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余命一年のドアマット令嬢のやりたいこと全部  作者: 木の実山ユクラ


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気弱な令嬢の下ごしらえ




買い出しから帰ってきたオレリアは仕事があるというルイスと別れ、食材を全て保存庫に移した後、厨房にいた。

明日に備えて、厨房の様子や食堂の雰囲気を掴むためである。



時刻は丁度夕ご飯時。


総勢70人もの騎士見習いの男性たちがわっと食堂に押し寄せ、厨房のオープンキッチンで次々と料理を受け取っていく。


料理をよそっているのは騎士見習い達の中で当番制らしいが、実際に調理をしているのは調理長のロナウトだけだ。


ロナウトは一人であっという間に70人のお腹を満たす食事を作り上げていた。


彼は人に無理難題を押し付けるだけの人ではなくて、実際に自分でもやってのけてしまう凄い料理人だった。


あれと同じことが、果たしてオレリアにもできるのだろうか。

しかも三食全部。

そんなこと、出来るのだろうか。





「お前も食っとくか?腹減ってるだろ」


70人分のデザートの果物を物凄い速さで準備しているロナウトが、青い顔をしているオレリアに声をかけた。


「夕飯が終わったら仕込み始めるんだろ?なら今食える時に食っとけ」


目の前に、ドンッと乱暴に食器が置かれる。


大きなチーズハンバーグと付け合わせの野菜。それに卵サラダとバター載せポテトとライ麦パン。

寮生達と全く同じ献立だ。


料理はどれも艶々と輝いていて、70人分一気に用意したとは思えない程のクオリティだった。


そこから漂ってきたふんわりとした湯気はとてもいいにおいで、オレリアのお腹がくうと鳴った。


「い、いただきます!!」


すぐに仕事に戻ってしまったロナウトさんに聞こえるように大きな声で言って、有難く食べ始める。



それは、とてもおいしい食事だった。


侯爵家では質素で冷たい食事を続けていたから、気を抜いたら泣いてしまいそうなくらい温かくておいしい食事だった。


優しいルイスと話せたことといい、アイスクリームといい、この食事といい、今日は生きていてよかったと思えた日だった。



(明日、私にこんなおいしい食事は作れないかもしれないけど)


(でも)


(少しでもこれに近づけるくらいの美味しい食事が作れるよう、努力します)





「ごちそうさまでした」


ゆっくりと手を合わせる。

長い間小食で沢山のものが食べられないオレリアは、かなりの時間をかけてしまったが、貰った食事をなんとか完食した。



「食うのおっせえなあ。もう片付けまで終わっちまったぞ。今から厨房はお前の下ごしらえに好きなように使え。寝るのは一階の空き部屋を使えばいい。大浴場も深夜過ぎなら誰も来ねえから、それも使いたければ使え」


「は、はい!!」


その他にも「調理器具は壊すなよ」「火事には気をつけろよ」「傷んだもんは出すなよ」などとザッと5ページ分くらいはありそうなロナウトの注意事項を聞いてから、オレリアは明日の為の下準備を始めた。





明日70人分の食事を一人で3食つくるにあたって、オレリアが考えたメニューはこうだ。


朝のメイン料理は、肉厚のステーキ茸のソテー。

これは大きなフライパンで、明日の朝作る予定。


そして昼のメインの桃牛のスパイシーミートスープは、ありったけの大なべを使って今晩から煮込んでおき、明日は温めるだけで出せるようにしておく。

それなら皆に出来立てと変わらない料理を出せる。


夜用の料理を準備するだけの鍋がないので、夜のメインの肉は明日の朝からオーブンで焼く。

夕食に間に合うように作り始め、夕食の時間になったらあとは切り分けるだけでいい。


それから付け合わせには、オレリアが毎日のように扱ってきて慣れ親しんだ芋類を多く使うことにした。

満月芋は今晩のうちに大量に蒸しておいて、明日潰してバターと胡椒を入れてマッシュポテトにする。

それからマカロニのような食感のタタ芋はアスパラガスと一緒にチーズソースで和えて付け合わせにする。

切って揚げるだけで美味しい餅芋と、クリーミーな味の乳芋も小鉢に入れて出す予定だ。


そして主食のパンの下準備だが、これが一番一番大変だ。

捏ねて発酵させなくてはいけないのだが、これを70人の三食分、今夜の内に仕上げておかねばならない。





グツグツ。

コトコト。

コネコネ。


オレリアは必死に頑張った。

厨房で忙しく走り回って、ようやくすべての準備が済んだのは深夜過ぎ。

いや、殆ど早朝に近い時間だった。



朝早くから深夜までの仕事には慣れている筈のオレリアだったが、緊張していたからか、いつもより疲れてしまっていた。


(そういえば……ロナウトさんがお風呂に入ってもいいって言ってたな……)


温かいお湯につかることが許されるなんて、何年ぶりだろう。

オレリアは誘惑に勝てず、騎士見習いたちの寮の大浴場にお邪魔したのだった。


そしてその時に、自分のお腹に過ぎた日にち分の痣が広がっていたこともこっそり確認したのだった。







翌朝。


布団で寝る時間もなかったので仮眠だけ取り、まだ日も昇らない早朝に起き上がる。

手早く準備を整えて厨房へと移動する。



昨晩お湯につかって汚れも流せたので、肌の調子が良いし、髪も少しだけフワフワな気がする。

それでも不細工と言われ続けた顔を皆に見せる勇気まではないが、厨房に立つ人間らしく髪をしっかりと縛った。


パンッと頬を叩いて気合いを入れる。


(……よし)


(三食70人分、やろう。うん、頑張ろう)


(頑張れ、頑張れ私!)








細々と書いているお話ですが読んでくれる人がいるのだなあと思うと、凄く嬉しありがたいなあと思う今日この頃。


でもみなさん、この小説をどうやって見つけたのでしょうか……。

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