4.将来の予定
「これで全員?」
「はい。毎回すみません、ありがとうございますぅ…」
日付が変わる前に女子会はお開きとなり、
何人か酔いつぶれた使用人をイザベラが部屋まで運んだ。
お姫様抱っこで。
抜群のプロポーションのどこにそんな力があるのか、軽々と抱えて部屋へ運んでを繰り返し、最後の一人を優しくベットに横たえ毛布をかける。
当初はイザベラが運ばなくても、と青い顔で止めたが本人が自分がしたいのだと言い「役得役得♪」と嬉しそうにサクサク運ぶので、以来 酔いつぶれた使用人の搬送はイザベラの担当となった。
「じゃあ私は部屋に戻るわね。サーシャ、明日は遅くても大丈夫よ」
「ありがとうございます!女神様!」
「ふふ、なら貴女は天使ね」
おやすみなさい、良い夢を。とお酒が入って少し頬の赤いイザベラは微笑んで去って行った。
(お嬢様イッケメン…あ、この場合はイケジョ?
男だったら美丈夫確定、惚れてるわー…女としてのお嬢様にも惚れてるけど)
しっかりとした足取りで部屋に戻るイザベラの背中を見送り、サーシャも自分の部屋へ戻った。
今日は良い夢が見れそうである。
イザベラは部屋に戻ってから、背もたれのある椅子に深く腰掛けた。
(さて…本当にどうしましょう)
今日の出来事を思い返す。
まさか第二王子自ら来訪されるとは思わなかった。
しかも妹でなくイザベラで間違いないと言う。
この国では15になると婚約が認められる。
イザベラも15の誕生日翌日に婚約申込の手紙が山のようにきたが、全てお断りした。
自身の人生設計に婚約や結婚の文字は無かったのだ。
フローレン侯爵家は国防を担っている。
領には軍人や騎士を育成する機関もあり、父は国防長官だ。
弟たちも属しており、日々鍛錬に励み忙しい毎日を送っている。
母が亡くなってから、父の不在時に代わりになれるよう侯爵家当主代理、領主代理の仕事を覚えこなしていった。
父に命じられた訳でもなく、自ら進んでやり始めたので苦ではなかった。
私は代理中でも、社交界や令嬢が主催するお茶会などに赴いた。
お茶会で恥ずかしながら頬を染め、恋の話をする女の子は可愛らしい。
社交界で恋人の浮気を知り、泣を流す女性も儚く美しい。
周りからは平民上がりの醜女と蔑まれ、全てを妬みながらも生きる姿は気高く焦がれてやまなかった。
女性を慈しみ、愛でることが私の生き甲斐だ。
だから婚約や結婚で、その時間を削られるのは本意ではない。
(予定では弟たちが素敵なお嫁さんを連れてきて、私の役目を引き継いだら諜報部あたりに入るつもりなのだけど)
父と弟たちに全力で止められているが。
そもそも第二王子のことは公で公表されていることしか知らない。
社交界では色々な噂が耳に入るが所詮は噂、1つの可能性として頭の隅においておくだけ。
(今日の殿下の言葉は本心のようだったけれど、違和感があったわね)
笑みは式典で見たことのあるものだったし、言葉遣いは丁寧だったが私の反応を見て選んでいるようだった。
あの類の人間は本当の顔は別にある。
(殿下の空気に何か覚えがあるような…私と殿下が最後にお会いしたのは…)
…………いつだっただろうか?
アルコールが入っているせいか、頭がふわふわして思い出せない。
イザベラは早々に諦めてベットに入る。
(ああ、暖かくて気持ち良いわ…)
眠りにつくのは早かった。
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「…あら、思い出した。殿下とお会いしたのは2年前ね」
翌朝、すうっと目を開きベットの壁に掛かっている剣を目にして思い出した。
「あのとき不味いことをしたかしら?」
なんとなく、したような気がする。
ふむ、父が帰ってくるまでに思い出さなければ、とサーシャが来るまでの間に着替えをすませることにした。