表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/19

18.私の決意(フレア視点)

前回の投稿から経ってしまい、すみません。

書きたいのですが中々時間がとれず…

合間に少しずつ進めてますので、長い目で見ていただければ幸いです。

《公爵家、一夜にして全焼‼︎ 事故か?事件か?》

《10を超える焼死体発見――身元の確認は難航》

《隣国マデラ、停戦協定を破り奇襲!再び戦争の狼煙が上がる》

《国境沿い陥落、戦神が前線へ――》

《行方不明の公爵令嬢。次期王妃の座が宙に》

《新国王誕生の声、高まる》



「なんだか急に物騒になったわね。イザベラ様も部屋に籠ることが多くなったし…公爵令嬢はどこにいるのかしら」

巷のゴシップ紙を眺めていたメイド仲間が、サーシャに話しかけた。

「本当ね〜想像もできないわ〜!」

(お嬢様の部屋にいるなんて言えないぃー!)

うっかり口を滑らせないか、内心ヒヤヒヤしている。


「あのぅ、サーシャさん…イザベラ様にお客様がいらっしゃったみたいなのですが…」

おずおずと執事見習いの男の子が寄ってきた。

(よっし!話題から離れられる!)

「それは大変、早く案内しないと!…って、今日は来客の予定は無かったはずだけど、どちら様?」

「その、僕も初めて見る方で、スラッとした男性なんですが…ああっ!?」

声を上げた視線の先、およそ50mの距離にサーシャは見覚えのある後ろ姿を捉えた。

どうやら案内を待たずに先行しているらしい。

「あんの…!勝手に行かないでよ、待ちなさーい!!」

なり振り構わず、走って追いかける。

「元気ねぇ、いつでも」

メイド仲間は慌てる男の子に あっちは任せましょ、と言って持ち場に戻った。


------------------------


サーシャが全力疾走する数時間前。


「?…!?」

「お早うございます、フレア様。本日はわたくしがお務めさせていただきますわ」

瞳を開けると、目の前には髪を一本に束ね、黒いタイトな服に身を包んだイザベラ様がいた。

いつもの上品なドレスではなく、男性のような出立である。

(な、なぜ?これは夢…?)

柔和な笑顔は変わらないが、普段より目元もキリッと引き締まっており纏う空気がいつもと違う。

(で、でも慈愛の目で私を見ていらっしゃる…?)

戸惑い きょろ…と視線を動かすと、イザベラ様の背後にいるセバスさんと目が合った。

(どうなっているんですか!?)

クワッと視線だけで問いかけてみる。

すると彼は表情を変えず、大きく頷いた。

(意味がわからないわ、セバスさん!)


「さあフレア様、身体を清潔にいたしましょう。失礼いたします」

イザベラ様が毛布をまくり、私を軽々と横抱きにして浴室へ向かう。

「!?、?、!?」

私は喉が回復していないため問うことも出来ず、ただただ混乱するばかりだ。


それからは ふわふわと、雲の上にいるような感覚で――

イザベラ様は私の爛れた肌を優しく、それは繊細に布で清め、丁寧に髪に櫛を通し、飲み込むだけで良い食事を最後まで私の口に運び、また横抱きにしてベッドに下ろしてくれる。

そして節々で、

『気になる所はございませんか?』

『まあ、とても柔らかい髪質なのですね。触れていて気持ちが良いです』

『急がず、ご自身のペースで構いません。わたくしも、ゆっくりだと助かります』

こちらを気遣う配慮と言葉が、キラキラと降ってきた。


以前は公爵家で、ここではサーシャさんが行ってくれたことを、イザベラ様がしてくれている。

それはそれは優しく、丁寧に、大切にしながら。

(まるでお姫様になった気分だわ…)

社交界一の華と言われる彼女が、ここまでして下さるなんて。

その破壊力は尋常ではない。


「フレア様、次は身体のストレッチをいたしましょう。セバスから教わっていますから、安心して身を預けて下さいな」

にこ、とイザベラはフレアに微笑んだ。

元々の色気と男装した姿、そして愛しいものを見るかのような視線と甘い言葉の響きで、私はその日 楽園を知った――



「では、手を軽く動かしましょう。ゆっくりと、指先を意識して…」

「ベラちゃーん!!会いたかったわ、ワタシのミューズ!」

「!!?」

バァン!と扉から勢いよく誰かが突進してきた。

(一体、誰…!?)

