んでハラハラした面持ちだった。


対して、その隣の特別観客席に座る第二王子のディートリヒは、悠々と足を組んでクレーベを眺めている。



「お兄様、少しは手加減してくださいまし」


そう可愛らしい声を上げたのは、ディートリヒの隣の観客席にいる第三王女だった。


王族用の特別観客席は半個室になっていて奥ではソファやテーブルなどがあってくつろげる仕様になっているが、試合が始れば開けたバルコニーのような観戦席で観戦ができる。

その際は隣の客席に座る者同士声は届く距離になる。


「ははは。あれ以上の手加減となると、クレーベは試合中に眠らなくてはいけないだろうね。もう既に存分に手加減してあれなのだから」


「まあ。お兄様の意地悪」


「意地悪なものか。これが兄上姉上の騎士だったら秒で決着をつけていただろうさ。見せ場も作らず瞬殺だ」


「そ、それはそうでしょうけれど……」


ディートリヒは隣でむくれた妹の顔を見て再び笑い、手に持っていたグラスを傾けた。



第三王女の騎士は勝利を願ってくれている主の為、競技場で奮闘している。

だがやはり、どう見ても劣勢だった。


会場の第三王女の陣営の者以外は全員、クレーベの派手でありながらもしなやかな体捌きに見入っていたし、クレーベの勝ちを確信していた。


「うおおおお!」

第三王女の騎士も流石に力量の差が分からないほどの下級騎士ではなかったが、最後まで諦めるわけにはいかないと叫び声と共に大きく剣を振りかぶった。


「あーあ。物凄い隙だらけ。疲れてきちゃった?それとも君のお姫様が心配そうに見てるから焦っちゃった?」


ふうと溜息をついたクレーベは、振り落とされた剣を避けてくるりと大きく反転した。


そしてそのまま柔軟な動きで、曲芸のように相手の剣を蹴り落とす。

カキンという金属が鳴る音と共に相手のうめき声が聞こえて、次の瞬間にはもう勝負が決まっていた。


クレーベの模造剣の切っ先が、相手の喉元に突きつけられている。


「勝負、あり!」


審判がすかさずコールする。

客席がワッと声を上げた。

クレーベの勝利だ。


第三王女の騎士がぐうと唸って頭を垂れ、クレーベが剣を下ろす。


「ありがとうございました」

「ありがとうございました」


深々と頭を下げた第三王女の騎士に合わせて丁寧な礼をしたクレーベは頭を上げた後、パッとディートリヒたちの席へ振り返った。


「殿下ー、見てました?」


「そりゃあ、見ていたよ。他に見るものも無いしね」


「他に見るものもないって、何か微妙に傷つきました。 でもまあいいです。いいところまで行ったら有給三日増やしてくれるって約束は忘れないでくださいね」


「いいところまでじゃない。優勝したら増やしてあげようとは言ったけれどね」


「あ、そうでしたっけ。でも優勝はなあ……」


ディートリヒにあしらわれたクレーベは、何故かちらりとオレリアの顔を見た。

オレリアは自分の顔に何か変なものでもついていただろうかと心配になったが、ゴミも虫も何もついていないようだった。




審判に退場するように急かされて、オレリアから顔を逸らしたクレーベは入退場口に向かいながら独り言ちる。


「優勝は流石に無理かな。だってルイスがいるし。殿下に加えて惚れた女の子まで見てるんだから、ルイスがむざむざ勝ちを譲ってくれるわけないじゃん。あーあ、有給、欲しかったなー……」


何やら肩を落とした様子のクレーベだったが、客席は退場していく彼の姿にも盛り上がっていて、特に貴族令嬢たちの黄色い声援が目立っていた。


そしてその黄色い声援は次の試合でもっと大きくなることになる。







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