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気弱な令嬢の買い出し




「ま、まず、お、お肉を買おうと思います。品質が良くてお値段も高くないお肉は人気なので、すぐに売り切れてしまうので、まずお肉からです」


「はい」


ここからは自分が全て仕切らねばならないのだ、と気合を入れたオレリアがルイスに宣言すると、ルイスは優しく頷いてくれた。


ここ何年も肉は買ってこなかったオレリアだが、騎士になるための訓練を頑張っている寮生たちは肉が食べたいだろうということで、メインは肉一択だと考えていた。



肉屋に到着し、オレリアは人込みのあいだから今日売られている肉たちの様子を窺う。


(あの肉は鮮やかさがないかも)


(あっちの肉は、品質に対してお値段が高すぎかも)


(こっちの肉は、安いけど流石に筋が多すぎかな……)



「あっ。こ、これ……ください!」


オレリアは良さそうな塊肉を見つけ、声を上げた。

70人分のお昼ご飯になりそうな、立派な桃牛の肉。

それから70人分の夕ご飯にできそうな大きな山豚の肉も買った。




「肉は重いでしょうから、私が持ちますよ」


保存用の特別な葉っぱにくるまれた大きな肉塊を見て、ルイスが手を差し伸べてくれた。

だが、オレリアは首を振る。


「大丈夫です。私、力が結構強いんです」


「分かりました。じゃあ、疲れたら言ってください。重すぎて辛くなった時も言ってください」


「はい」


今までオレリアがどれだけ重いものを持っていても心配してくれる人などいなくて分からなかったが、誰かに心配されるとはこういうことか。

頷いたオレリアは、少しくすぐったいなと思ったのだった。




「じゃ、じゃあ、次はこのお店でスパイスを買おうと思います」

「スパイスですか」

「はい。このあたりの、海の向こうからやってきたスパイスを使おうかなと思っています」

「へえ、面白いにおいですね。下町にはこんなものも流通しているのですか」


「このお店で、キノコも欲しいのですけど……」

「わかりました」

「買うなら、このキノコかこのキノコかな……」

「へえ、可愛らしい形ですね。猫のような」


そうこうしながら、オレリアとルイスは小麦や野菜、茸やスパイスを買って市場を歩きまわった。


大量の食材が入っているので、背中の荷物入れがもうパンパンだ。

それに重さも尋常じゃない。

実は先ほどふらりとよろけてしまったが、ルイスは見ていなかった。気づかれてはいないはずだ。


……多分。



「疲れてきたのではありませんか?大丈夫ですか?」


「は、はい!いいえ!大丈夫です!」


流石のオレリアも重いなと思うくらいの重さだが、絶対にルイスに迷惑はかけられない。



「……少し休みましょうか。あのカフェはいかがです?」


「えっ、だ、大丈夫です!カフェなんて、その、私は入ったことありませんし……」


ルイスが指さしたのは、下町の市場近くの噴水広場に面したカフェだった。

下町の店の中ではお洒落に分類される店で、町の若者のデートスポットでもある。


美しいルイスと並んでカフェに入るにはあまりにも貧相な自分の姿を想像して、オレリアは全力で辞退した。



「では、そこの屋台のアイスクリームでも食べますか?下町のアイスクリームは美味しいと私の同僚が話していて、気になっていたんです」


「あ、アイスクリーム……」


冷たくて甘くておいしいものだと聞いたことは有るが、食べたことはない。

でも気にならないと言ったら嘘になる。

オレリアが口籠っていると、ルイスは「そのベンチに座って、ちゃんと休んで待っていてください」と屋台の方へ行ってしまった。




「味が色々あるみたいで、貴方のものは何がいいか分からなかったのでバニラにしました」


「あっありがとうございます!」


「どういたしまして。ちなみに私はチョコレート味です」


ルイスは買って来たアイスクリームを一つ、オレリアに差し出す。


(ほ、ほんとにいいのかな。こんなにおいしそうなもの貰っていいのかな)


オレリアがおずおずとアイスクリームを受け取ったのを見たルイスは優しく微笑んで、オレリアが座るベンチの左端に腰を下ろした。




「い、いただきます」


オレリアは、おそるおそるアイスクリームを齧ってみる。


(あ、あ、あ、アイスクリームおいしい!!)


(こんなにおいしいもの食べたことない!!)


(甘い!すごい!)


オレリアは口に入れたアイスクリームの味に感動して、はむはむと無言で食べ進めていた。

こんな風にルイスに親切にしてもらって、こんな風に美味しいものを食べられるなんて、夢みたいだ。


「美味しいですね」


「はいっ!!」


下町のアイスクリームでさえ高級店のデザートに変えてしまうような微笑のルイスに、オレリアは元気に返事をした。

先ほどまでの疲れが何処かへ吹き飛ぶようだ。


「ところでオレリアさん、髪にアイスクリームが付いてます」


「えっ!」


「これ、使ってください」


前髪が長いから、夢中でアイスクリームを食べている間にべったりと付けてしまったのだろう。

勿体ないやら恥ずかしいやらで手早く袖で拭こうとすると、ルイスが懐から綺麗な白いハンカチを取り出して手渡してくれた。


「こ、こんな綺麗なハンカチ使えません!私の食べたアイスクリームがついちゃいます!」


「大丈夫ですよ。気にしないで」


オレリアが食べていたアイスクリームは汚い、なんて言われなかった。

そのことに感動したけど、やっぱり申し訳なかったので「ハンカチを洗って返させてほしい」という条件付きで借りることにした。






アイスクリームを食べながら休んだのち材料を全て買い終え、帰りの馬車を待っている間。


「あの」


ルイスがオレリアに声をかけた。


「改めて、今回の件は申し訳ありませんでした。あんな無理難題を出すなんて思ってはいなかったとはいえ、声をかけて巻き込んでしまったことを申し訳なく思っています」


真剣な顔だった。

オレリアはチャンスを貰えて感謝こそすれ、謝られることなんてないと思っているのに。


「これ以上理不尽なことが無いよう、ロナウトさんにはしっかり言っておきます」


「いえっ、大丈夫です、私はほんとに……!」


「でも」


「あの、ルイスさんには感謝しています。求人を見つけるのも結構大変なので、本当にありがたかったんです!試験だって大丈夫です!」


オレリアは頑張って、ドンッと胸を叩いて見せた。

これは全部オレリアの本心だから、ルイスが申し訳なく思う必要はない。



「そうですか。なら、応援しています。頑張って下さい」


「はいっ!」


ルイスが微笑んだので、オレリアは力強く頷いた。


単純だがオレリアは、眩しいルイスに応援してもらったので、絶対頑張ろうと改めて思ったのだった。






ゴールデンウィーク終わっちゃった……

今日からまた忙しくなるおあああ

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