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余命一年のドアマット令嬢のやりたいこと全部  作者: 木の実山ユクラ


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気弱な令嬢と夜会





夜会。


オレリアは侯爵家に生まれたにもかかわらず夜会には一度も行ったことが無かった。

ただ、義妹のエクレールがお姫様のように綺麗に着飾って出て行くのを見送る事しかしてこなかった。

自分は一生パーティに行けないと思っていたから、「私も行ってみたい」という気持ちを押し殺していた。


でも本当は、夜会やパーティにはずっと憧れていた。

本と想像の中に出てきた夜会しか知らないけれど、それはとても華やかなもので、オレリアは女の子として憧れた。


煌びやかな王宮で、綺麗なドレスを着て、華やかなアクセサリーをつけて。

楽団の演奏を聞いて、輝くシャンデリアの下で踊って。


オレリアは、死ぬ前に一度でいいから夜会かパーティに行ってみたいと思っていた。


(こんな私だけど)


(正直に言うと、行ってみたい)


(なら死ぬ前に一度だけ、行っても罰は当たらないんじゃないかな……?)




「どう……っすかね?いきなり過ぎましたかね?」


考え込むオレリアの顔を、アレスが少し不安げに見ている。


「ほんと軽い気持ちでいいんで、一緒に来てくれたらいいなーって思うんっすけど、やっぱダメっすかね……」


「……あの、駄目じゃなくて……行ってみたいです」


「えっ、ほんとっすか?」


「はい。私なんかを連れて行ってくれるのであれば、私、行ってみたいです」


アレスがどのようなつもりでオレリアを誘ってくれたのか、経験のないオレリアには全く分からなかったが、この先オレリアが夜会に行けるチャンスなんてもう来ないだろう事だけは分かる。


(だから、アレスさんの親切を受けても……いいかな)





「やったーーーー!!!!」


オレリアが頷くと、いきなりアレスがゴミ袋を両手に持ったまま飛び上がって叫んだ。


「えっ?アレスさん?!」


アレスはまだゴミ袋を天に掲げて喜びのポーズを取ったままだ。

連れて行ってもらえるのだから喜ぶべきなのはオレリアの方なのに、アレスの方が喜んでいるというのは変な感じだ。


「ありがとうございますオレリアさん!夜会、すっごい楽しみになりました!オレリアさんみたいな綺麗な人連れてったら皆に羨ましがられること間違いなしっす!」


「えっ、それは、絶対にないと思いますけど……」


「いえいえ、ありますって!間違いないっす!兄貴にも自慢してやります!兄貴多分、俺がこんな美人連れてたら腰抜かしてビックリするっす!」


「いえ、あの……」


「夜会は来月の初週にあるっす。当日は家で一番いい馬車出してもらって、迎えに行きますんで!」


嬉しそうなアレスは軽くステップしながらゴミ捨て場に到着し、そこに大きなゴミ袋をどさりと降ろした。

そして仕事は終わりといわんばかりにパンパンと手を打って、もう一度「楽しみっす!」と笑顔になった。



オレリアは明るい笑顔で楽しみだと言ってくれるアレスに感謝し、彼が恥ずかしくないように、当日は出来る限りのおめかしをしていこうと決めたのだった。









「オレリアよ、何をそう熱心に縫ってるんだ?……ドレス、か?」


そんなことを言ったのは、あくる日の休憩時間、珈琲を淹れた二つのマグカップを手に持って厨房から出てきたロナウトだ。

マグカップ一つをオレリアの近くに置いて、もう一つは自らですする。


「珈琲、ありがとうございます、ロナウトさん。 それから、はい。縫っているものはドレスです」


熱心にドレスを縫っていたオレリアは顔を上げ、小さく微笑んだ。


昼食を終えた見習い騎士たちが退散し、片付けと仕込みを終えた後の少しの休憩時間で、オレリアは夜会に着て行くためのドレスを縫っている。


本当は素敵なドレスを買いたかったのだけど、とてもではないがオレリアの給料では買えなかったので、中古の安いドレスを買って来て自らの手で修繕と改造をしているのだ。


侯爵家で使用人同然に働いていたオレリアには、実は裁縫の心得もある。

癇癪を起したエクレールが裂いてしまったドレスを新品同様に直したことだってあったし、夫人に命じられてハンカチ100枚に3日で刺繡を施したこともある。


だからそれらの経験を合わせれば、古いドレスを新品に見せることも不可能ではなかったし、新しいレースとリボンをつけ足して流行のデザインに似せることだって出来そうだった。


中古のドレスを買ってしまったからアクセサリーは買えなかったけれど、もしかしたらドレスで使った余りのレースとリボンで髪を結ったらまだ見えるようになるかもしれない。


煌びやかで美しい本物の令嬢達には敵わないかもしれないけれど、せめて夜会で浮かないようにはできる筈だ。




「ドレスをねえ。それにしても器用なもんだ。スイスイスイっと縫っていきやがる」


珈琲を飲んで一息ついたロナウトがオレリアの手元を見て、感心したように呟いた。


「俺あ見ての通り指が太くて不器用だから、お前のように裁縫できる細い指ってのは魔法みたいに見えるってわけよ。その星みたいな刺繍なんて、ほんとどうやってんだ?」


「あっ、これはですね、こうして……」


ドレスのスカート部分に、ライトが当たった時にキラキラと反射するように角度を工夫して縫った星の刺繍がある。

ロナウトが興味深そうに身を乗り出してくるものだから、オレリアは嬉しくなってつい星をもう一つ作成してしまった。


「はー、すげえなあ」「ほー、すげえなあ」


ひとしきり感心し倒した後、ロナウトは冷め始めた珈琲をずずっと一口飲んで、話を替えた。


「で、ドレスを直してる理由は夜会か?ルイスの奴にようやく誘われたか?」


「ルイスさん……?いいえ、違います」


「あ?ルイスじゃねえのか?じゃあ誰だよ」


「あの、アレスさんが誘ってくださって」


「アレス?騎士見習いのか?」


「はい」


オレリアが頷くと、ロナウトはチッと大きく舌打ちをした。


「っったくアレスのやつ。見習いが何色気出してんだ。再来週の剣術大会が終わったらすぐ騎士昇格試験があるってのに。さてはあいつ、最近成績良いからって調子乗り始めやがったな。で、ルイスの方は、のほほんとしやがって大丈夫なのかよ……」


ロナウトが最後に呟いた、ルイスがのほほんとしているという意味は分からなかったけれど、まあ、ルイスは穏やかな人だから豪快なロナウトからしたらのほほんとしているように見えるということなのだろう。

そう考えたオレリアは小さく相槌を打っておいた。


それからロナウトに貰った珈琲を一口のみ、再びスイスイとドレスにレースを縫い付け始める。




今週末にはアレスに招待してもらった夜会があって、その翌週にはルイスが第二王子の陣営で出場する剣術大会がある。そしてその次の週には騎士昇格試験だ。


(夜会も楽しみ……でも、剣術大会でルイスさんが戦っているところも遠くからでいいから見てみたい……)


(死ぬ前に一度だけでいいから、やりたいこと全部やりたいな……)





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