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16.過去の夢

幼い頃は、何より好奇心が強かった。

あれは何か?何故こうなるのか?

何でも知りたくて、文字を学び城にある全ての書物を読み尽くした。

理解できない部分は著者と直接会い、討論もした。

知識欲が満たされれば、心も満たされた。



―ねぇ、第二王子殿下だわ。

―10歳でとても博識で、教える必要が無いそうよ。

―第一王子より優秀だとか…

―しっ…!下手なことを言ったら、王妃様に首を飛ばされるよ。

―そうそう、関わらない方が良いわ…



10歳で知識欲が満たされなくなった頃、虚無感が自分を襲った。

あれも知っている、これも覚えた…未知の知識を得られず満たされない、自分の心が荒れていく―

そんな時、剣の訓練が始まった。

知識の次は剣が、闘いが己を満たしてくれるようになった。

最初は純粋に楽しかった―



―いや〜2、3年で王宮騎手以上に強くなるとは…流石ハリス殿下ですな!

―身体もまだまだ大きくなるでしょう、それに比例して更に腕も磨かれるのでは?

―…ええ、最初は覚束おぼつかなかったのですが、身体の成長や筋肉の増強につれて、剣が扱いやすく自分が強くなっていくのが、わかりました。

―素晴らしい!王宮騎手だけでなく、国内の猛者とも渡り合っているらしいですね。

―まだまだ育ち盛りなのです、全ての猛者に勝つのもきっと時間の問題でしょうな!



高みを目指せば目指すほど、一人、また一人と自分と闘える相手が減っていく。

だが高みへ登り続けなければ、心は満たされない。

この頃から頻繁に、暗殺者も向けられるようになった。

よくある話だ。

正直、誰の差し金かは興味も無かったので斬って捨てる、それを繰り返すだけだった。

王族という肩書きを持って生まれたことに、溜息をつく。


苛立ち、焦り、乾き、虚しさ―

説明すら面倒な感情が渦巻いたまま生活する。


その日は雲一つない晴天で、どこまでも青い空をただ見上げていた。


そして、

『殿下、もし宜しければ手合わせいたしませんか?』

あの女性(ひと)が現れるー


最初は、女性だからと加減した。

するとそれを見抜かれ、彼女の木剣の重さが増していく。

(どこにそんな力があるんだ…尋常じゃない…!)

止まらない加重に、このままでは分が悪いと判断したハリスは一気に動きを加速させた。


木剣の音が激しくなるが、彼女に全て受け止められる。

そのまま続く打ち合いに、僅かな遅れを捉えハリスが大きく踏み込み―背中から地面にダイブした。


そこから先はスローモーションで、はっきりと覚えている。


まず、背中を地面に打った衝撃が身体に走り、胸が苦しくなった。

そのまませていると、イザベラの長い脚が自分の身体をまたぐ。

跨ぐ瞬間は官能的で、女性に初めて馬乗りされた記念日となった。


彼女が木剣を振りかざす―

その時、お互いの瞳が交差した。

恐ろしいほど真っ直ぐに、イザベラの瞳は自分の目を見ていた。

確実に、頭を捉えている。


(このまま、剣先は額を貫くのか―)


頭蓋骨が砕ける覚悟をする。

感情は読み取れないが、イザベラの顔はゾクリと身の毛立つほど真顔だった―


ズガン―!


木剣は、躊躇いなくハリスの顔の真横に突き立てられた。


『殿下、恐れ入りました。これほどお強いとは!』

『素晴らしい身のこなしで、しなやかな動きは見惚れてしまうほどでしたわ』


イザベラの弾むような声と輝く笑顔。

呆然としたまま、その背中を見送る。


(全く、勝ち筋が見えなかった…)


数回打ち合わせても力量すら測れず、わかったのは自分よりイザベラの方が遥かに強いという事実のみ。

もはや次元が違う。

今の自分では足元にも及んでいないだろう。


そう理解したとき、ハリスは打ち震えた―


女性でありながら、何故あれほど強いのか?

あの戦場にいるかのような目は何だ?

一体、何者なのか?


次から次へと、彼女に対する興味と疑問が湧いてくる。

一人の女性をこれほど知りたいと思ったことはない。


「イザベラ・フローレン」


からになりかけた心が、歓喜で満たされた瞬間だった―


-------------------



「イザベラっ!」

「お姉様あぁぁ…」


騒がしい声で目が醒める。

どうやらジオとリリアンヌが朝から乗り込んできた模様だ。

「な、何故 殿下とベッドを共に…」

「あらハリス様、起こしてしまい すみません。騒々しくてお恥ずかしいですわ。リリアンヌ、わたくしは大丈夫よ、心配させてしまったわね…」

「お姉さまぁ…おかえりなさいぃ…」

ぐすぐす、とすすり泣きするリリアンヌをイザベラは優しく抱きしめた。

硬直しているジオンのことは、見事にスルーである。

(そういう立ち位置なのか…?)


「ヨセフは?」

「早朝から出られました」

なんとなく、ハリスはヨセフと仲良くなれる気がした。

「イザベラっ…こ、これはどういう…」

「大変ですっ!!」

ズバーン!とメイドのサーシャが扉を開け放った。


「隣国から奇襲!前線に旦那様が出られます!並びにエスティア公爵家が全焼、公爵家全員の身元が不明です!」


瞬間、部屋に緊張が走る―


「うそ…」

リリアンヌが呆然と呟く。

「―イザベラ、俺は一度王宮に戻るが、どうする?」


フレア・エスティア、彼女はエスティア公爵家の長女だ。

(一晩で公爵家が全焼なんて、あり得ない)

昨日の事もあり気がかりだが、父ダリフが前線に出るならば、イザベラは領主代理として戻らなければならない。

「―イザベラ様、こちらはルーカスから話を聞いて調査します」

そっとハリスが耳打ちする。

「…ありがとうございます。ジオン、わたくしは早馬で侯爵家へ戻ります。リリアンヌ、貴女は馬車で気をつけてお戻りなさい」

「は、はい…」

「セバス、サーシャ、貴方たちはリリアンヌに付いてちょうだい」

「お嬢様一人で戻られるのですかっ?」

「ええ、馬が一頭いれば充分よ。今晩にはお父様と会わなければ」

長官のダリフが前線に加わるなど、滅多にない。

戦神と呼ばれる男を出陣させるほどの、何かが起きたのだ。

「い、イザベラお姉様……」

リリアンヌの声が震えている。

「大丈夫よ、セバスたちが貴女を護ってくれるわ」

「ちが…あの、…あれ…」

「『あれ』…?」

彼女が指差したのは、外の庭だった。

部屋から出ようとしたジオン、ハリス、そしてイザベラが その指の先に目を向ける。


そこには、不自然に赤茶色い[何か]があった―



ホラーのようになってしまいましたが、

幽霊とかではないのでご安心ください。

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