イザベラ様の部屋には、ご本人とサーシャさん、セバスさんしか出入りが許されていないはず。

私は突然の来訪者に、身を固くする。


「あら、ようこそアム。来てくれて嬉しいわ。でも、驚いてしまうから もう少し静かにね?」

「はっ!そうよね、ごめんなさい」


「お、っ嬢様……はぁっ、ウィリアム様が、いらして…」

「遅いわよ〜、サシャりん」

「そっちが勝手に行くからでしょう!お嬢様は逃げないんだから、ちゃんと待っててくださいっ」

ゼーゼーと息を切らしながら、追いついたサーシャが吠える。


「フレア様、ご紹介いたしますわ。わたくしの友人、ウィリアムことアムと申します」

「アムちゃん、と呼んでちょうだい♡」

ぱちくり、と私は目を丸くする。

部屋に突撃してきた方は、イザベラ様より少し身長が高く、金髪が綺麗な男性だったのだ。

外見だけならスマートな紳士に見えるが、話し方は紳士とは真逆であった。

私が出会ったことのないタイプの方だ。


「アム、早速だけれど何日ほど貰える?」

「3日よ〜。5日は欲しかったんだけど、ちょっと厳しいみたい」

「そう、無理を通してくれてありがとう。フレア様、アムは腕利きの医者ですの。以前と同じ姿に戻ることは難しくても、可能な限り近付けてくれるでしょう」

「専門は美容学なの」

ふふん、とアム様が誇らしげに顎を上げる。

私は更に目が大きくなる。


(この、全身 爛れた皮膚を、治療できると仰るの…?)


「あら〜、半信半疑のようね。ベラちゃんが言ったように元通り、には出来ないわよ。でも今よりは見・れ・る、ようにしてあげるわ。もちろん貴女の根性も必要よう」

「喉はどうかしら」

「話は聞いてるけど、そっちは保証できないの…ああ!でもベラちゃんの頼みだもの、出来る限り頑張るわよ!」


放心状態でイザベラ様に顔を向けると、いつものように にっこりと微笑まれた。


「見返りに何かを強要など致しません。回復されたら、お好きになさってください」


私は、貴女に毒を飲ませてしまった。

今は貴女の寝床を奪い、窮屈な生活をさせ、トラブルの火種となる厄介者でしかない。

「……ぁ……ぇ……」

どうして、ここまでして下さるの――


わたくしの生き甲斐ですから、お気になさらず」

(生き…?)

イザベラは大変、良い笑顔だ。

フレアは困惑した。

(よくわからないけど…きっと深い意味があるのね!?)

そんなものは一切ない。

が、彼女が知るよしもない。


「フレア・エスティア公爵令嬢、現在、貴女様の生死はおおやけにされておりません」


このまま姿を消せば、公爵令嬢は死亡したことにして、ひっそりと生きていける。

または死んだと思わせて、再び舞台に乗り込むこともできる。


(今なら…!)


公爵家の末路、

亡くなった大勢の使用人たち、

保身、

一度は諦めた自由な未来。


「でもその前に、その身体よ」

「!」

ずい、とアム様の顔が近づいた。

「時間もないようだし、最短最速で皮膚を再生させるなら荒療治。とーっても辛いけど、それでもやる?」

「……」

足、腕、胴体、顔、身体中の皮膚が爛れているはずだ。

治療できるチャンスは、きっと今しかない。

私はアム様の目を見て、しっかりと頷いた。


「――決まりね。アム、頼んだわよ」

「もちろん!早速とりかかるわ。フフフ…サシャりん、アンタは今日からワタシの手足よ!」

「ぐっ……」

(フレア様は助けたいわよ、でもコイツの部下になるのは釈だわ…嫌だとは言えないじゃない、この悪魔!)

奴に黒い羽と尻尾が見える…とサーシャは苦い顔をした。


「アム、違くてよ?」

「え?」

トン、とイザベラがアムを座らせ顔を覗き込む。

「あなたがわたくしの手足。その素晴らしい技術でフレア様を導いて。そして私の手足だから、サーシャはあなたに仕えるの」

イザベラ様の手がアム様の頬に、そしてもう一方の手は彼の首を撫でつける。

美しい真紅の髪と、金の髪が重なり合い――

アム様も、私も真っ赤になってしまった。


「ベラちゃぁん…!」

うるうると彼は目を潤ませた。

「ふふ、理解してくれたかしら?」

「罪なヒト…アタシ頑張るわ〜!!だから手足じゃなくてベラちゃんの モガっ…!?」

「ちょっ、ドサクサに紛れてナニ言うつもり?お嬢様から離れなさーい!」


ドタンバタン、と実に賑やかである。

フレアが呆気にとられていると、ささ…とセバスが近寄り

「あれが平常なので、お気になさらず」

「え、ああ…そうなのですね…」

フォローとしては弱い補足を告げた。



「――さあ、舞台に上がるわよ」


ジャケットを颯爽と羽織り、好戦的に笑うイザベラ。

色気と危険な雰囲気が混ざり、アム、サーシャ、フレアは見惚れずにはいられなかった。


(お嬢様の方向性は、これで良いのでしょうか…)

セバスだけ、額に手を当てていたが、残念ながら誰も気付かなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