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余命一年のドアマット令嬢のやりたいこと全部  作者: 木の実山ユクラ


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気弱な令嬢の職探し 3



綺麗に整備された王宮騎士団の訓練場に、指定の時間に辿り着いたオレリアは無事にルイスと合流した。


「こちらです」と案内してくれるルイスについて行くと、彼は北側にある宿舎のような建物の中に入って行く。


時折すれ違う人は屈強な男性が多くて、揃いの青い制服を着ている。

目立たないようにキョロキョロしていると、振り返ったルイスが教えてくれた。


「ここは騎士見習いの寮舎です。今は70人程いて、半年後の騎士団入団試験に向けて研鑽を積んでいます」


「そ、そうなんですか……すごい」


「そうですね。皆努力していますが、一度の試験で騎士になれるのは20人くらいでしょうか」


「せ、狭き門、ですね……」


「はい、本当に。私も昔はここにいて、何度も試験に落とされました」


「えっ……ル、ルイスさんも落とされたことがあるんですか……?とっても優秀そうなのに……」


「ありますよ。たくさん。今は背が伸びましたが、入ったばかりの頃はチビで毎回座席は一番前だし、隊列を組むときも一番前でした。剣のリーチも短かったし力もなかったし、最初は散々で。でも、たくさん食べて大きくなりました」


「……そっか、食べ物は偉大ですね」


「本当にそう思います」


優しく肯定してくれて、ふふっと笑ったルイスもやっぱり魅力的だ。

目が幸福だなあと思いながら、オレリアも長い前髪の奥で微笑んだ。



「それで今回紹介させていただくのは、私がこの寮にいた時、私にたくさん食べさせてくれた方なのですけど。では中に入ってしっかり紹介しますね」


ルイスは立ち止まり、調理長室と書かれた部屋の扉をコンコンとノックする。



その部屋の中にいたのは、眼帯をした髭モジャの調理長の男だった。

丸太のような大きな両腕には、大迫力の刺青が入っている。

下手したらオレリアの腹にある呪いの刺青よりも禍々しいデザインだ。


オレリアは怯んでしまったが、ルイスはその男と親し気に二言三言交わしていた。


「おう、元気でやってるかルイス。あの第二王子も相変わらずか?」

「はい、おかげさまで。ディートリヒ様も相変わらずですよ。相変わらずぶっ飛んでます」

「大変そうで何よりだ。ガハハ」




「……で、こっちか。職探し中の娘ってのは」


いきなり話が振られて、オレリアはビクッと肩を震わせてしまった。

調理長の男はとにかく声が大きくて野太い。一言一言が獣の唸り声のようなのだ。


だけど折角貰えた貴重なチャンスなのだからと、オレリアは懸命に声を張り上げた。


「オレリアといいます!オレリアと呼んでください!今日は面接、どうぞよろしくお願いします!!」


オレリアが頭を大きく下げると、ルイスがオレリアに簡単に調理長を紹介してくれた。

調理長は、鋭い隻眼でオレリアを眺めまわしている。


「ふうん…… しっかし小汚い娘だな。しかも何故前髪がそんなに長い?」


「あっ、そ、それは……」


不細工な顔を表に出すのが恥ずかしいからです、とは言えなかった。

きっと、オレリアの顔を見ればみんな嫌な気分になる。

それに加えて、オレリアは人の目を見ながら話すのが得意ではないのだ。


「まあ今はいい。だが採用することになったら切ってもらうぞ。うちの厨房では寮生とコミュニケーション取る機会がたくさんあるからな。 まあ何はともあれ根性だ。お前、根性はあるのか?」


「っ、はい!根性はあります!」


本当は今までずっと根性なんてない弱虫だったけれど、ここは何としてでもあると言わなければならない場面だと思ったオレリアは、無我夢中で頷いた。


「そうか。なら明日一日三食70人前一人で作って見せろと言われても、出来るよな?」


「えっ?」


「俺は根性があるヤツを探してるんだ」


調理長の男は、品定めするような視線をオレリアに投げかけた。

「そんなの無茶です!」と隣にいたルイスが止めに入ったが、調理長の男は発言を撤回する気は無いようだった。


(一日三食、70人分、一人で?)


(……無理だよ……)


(……この人も、私を採用してくれる気がないから、こんなことを言うのかな……)


(……やっぱり私に仕事をくれる人なんて、いないのかな……)




「できません」と、言いかけた。

オレリアはそう言いかけたけれど、口をつぐんだ。



オレリアは今までずっと、自分で何も出来ないまま生きてきた。

何もできなかったからエクレールに虐められても我慢するしかなくて、アデルに叩かれても黙って耐えるしかなかった。


でも出来ないと思っていたことを死ぬ気でやってみたら、少しだけオレリアの人生が変わった。

勇気を出して嫌だと言って、侯爵家を出て仕事を探していたら、チャンスに巡り合った。


仕事を始めて、ささやかながらも自分らしく生きていくチャンスだ。

こんなチャンス、残り一年もないオレリアの寿命のうちにはもうやってこないかもしれない。



(……なら、ダメもとで、やってみようか)


(一日三食、70人分、一人で)


(どうせ一年後に死んじゃうんだから、一回くらい死ぬ気でご飯作るのも、悪くないかも)





「やり、ます」


「……なんて言った?声が小さくて聞こえねえ」


「やります!!やらせてください!!」



覚悟を決めたオレリアが殆ど叫ぶように声を出すと、調理長がにやりと笑った。


「わかった。じゃあ明日、お前がやり切ったら即採用だ! 材料の買い出しは今から行け。仕込みは今晩、夕飯が終わったら厨房使っていいぞ」


調理長は食材費の入った小袋と荷物入れをオレリアにポイっと渡し、「さあそうと決まれば行った行った!」と背中を押した。


オレリアは展開の速さに目を白黒させながらも、小袋を受け取って荷物入れを背負った。

それからとりあえず市場に向かおうと、調理長室を出た。








「ロナウトさん!」


まだ部屋の中に残っていたルイスは、調理長に詰め寄っていた。

しかし、この寮の調理長・ロナウトの表情は飄々としている。


「俺はなあ、何を言われても死に物狂いで食らいついてくるような根性座ったヤツと一緒に働きてえんだよ」


「それにしたってやり過ぎです。こんな風だから今まで全然人を採用できなかったんですね? ……せめて、明日休暇を取るので私に彼女を手伝わせてください。これは彼女に貴方を紹介した私にも非があります」


「駄目だ。俺はあの娘が一人でどこまでできるのか見てえんだよ」


「だからって……」


「雇うのは俺だ。ここの厨房のボスは俺だ。だから俺がどんな基準で採用しようと、どんな課題を出そうと俺の自由だ」


ロナウトはどこからか煙草を取り出し、ぷかーとさせ始めた。

これはもう、何を言っても無駄だ。


ルイスはロナウトを軽く睨み、ハアと小さくため息をついた。


「買い出しは物凄い量になるでしょうから、それは手伝ってきます。それくらいはいいですね?」


「ああ。それくらいならいいぜ」


「半休を申請してきますので、彼女に先に行かないよう伝えてください」


そう言って、ルイスは調理長室から足早に出て行く。


「はいはい……っと」


いつも礼儀正しいルイスが閉めることも忘れて出て行った扉を見ながら、ロナウトは適当に返事をしていた。





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