1.運命の手紙
イザベラの一人称は[私]です。
ややこしくてすみません。
(今は父も不在…私がお迎えしなければならないけれど…)
「リリアンヌはどこに?」
「1時間前にご友人のお茶会に向かわれました…」
すぐに妹を戻すことは難しそうだ。
頬に片手を添えて考える。
(用件は婚約の打診の件かしら。でも手紙でお返事をされれば事足りたはず…何故わざわざ殿下が?)
先日、王宮からフローレン家に婚約の申し出があった。
相手は国の第二王子、そして指名されたのはイザベラだった。
ティータイムにその手紙を受け取り、イザベラと妹のリリアンヌは二人揃って きょとん?と首をかしげた。
「私の名前が書かれてるわ…リリアンヌの間違いじゃないのかしら」
「え、こんな大事な手紙で、相手 間違えます?」
「そうねぇ、でも…」
第二王子は先日15歳になったと聞く。
イザベラは今年19歳になる。
妹のリリアンヌは今年の誕生日を迎えれば15歳だ。
つまり妹なら第二王子と同い年で違和感もないが、3つ以上年上のイザベラを指名する理由がわからない。
更にフローレン家は侯爵家である。
確か公爵家にも王子と年齢が近い、うら若き乙女たちがいたはずだ。
公爵家を差し置いて、こちらに打診する政治的メリットも思いつかない。
(やっぱり手違いかしら?)
「リリアンヌ、手紙には私の名前が書いてあるけれど、本当は貴女が指名されていたら どうする?」
「え?でもこれって断れ…ませんよね?」
王家からの婚約の申し入れなど、ほぼ勅命に近い。
「いいえ、リリアンヌが嫌なら断るわ」
だがイザベラは曇りない笑顔でリリアンヌに答えた。
断れば家門に何らかの影響は免れない。
ここに父が入れば、ぎょっとして何か言うだろう。
しかし今、父はいない。
「えっと…でも本当にお姉様を希望されたのかもしれないし、一度 確認してからでも遅くないかと…」
一生懸命考えて、リリアンヌは姉に提案してみた。
「そうね、まずは確認してから考えましょう」
偉い偉い、とイザベラの髪より淡い色の赤毛を撫でると、リリアンヌは嬉しそうに笑った。
妹の笑顔を見たイザベラも、にこにこしながらティータイムを続け、平和に一日を過ごした。
そして翌日ペンをとり、妹のリリアンヌで間違いないかという内容をオブラートに包んで返事をしたのが数日前だ。
「手紙でなく、第二王子が自らいらっしゃるなんて…お返事が良くなかったかしら?なるべくソフトに確認したはずだけど」
「執事長も問題ないと仰ってたので、お嬢様の文面に失礼はないはずですよ」
メイドはふんす、と胸を張って答えた。
「ありがとう。なら…早馬で殿下もお疲れでしょう。フローレン家でお出迎えの準備を」
優雅に立ち上がり、書斎を後にする。
父が不在の場合は、私が女主人として家を任されている。
母は数年前に亡くなり、父は仕事柄 家を空けることが多いためだ。
自分と年子の弟と、1つ下の弟もいるが、彼らは次代を担う若い人材として何かと忙しい。
母亡き後、自然とイザベラが弟妹の面倒を見て、家を取り仕切るようになった。
おかげで王族でも国の要人でも、臆することなく対話ができる。
使用人を動かし指示をしてから、門へと向かった。
「ようこそお越し下さいました、第二王子殿下」
姉イザベラ→腰まである ゆるふわロング。
妹リリアンヌ→ストレートのセミロング。