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3.女子会

未だ殿下の名前が出ずにすみません。

殿下が帰られて暫くすると、リリアンヌが家に戻ってきた。

「お姉様!お茶会に長居しないように、と言伝ことづてがありましたが何があったのですか?」

「おかえりなさい。サーシャ、お願い」

サーシャが、かくかくしかじか…と今日の顛末をリリアンヌに話すとリリアンヌは大きな目を輝かせた。

「やっぱりお姉様をご所望されていたのですね!そうだと思ったんです、第二王子殿下は見る目がありますね!」

にこにこと嬉しそうにしているが、対するイザベラの顔は思わしくない。

イザベラは顔を引き締めた。

「リリアンヌ、サーシャ、女子会よ!」

「「御意っ!」」


サーシャからメイドへ、リリアンヌからその他の女中へ、今日の仕事はほどほどに終了しイザベラの部屋に集まるよう通達がされた。

フローレン家の使用人(女性のみ)はお菓子や飲み物など持参し、通達通りにわいわいとイザベラの部屋に集まった。


「とっておきのワイン持ってきちゃった!」

「いいわね!そのワインならチーズが合うわよ。誰か持って来てる〜?」


各自 床だったりソファだったり、自分たちが仕える者の部屋だと言うのに思い思いに座り始める。

貴族の屋敷ではあり得ない光景だ。


「お姉様も一緒の女子会は久しぶりですね!」

「そうね!タイミングが合わなかったり、ネタがなかったりしてね」

「はいっ!皆さん飲み物の準備は良いですか〜?

えーではフローレン家女子会、はじめまーす!

カンパーイ!」

「「「カンパーイ!」」」

サーシャの音頭で女子会が始まった。

ここからは無礼講である。



「それでお嬢様が『お戯れを』なんて言うから、わたし肝が冷えましたよー!」

「だってそれしか思いつかなかったの」

「というかイザベラ様って年下ありなんですか?」

「あら、考えたことなかったわ」

お菓子をポリポリつまみながら、サーシャ劇場の合間に他のメイドから質問が飛ぶ。

何故こんなに打ち解けているかと言うと、この女子会も回数を重ねているからだ。


最初はイザベラから提案され 大半の女中がそんな恐れ多いことはできないと丁寧にお断りしたが、サーシャは結構ノリノリだった。

断っても誘ってくるイザベラと、サーシャが嬉々として勧めてくるので根負けした数人が参加したのが第一回目である。


実はフローレン家の使用人は孤児であったり、元奴隷であったり訳ありが多い。

元々、形式ばった堅苦しいものは得意ではなく、使用人として努めていられるのはスパルタ教育の賜物だ。


そんな中イザベラから女子会ではくだけて話して欲しいと言われ、お酒も入った参加者は年頃の女性らしい恋バナなどで盛り上がった。

たまに失言したりお行儀が少し悪くなっても、イザベラは咎めない。

美味しいお菓子や食べ物があって、愚痴を言っても恋の話をしても良い、女性だけの秘密の会話ができる女子会は一人二人と増え、いまではフローレン家の女中が集まる大所帯となったのだ。



「はいっ!質問です」

「どうぞ!リリアンヌ様」

「もしイザベラお姉様が婚約して結婚したら、第二王子妃となるのですか?」

「んー、今の時点ではなんとも言えないですね。この国では王妃の第一王子、側室の第二王子がいらっしゃることはご存じですよね?」

こくこく、とリリアンヌと雇われて間もない若い使用人たちが頷く。

「王位継承権は第一王子にありますが、陛下は次の国王を第一王子にすると明言していません。なぜなら第一王子はちょっと問題があるそうで、幼い頃から聡明で英才な第二王子を国王に、という声があるからです」

「確か第二王子って博識で博士号も取れる程なんですって。剣も群を抜いていて、同じ年の子は敵わないそうよ」

「じゃあ陛下が第二王子を国王に指名したら、お姉様は正妃になるのですか!?」

お姉様が正妃!と頬を染めて興奮するリリアンヌ。

「り、リリアンヌ…落ち着いて…」

「加えてあの整ったお顔!将来は国一の色男ですよー」

「ちょーっと待った!!」

話を遮ったのはフローレン家でも数少ない女騎士だ。

「第二坊ちゃんが天才だ綺麗だってのは良いけど、他にも噂はあるんだよ!」

「えっどんな?」

「本性は冷酷な死神だとか非情な悪魔だとか、表立っては言われてないけど、軍人の間じゃ囁かれてる…あたしはそんな男にイザベラ様を奪われるとあっちゃあ…」

「まだ婚約すら決まってないわよ」

「顔赤いわ。酔ってるわね」

おいおいと泣き出す女騎士をさておき、リリアンヌは姉に向き直った。

「お姉様は殿下と親しいのですか?」

「何度かお会いしたくらいよ。特別 懇意という訳ではないの」

「婚約、どうされますか?」

「そうねぇ…婚約とか結婚とか予定にはなかったから、明後日お父様が帰ってきたら相談するわ」


姉妹が静かに話している間、あちらでは最近親しくなったという男性とメイドの恋バナで盛り上がっている。


リリアンヌはイザベラの手を握った。

「リリアンヌ?」

「あの…わたし、お姉様のことが大好きです。だから…望まない婚約はしないでください…」

「あら、まぁ」

貴族は政略結婚など普通である。

もし今回の婚約に政治的な[何か]が絡んでいるのだとしたら、望まれているのはイザベラ自身ではなくフローレン侯爵家の娘。

イザベラが駄目ならリリアンヌを…とならないよう、自身を犠牲にしないで欲しいと妹は心配しているのだろう。

「リリアンヌ、私も貴女が大好きよ。貴女が悲しむようなことはしないわ」

「お姉様…」

愛しい妹をぎゅっと抱きしめる。

「だって、わたくしはイザベラ・フローレンよ。貴女も知っているでしょう?」

イザベラは悪戯っ子のように笑った。

まるで高貴な猫のようだった。





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